朝。
目を覚まして暫し呆けた後、自分の腕の中で静かな寝息を立てている少年に昨晩のことを鮮烈に思い出す。
結局自分が満足するまで、かなり無体をしてしまった。
こんなに鬼畜だったのかというショックと罪悪感に後悔の念を抱くが、胸元に当てられたあどけない寝顔と皮膚を微かにかする吐息に、手離せないと強く思う。
髪に手をやりすい、思ったより長めのそれを指に絡める。
しばらくそんなことをして遊びながら、承諾の上とは言え途中から無理矢理犯した身体を見やり、自身が残した数多くの痕跡に顔をしかめた。
そのひとつひとつに謝罪の感をもって掌を当て、撫でてゆく。
小さな頃にあった、痛いの痛いのとんでけ、という呪文を思い出した。
「痛かったろ‥‥悪かった」
呟いたが、赦されないのはわかっている。
掌の撫でる感触か、呟きのためか、シノが小さく動いて目を覚ました。
数度瞬きをしてから寝惚け眼で視線を上げ、アスマと視線がかち合う。
その瞬間目を見開き、微かに顔と身体が強張った。
シノのその反応に、わかっていても胸が痛む。
アスマはシノから身体を離し起き上がり、ベットに腰掛けて背を向けた。
「‥‥‥‥‥飯つくるが、なんか、好きなもんあるか?」
一呼吸置いて考えた末の科白がこれで、自分でも情けなくなった。
今度こそ直に謝るべきだが、それもできない。
しばらく沈黙が舞い降り、どうしようかと内心焦り始めた時、掠れた声が聞こえた。
「‥‥野草サラダ‥‥」
「野草‥?」
‥‥‥‥‥‥‥‥て、何だ?
「あ~‥‥普通のサラダでいいか?」
「‥‥‥はい」
なんだこの会話。と思いながらもそのまま振り向かずに寝室を出て、キッチンへ向かう。
冷蔵庫の前で、アスマは静かに息を吸い、吐いた。
なんか、もの凄く緊張する。
こんなことになるなら我慢していれば良かっただろうか。
しかし、いくら後悔しても時間は戻らないし、何より戻ったとしても我慢出来なかったであろうことは自分が一番分かっている。
アスマは冷蔵庫に入っていたレタスやトマト等の野菜を適度に分け皿に盛り、ついでにソーセージも三切れ添えた。
それから、抱いて思い知った線の細さを考えて唐揚げも二個追加する。
だが、持っていった時にはすでにシノの姿はなく、寝室の入口で立ち尽くしてしまった。
「‥‥‥‥‥‥やられた‥‥」
大きく溜め息をつき、サラダ皿を持つ手とは反対の手で頭を押さえる。
その時ふいに目に入った白い紙切れ。
ベットの棚に置かれたそれを手に取って見ると、滅入った気持ちが更にへこんだ。
『帰ります』
と律儀に残された書き置きだった。
アスマはしばしその場で固まっていたが、徐に紙を元の場所に置き直し、キッチンへ戻る。
サラダをテーブルに置いて、煙草を探した。
が、無い。
いくら探しても、見つからない。
おかしい、と思っていると、ぱっと甦る記憶。
‥‥‥‥‥‥そうだ、いのに没収されたんだった。
「くそっ」
そしてもう一つ、追い打ちをかけるように重大なことを思い出した。
「飯、炊いてねぇ‥‥」