渇望の続きです。




終い

将棋盤を挟み、シカマルと対峙しながらアスマは徐に言った。
「シノとヤッた」
駒を挟んだシカマルの指が空中で止まり、驚きの視線をアスマに向けたが、アスマは盤を見たまま。
「お前の言ったこと、真に受けてたぞ」
「‥‥‥‥マジ?」
やっと出た言葉は、タイミングのせいでどちらの科白に対してか有耶無耶になってしまった。
しかし、シカマルの心中は実はアスマが思うよりずっと困惑していて、タイミングのズレなど気にしていられなかった。
そんな時、タイミング良く呼び鈴が鳴る。
シカマルは慌てて浮いたままだった駒を進め、ばっと立ち上がった。
「ちょっと、行ってくる」
「おう」
部屋を出て行くシカマルを見送り、アスマは再び将棋盤に視線を戻した。


しばらくして、やっと戸が開かれる。
「遅いぞ、シカマル。次はお前のば‥‥」
顔を上げ言った言葉が、意図せず途切れた。
そこに居たのはシカマルではなく、サングラスと襟で顔を隠した少年。
「シノ‥おま‥‥なんでここに‥」
「‥‥‥シカマルに呼ばれました」
唖然とし目を丸くしたアスマに対し、シノは少し眉間に皺を寄せただけで普段と変わらない口調で答える。
それから暫く。沈黙が、部屋を支配した。
いつまで経ってもシカマルはやってこない。
あの夜以来、会ったのは初めて。
アスマは、気まずさに吐き気がした。
「‥‥あの時は、勝手に帰ってしまってすみませんでした」
唐突に掛けられた言葉に、アスマはシノを見た。
シノの方は少し下を向いていて視線が合うことは無かったが。
なんでこいつが謝るんだ、思う。
サングラスに、無愛想な様相はやはり威厳と迫力がある。
どこまでも落ち着いた様子は、全て剥ぎ取った後とまるで別人だ。
なんで、そんなに落ち着いて、お前が謝ってんだ。
それが、アスマには気に入らなかった。
「悪者は、俺だろうが」
呟くと同時に、音もなくシノの背後へ移動して抱き込む。
「!?」
一瞬のことに少し反応が遅れたが、しかしすぐにシノはアスマの腕を掴みはずそうと藻掻いた。
だが、頑丈な腕は固定されたように動くことはなく、藻掻いている内にアスマは行為を進めた。
大きな襟口から片手が侵入し、指先が胸の突起をつく。
「ぁ…」
シノの身体がピクンと跳ねた。
「アスマせんせ‥!」
「ここが弱えのは知ってんだ」
そう言ってアスマは手を広げ左右を同時に刺激する。
「や……だめ…」
逃れようとするが、後ろから抱き締められ完全に捕まっていて術がない。
「~~~~~~~~!!」
アスマの指が執拗に胸の突起を転がす。絶え間ない刺激にビクビクと身体は跳ね続ける。
シノは感覚で、自身がはやくも先走りしたことに気付いた。
それをアスマに勘づかれまいと脚を強く閉じたが、逆にそれがアスマの目についてしまった。
「なんだ、もうキたのか?」
アスマはもう片方の手をズボンに差し込み、中心部を確かめる。
「………っ…」
羞恥心に、顔が熱くなった。
これ以上の辱めは耐えられない、と一瞬の隙をついてアスマの手から逃れる。
障子戸を背にして、今日はじめてアスマと真っ向から視線がぶつかった。
しばらく睨み合った後、警戒したまま踵を返す。
「おい、そのまま帰る気か?」
少しぎごちない足取りのシノに、アスマが声をかけた。
「厠で、ぬいていく」
答えて、シノは戸に手をかけた。
しかし次の瞬間、天と地がひっくり返る。
「その必要はねーよ」
気付けば畳みに押しつけられ、アスマの下敷きになっていた。
抵抗する間もなく、アスマの手によりズボンをずり下ろされ、先走りに濡れた先端が露わにされる。
「!やめ‥」
やっと状況を理解したシノが慌てて制そうとするが、アスマは聞かず、問答無用で先端を舌で舐めた。
「!!」
シノが仰け反る。
それにかまわずアスマは更に口に銜え、愛撫を始めた。
逃げないように細腰をしっかり捕まえて、的確に欲を引き出していく。
「ん…ぁ…、あ、あ、あ‥‥!」
どんどん昇っていく欲に、シノは羞恥心と抵抗力を快楽に奪われていくのを感じた。
「‥‥ダ、メ‥‥も‥‥‥」
思わずアスマの頭を掴み、しがみつく。
「んっ…!」
耐えきれずに吐き出された欲をこぼさず飲み干し、アスマは顔を上げて頭に抱き付いていたシノの腕を解いた。
先程までの平静は影を潜め、情欲と熱と羞恥に顔を赤らめ吐息を漏らすシノの表情に、アスマは満足そうに口の端を上げる。
「ごっそさん」
そう言った途端、シノの眉間に皺が寄った。それとほぼ同時に、膝がアスマの顎に見事にクリーンヒット。
流石に効いたらしく、アスマは呻きながら顔を覆ってうずくまった。
その間に、戸が開いて走り去る気配。
その気配が完全になくなるまでうずくまったままの姿勢を貫き、消えたことを確認するとのっそりと起きた。
治まってはきたがそれでもまだ痛いらしく、顎を押さえたままだ。
「いつまでそこにいる気だ、シカマル」
開いた戸の陰に、言う。
すると、耳を赤らめたシカマルがひょこっと顔を出した。
「別に‥いたくていたわけじゃねー。‥‥‥入れなかったんだよ」
「お前があいつを呼んだんだろ」
「ああ。‥‥あんたの反応見たくて‥でも‥‥」
シカマルは言葉を切り、シノが走り去った方向を見る。
「まさかヤッた後だとは知らなかった」
しかしそれにしたって‥‥と再びアスマに顔を向けて言う。
「もっと他になかったのかよ。もうちっと愛のある、言葉とか態度。せっかくお膳立てしてやったってのに‥‥」
「だから。立てられた膳は有り難くいただいたろ」
「阿呆か。今のじゃ絶対嫌われたぜ?」
呆れ顔のシカマルから顔を背け、アスマはしばし黙った。
それから徐に煙草を取り出す。
「いいんだよ」
マッチを取り出そうとがさごそ衣服を探りながら、静かに呟いた。
‥‥‥‥いいんだ。これで。
ひょいと銜えていた煙草を取り上げられ、しかめっ面を上げると、シカマルが仁王立ちして煙草を揺らしている。
「禁煙」
「ちぇ‥わかったよ。それより、ほれ、次はお前の番だぞ」
誤魔化すように将棋盤の方にまだ少しじんじんする顎をしゃくる。
シカマルが座席に戻ると、アスマもゆらりと立ち上がった。
ちら、と開いたままの戸を見る。
「これで、終いだ」
障子戸をぱたんと閉め、アスマは再び、シカマルと対峙した。











(07/2/20)