深夜。
父の日から日付が変わって暫く。
シビが帰った頃には家の者はすっかり寝静まり、強くなった雨音が暗闇の中に響いていた。
そんな中、一つ、明かりの漏れる部屋がある。
それが自室であることに僅か眉を寄せたが、その他に何の反応も示さず普段通りに戸を開けた。
「…………シノ…」
電気を付けたまま机上に突っ伏した息子に静かに声を掛ければ、ぴくりと体を動かして、のっそりと頭をもたげる。
「…………。……………おかえり……」
「………ああ…」
下がった眼鏡を押し上げながら言うシノに返事をし、そして『何をしている』という意味で小首を傾げる。
「……待っていた」
真意は『深夜になるが帰ってくると言っていたので、親父の帰りを待っていた』である。
省きに省いた言葉の後、シノはポケットの中から手にすっぽりと包める程小さな紫陽花色の包装紙を取り出し、シビに差し出す。
シビは黙ってそれを受け取り、器用に開けて中身を掌の上に取り出した。
「…………これは…？」
「眼鏡のストラップだ」
シビの問いに、シノは左人差し指でトントンと自身の眼鏡のフレームを叩きながら答える。
ストラップという聞き慣れない音にシビは眉を寄せたが、シノの仕草からそこに付ける飾りだということは
想像出来たので頷いて再び袋に戻し、自身のポケットに仕舞った。
「それを買った後、ヒナタに遇い、父の日の贈り物の選択と探索を手伝った」
「………そうか」
その一言には、『あの日向の娘が父親に物を贈る決心をしたのか』という意味が含まれている。
その証拠に、シビは続けてこう言った。
「渡せていれば、良いな」
シノは、こくりと頷いた。
「………ワシは昨日、アスマ君に遇った」
次は自分の番というように、シビが言う。
流石にそこから何があったか推察することはできず、シノは『それで？』という意味で眉を寄せる。
「ワシも、父の日の相談を受けた」
全体的に語弊があるが、核たる部分に違いは無い。
シノも、その核となる部分だけ理解して、頷いた。
そして、会話終了。
『もう寝なさい』とシビがシノの頭を撫でれば、『わかった』とシノが立ち上がる。
当然、そこに音声は要らない。

寡黙な親子はこうして、互いを再認識したのであった。



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おまけ

十数年ぶりに対峙したアスマとヒルゼン。
しかしいざ始めようという時、不意にヒルゼンが悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ところでアスマよ。シカマルには勝てたのか？」
「………」
やはり止せばよかったと、後悔したアスマだった。







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あとがき












（07/6/17）