あくる日。
父の日当日は、再びしとしとと降る雨模様。
昼間だというのに薄暗く、家の中までしっとりしている。
そんな中、雨戸を開けて屋根越しに灰雲を見上げていた三代目は、ふと部屋の外に訪れた気配に思わず口元を綻ばせた。
「……どうした。お前が来るなど、珍しいのぉ」
見透かしたような、楽しげな口調に、襖を開けて姿を見せた人物は気まずそうに顔を歪ませていた。
しかしすぐにひょいと肩を竦ませ、あきらめたように部屋に入り戸を閉める。
「俺が来ちゃ、何かマズイことでも?」
「いいや。なんにもありゃせん」
まだどこか楽しそうな様子の三代目。
アスマはその隣までゆっくり歩を進め、先程隣の人物がしていたように、屋根越しに空を見た。
音もなく、灰色の空から幾千もの筋が降ってくる。
「で。何の用じゃ」
暫く黙っていた三代目が、徐に尋ねる。
「それにその包みは…」
「なあ親父。久しぶりに勝負といこうぜ」
だが最後まで言う前に遮り、アスマはそう言ってふいと部屋の中に引っ込んだ。
畳の上にどんと置かれはらりと解かれた紫陽花色の風呂敷の中には、古ぼけた将棋盤と駒入れ。
それを見て、少しばかり驚いた表情を浮かべたヒルゼンだったが、ふっと、笑みを浮かべて目を閉じた。
「ああ、良いの」
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