渇望
「―――っ―」
「いてーか?」
首を左右に振るものの、シノは涙が零れるのを抑えることができなかった。
その涙をアスマが舌で舐め取ると、ビクッと反応する。
「……んな怖がんなよ」
「こわ、がって、など…いない」
「じゃあ、強がんな」
アスマに上手いこと返され、シノは押し黙った。
こんな夜の情事に至った経緯は、いたってシンプルだ。
散歩中に偶々アスマと出会い、家に誘われて付いてきたら要求され、それを承知した。
「今更だけどよ。お前、なんでOKしたんだ?」
本当に今更な事を、アスマは真顔でシノに尋ねた。
シノは暫し苦しそうに息を整えてから、アスマの顔を見て答える。
「……シカマルが………」
「シカマル?」
「最近、あなたが欲求不満、だと……」
「ぁあ!?」
「んっ……!…」
シノの予想外の答えに、つい詰め寄ると、動いたせいでシノが強い反応を示した。
「あ。わりぃ…」
「い…や……。…シカマルに、以前、俺が色っぽく見えると、言っていた、と」
「あ~…確かに、言ったな」
「男に対して、そう、思うのは、欲求不満の、症状だと…」
「症状って…病気かよ」
「で、もし要求されたら、よければ、つきあってやれ、と……」
「………」
「任務に、支障がでないように………」
と切れと切れに、しかし淡々と語られる理由に、アスマは物も言えず項垂れた。
やっと絞り出せたのは、「あの野郎…」という押し殺した呟き。
不思議そうなシノの視線を受けているのに気付くと、その視線を返しながら大きく溜め息をついた。
「……お前は、それを信じたのか?」
「…?……ああ。俺は、その手の話はまるきり知らない。……間違っているのか?」
「色っぽく見えると言ったこと意外、全部嘘だ」
「ウソ………」
「俺は、欲求不満でお前を色っぽいと言ったわけじゃねーし。任務に支障なんてもっての外だ」
アスマの台詞に、シノが、普段サングラスに隠されている綺麗な色の瞳に動揺を滲ませたのがわかった。
「シカマルに一杯食わされたな」
にやりと苦笑いを浮かべると、アスマの所作のせいで染まっていた頬を更に紅潮させ、気まずそうにぷいと横を向いた。
「…………では、なぜ男の俺にこんなことをしているんだ」
色白の顔に朱色を浮かべ、瞳を潤ませ、華奢な身体をさらけ出して、拗ねた様な声を出す自分が、どれほど扇情的かまったくわかっていないらしい。
そうでなくとも、普段の全てを覆い隠す格好からちらりと見える眼や白い項、鎖骨だけでも充分煽るのに。
「なんでって、そりゃあ…お前を犯したいと思ったからだろうな」
アスマの率直すぎる回答に、シノはぎょっとしてアスマを見た。
「欲求不満だからじゃねぇ。男だろうがなんだろうが、お前の、この白い首筋に、服の下の肢体に、触れたいと思った」
「あっ……や…ぁ…!」
言いながら舌を這わせる。再度の蹂躙、しかも今度は欲求不満解消という名目ではない正真正銘の愛撫に、シノは焦った。
が、両腕は封じられ、脚はすでに動かせない。
「まっ…やめ…て…」
「勘違いでも、承諾したのはお前だぞ、シノ。それにどっちにしろ、やるこたぁ同じだ」
抵抗し始めたシノを裏目に、アスマの欲は高ぶった。もう、我慢できない。
「動くぞ」
今度はシノの同意を得ることなく、アスマは容赦なく突き上げた。
「…っ、ぁ…ン!……」
「……もっとだ…」
「ア…ス……マ…せんせ…ぇ…あっ!」
「…もっと」
「あ、あ、あ、あ、あ、」
「もっと」
「あっ、あっ!!…っ…も…だ
め……!!!」
「――――――っ!」
シノの吐き出したモノに汚れ、シノの中を自分で汚すと、アスマはもう一つの理由を唐突に思い知った。
そうか…。俺がこいつに惹かれたのは……。
「もっと、声、あげろ」
黒眼鏡も、覆い隠す衣服も、落ち着いた態度も声も。気に入らなかった。
それらを全て、剥ぎ取って、壊して、さらけ出して、露わにしたかったのだ。
「もっと、乱れろ」
荒く呼吸をし、涙を流し、取り乱すシノに囁く。
うっすらと瞼が持ち上げられ、嫌がるような瞳が覗く。それが逆に誘っているとも知らないで。
やっぱ、色っぽいな……。そんなことを思い、無意識に口角が上がる。
これは、礼としてシカマルに団子でも奢らないとな、等と思いつつ。
「きれいだぞ。シノ」
と、アスマは罪作りな眼を閉じさせるように、瞼に優しく口付けた。
おまけ(裏な内容ではありません)→
(07/2/20)