シカマルは、病院のベッドに寝そべりながら、ボケッと天井を見つめていた。
骨折した右足は吊されていて、身動きもままならない。
まったく酷い目に遭ったものだと、最早怒りもなく思う。
他の入院患者は診察やらリハビリやら散歩やら、その他諸々の事情で出払っており、今病室にはシカマルしか居ない。
横のテーブルに目を遣れば、チョウジからの見舞い品であるフルーツバスケットと、いのからの見舞いの花が飾られている。
バスケットの中身はメロンやらリンゴやらけっこう豪勢だが、今のところバナナ以外手付かずで、結局は持ってきた張本人であるチョウジの胃袋に入ることになるだろう。
そしてその横の、将棋盤の上には、サイがカカシから借りたという『女心早分かり読本』が置かれている。
ナルトがサイから取り上げて、嫌がらせに置いていったのだ。
勿論、開くどころか触れてもいない。シカマルはサイと違って、女心など分かりたくもないのだ。
「……たく、メンドクセェ…」
「何が面倒臭い」
「あ…?」
溜め息と共に零れる口癖。
するとそんな独り言に、思わぬ受け答えが返ってきた。
頭だけ浮かせて見れば、なんとシノとネジが入口に立っている。
「………何でお前らが来るんだよ。しかも一緒に」
シノとネジは何だかんだで気は合うらしく、皆で集まったりした時には話したりしているようだが、こういう何もない日には珍しい組合せだった。
「チョウジに聞いた。ネジとは行きがかり上だ」
「そう言うことだ」
シノの簡略した説明に、ネジが便乗する。
シカマルは「チョウジの奴…」と口を尖らせながらも、腕を突いて上体を起こした。
「これはいのに買わされたものだ」
シノがそう言いながら、抱えていた花束をテーブルに置く。
花束と言っても、紫色の花の周りを黄色い花が点々と彩り、後は控え目な色合いの草花が引き立てているような、地味なものだ。
「フツーに見舞いって言やぁ良いじゃねーか」
「俺は事実を言っただけだ」
「お前……嘘も方便って知ってるか?」
非難の眼差しを向けてシノに文句を言うシカマルに、ネジがフフと笑う。
「何だよ」
笑うネジに非難の目を移せば、ネジは「いや…」とやはり楽しそうにしながら、
「とんだ災難だったようだな」
と話を逸らした。
「ああ………全くだぜ」
シカマルが、憮然としながらも言う。
「だが、良かったじゃないか。事件は無事解決に向かっているのだし、ちょうどいい休みだろう」
「休むならもっとちゃんと休みたいね。こんなんじゃロクに将棋も指せねぇ……って、お前は何やってんだよ」
シカマルはふと見た先で、シカマルの相手をネジに任せて『女心早分かり読本』の頁を捲っていたシノに気付き、呆れた声を出した。
「それは、サイが持っていた本か」
「ああ、ナルトが置いてったんだ。シノ、興味あるなら持ってけよ」
ピンク色の分かりやすい表紙にネジも気が付き、シカマルは投げ遣りな態度で言った。
しかし言ってから、少し後悔する。シノが本当に興味を抱いて持っていってしまったら、何か色々ダメージだ。
そしてその可能性がゼロと言い切れないのが……何とも言い難い。
けれどシノは「否、いい」と言って本を将棋盤の上に戻してくれたので、シカマルは思わずほっとした。
が、それも束の間。
「これは昔、読んだことがある」
と、シノは言った。
((読んだことがあるのか…))
シカマルが口を噤み、
ネジが視線を彷徨わせ、
不自然に沈黙した二人に、シノが眉を顰める。
そんな空気の中に。
「よお!」
突然入って来たのは、キバだった。
「あの、お邪魔します……」
「ワンッ!」
その後ろからヒナタと赤丸もやって来て、嫌な空気が拡散する。
「お! やっぱ居たな、シノ! いつ帰ってきたんだよ」
「今朝だ。……見舞いか?」
「ナルトのな。でも、シカマルの匂いもしたし、お前の匂いもしたから先にこっち来てみたんだ。ヒナタがナルト見て気ぃ失う前によ!」
「キ…キバくんっ!」
空気を見事に蹴散らしてやってきたキバが、ニッと笑う。
ヒナタはそんなキバの言葉に顔を真っ赤にし、大慌てで止めに入ったが、必死の声はキレイに聞き流されて…。
「で、シカマルは何でこんなことになってんだ?」
と、キバにさっさと話題を変えられてしまった。
赤面した顔のやり場を無くし、赤くなったことに更に恥ずかしくなって、益々赤くなるヒナタ。
「………大丈夫ですか、ヒナタ様」
「ネ…ネネネネネジ兄さんっ!!!」
ネジは助っ人に入ったつもりだったのだろうが、その助け船が逆効果となったらしい。
ネジに見られていたと知ったヒナタは最紅潮に達し、ボンッと顔から火を出すと、ふうぅぅと意識を失っていった。
「ヒナタ様?!」
「ああん?」
倒れ行くヒナタにネジが慌て、キバが振り返る。
赤丸が、心配そうにクゥンと鳴いた。
「…………メンドクセェ…」
一部始終を眺めていたシカマルは、様々なものをひっくるめて、そう呟いた。
その後。
ヒナタが意識を取り戻したところで、シノがシカマルがこうなった経緯を簡単に説明すると、キバは大いに笑った。
一頻り笑い、シカマルをからかい終えると、じゃあ今度はナルトを見舞ってやろうと無駄に意気込む。
「シノ、お前も行くか?」
嬉々として問うキバに、しかしシノは相変わらずの無愛想で、「否、俺はいい」と断わった。が。
「その代わり、ネジを連れて行け」
と、何を思ったかネジを代わりに差し出した。
「なに…?」
驚いたのはネジである。だがシノは、何か問題があるか、と態度を崩すことも無く。
「時間はまだあるのだろう。どうせ来たのだから、ナルトのところにも寄っていけ」
「…………」
ネジは断る理由が見つからなかったのか、口を閉ざした。
「おうし、じゃ、行こうぜ! ああ、そうだシカマル」
ネジの同行が決定したところで、キバが仕切り直す。
だが部屋を出る前に、思い出したように言った。
「今度こそ、ぜってー奢れよな」
「あ…?」
「焼き肉だよ、焼き肉。またやるんだろ? 快気祝い」
一週間前、『ナルトとサイの快気祝い』と称して行われた焼き肉パーティ。
ナルトが「シカマルの奢り」と公言したそれは、しかし主役達がサクラによって連れ戻されたため、結局はただの食事会となった。
そしてその勘定において、シカマルは奢ることを断固として拒否し、「約束させられていたナルト達はともかく他の連中まで奢る義理は無い」と言い張って、何とか割り勘にしたのである。
その事と、先程聞いたシカマルの怪我の発端を合わせて、キバは言ったのだ。
「だから、奢らねぇって言ってんだろ。つーか快気祝いって言うんなら、俺は奢られる方だろうが」
シカマルが憮然として言い返せば、キバは「俺は奢んねーよ」と笑って言い、赤丸、ヒナタ、そしてネジを引き連れて部屋から出て行った。
騒がしいのが居なくなり、人も減って、病室は静けさを取り戻す。
「………お前はアスマ先生と同じく、集られるタイプだな…」
戻ってきた静けさの中、ボソリと言うシノ。
「お前もたかろうとした一人だろうが」
シカマルが睨めば、シノは誤魔化すようにズレてもいない眼鏡を押し上げて黙した。
「……………で?」
何となく、フルーツバスケットの中からリンゴを取り、手で玩びながら、シカマルは口火を切った。
「俺に、何か用があるんだろ? だからネジまで追い出した…違うか?」
「………」
何故わかったと無言で問うてくるシノに、シカマルが皮肉っぽく笑ってみせる。
「今朝帰ってきた奴が、たまたまばったりチョウジに出会して俺の現状を知り、見舞いにきた…ってのも、考えられなくないがよ。
でもそれよりも、もともと俺に用があって、チョウジに俺の居場所を訊いたらココだってんで、見舞いがてらやってきた…って考えた方が自然だろ?
それにお前、見舞いに来るだけならキバ達誘って来るだろうが」
行きがかり上ネジが一緒に来ることになったのは、予想外の出来事だったのだろう。
シカマルの推理に、シノは僅かに肩をすくめた。
「用と言うほどの用でもないがな」
「……何だよ」
シカマルが、リンゴを弄るのを止める。
シノは少し、間をおいてから口を開いた。
「お前は……先日の事件と、任務について、どう考えている」
先日の事件とは卑留呼の件であり、任務と言うのはナルト達を連れ戻す任務のことだ。
「どう…って」
「結局、結果的にあの任務は失敗に終わった。俺たちは、ナルトを止めることができなかった」
「それは……」
シカマルは少し言葉を切ってから、ゆっくりと、記憶をなぞるように言った。
「…………ナルトは…アイツは、言ったんだ。里の…子供たちに残すべき、一番大事なものを守らなきゃなんねぇんだ、って…」
「………」
「未来の子供たちが、信じ、誇りと思えるような…そんな木ノ葉の里を…大好きな、木ノ葉の里を……守ってやりてぇんだって」
「………」
「俺は……五代目が…火影が間違っていたとは思わねぇが…」
シカマルは言いかけて、口を噤んだ。
そして、口を挟まずただじっと聞いているシノを見て、ふっと困ったような笑みを浮かべた。
「否……間違いだったと思ったんだ。俺が間違えてたんだって。形だけ守ったって、意味ねぇんだ。アスマが守りたかったのは…
俺が託された、守らなきゃいけなかった玉は……この里が大好きだって、胸を張って言える、そんな未来の子供たちだったんだ」
「………」
「ナルトに教えられたってのは癪だけどな。でも、俺は……」
両の手の平に包み込んだリンゴを見つめ、言葉を切るシカマル。しかし意を決したように顔を上げたシカマルは、シノを真っ直ぐに見て、言った。
「ナルトが正しかったと思う」
自分の過ちを認め、他人の正しさを認めることは、簡単なようで難しい。けれどシカマルは、シノを見て、淀み無く言った。
自身のプライドや火影への敬服を損なう結論だとしても、正直に言うべきだと思ったのだろう。
シノのために。そして、自分のために。
「……そうか」
シノはそんな覚悟の回答を聞いても、眉一つ動かさなかった。
「なら、いい」
ただ真っ直ぐなシカマルの返事を、ひたすら真っ直ぐ受け止める。
しかしその対応に、眉を顰めたのはシカマルだった。
「何だよそれ。ぜんぜんよくねぇぞ。用って、それだけか?」
「だから、用と言うほどの用では無いと言っただろう」
「だからって、そりゃねぇぜ。俺だけ告白させる気か? 人に尋ねんなら、自分もしゃべれよ」
「………」
「お前は、どう思ってんだ?」
今回。
シカマルの側に立ち、サポートしてくれたのはネジとシノだった。
いのとチョウジはシカマルを信じ何も言わずに付いてきてくれたが、他の、特にリーやキバ、ヒナタなど、ナルト寄りの人間を抑えてくれたのはこの二人だ。
ネジは…多分、今回の結末に不満は無いのだろう。
任務は任務、里のためにというシカマルの意志も理解した上で、それでもきっと、運命を打ち壊したナルトを賛しているはずだ。
里のために誰かが犠牲になる…そういう事を、おそらくナルト以上に厭うているのはネジだろうから。
しかしシノは、ナルトともネジとも、そして自分とも違う。
恐らく、仲間内の中では、最もナルトと対照的な意見を持っているのではないだろうか――と、シカマルには思えた。
ナルトと違いその考えを前面に押し出すことはしないが、ナルトと同様に、その信念には揺らぎがないように思える。
「俺は……」
シノは、慎重に、だが簡潔に言った。
「お前が間違っていたとは思わない」
言い放たれた返答に、シカマルは少し驚いた。
まさか自分がシノに擁護されるとは、思わなかったのだ。
「言ったはずだ。火影の命に従うことは、木ノ葉の里の……忍の掟であり、火影の命令は絶対だ。ナルトの気持ちも判る。お前の考えも判った。だが、俺の意志はナルトともお前とも違う」
「お前の意志………って…?」
「…………」
シノは暫し押し黙ったが、徐に、口を開いた。
「種を存続させる事だ」
シカマルは、一瞬、固まった。
「…しゅ………?」
「そう、種だ。同種同類と認識し合う個体の集合であり、形態・生態・分布域などに共通性を持つもの……即ち、家族であり、仲間であり、この木ノ葉の里だ」
「それって……俺やナルトと何が違うんだよ」
シカマルには、ただ言い方が違うだけにしか思えなかった。だがシノは、根本的な見方が違うと言う。
「お前は、形だけ守っても意味が無いと言った。しかし、俺はそうは思わない。何故なら、形が無ければ元も子も無いからだ。
お前達の言う『大事なもの』が解らないわけではない。一人の仲間を犠牲にして他の仲間達を守るやり方が、人として、正しいとも思わない。
だが、何よりも優先すべき『一番大事なもの』は、俺にとってはこの里の『存続』だ。
蟻や蜂…群を成し、巣や縄張りを持つ虫は、どんな犠牲を払ってでもそれを守る。卵や幼虫、女王を、命を懸けて守る。
だが奴等にとってそれは、犠牲でもなければ英雄的行いでもない。それは極自然な、当然の行為だ。シカマル……
お前は、多くの仲間を犠牲にして助かった、巣や女王を非難するか」
「…………」
シカマルは、暫くシノを見つめていた。そしてポツリと、言う。
「……シノ…それって、お前のことか?」
シノは肯定しなかったが、否定もしなかった。
「………俺は、何かを犠牲にすることを非難できない。何故なら、それを非難してしまったら、我々油女一族の在り方そのものを非難することになるからだ」
シノのセリフに、ああやっぱりと、シカマルは思う。
油女一族は蟲使いだ。
シノは、蟲という仲間の命を犠牲にして、巣である自身や、里の仲間を守ってきた。
ナルトのように、仲間を犠牲にして里を救う方法に、疑問を持つことが許されない。
それが間違った事だと言ってしまったら、シノ達はその生そのものを否定されてしまう。
「シカマル」
シカマルは、呼ばれてはっと我に帰った。
シノは眉間に皺を刻んだいつもの表情でシカマルを見据えていたが、口調はいつにも増して厳しいものだった。
「ナルトの言う通り、確かに、何かを犠牲にして形だけ守ったところで、残された者は辛いだけだ。だが、それは一時の事。
時が立ち、世代が変われば、それは自らを犠牲にして里を救った、紛れもない英雄となり、子供たちの誇りとなるのではないか」
「それは……」
「今回は、確かにナルトの行動によって、一人の犠牲者も出さずに里を守ることができた。それは俺も、良かったと思う。
だが、だからと言ってナルトが正しく、火影様や俺達が間違っていたとは思わない。何故なら、ナルト達の勝手な行動により、
事態が悪化した可能性も十分にあったからだ。一人の犠牲者どころか、大勢の死傷者を出したかも知れない。
もちろん、子供たちも含めてだ。もしそうなっていたら、誇りを持つどころか、子供たちの未来は滅茶苦茶だったろう」
「…………」
「掟は、里を守るためにあるものだ。一人が犠牲になることで敵を倒す……それは、カカシ先生や火影様が、
最も高い確率で里を守れると考え、決断した方法だ。それが間違っていたとは、俺は思わない。
里が忍を殺すのは里の存続のため。掟に従い、仲間を見殺しにするのも里のため。そして忍が里のために死ぬのは、当然の事だ。
その事に対する人としての恨み辛みを、忍は持つべきではない」
「…………」
シノの意志は、シカマルの予想を超えていた。
シノにとっては、人は人、忍は忍であって、忍は人ではないのだろう。
そしてシノにとって、里と忍の関係は、そのままシノと蟲の関係だ。
シカマルが見つめる先で、シノはテーブルに置いた、花に触れた。
「……アイツは失敗する事を考えない。最悪の展開を想定しない。だからこそ奇跡のような事を起こせるのだろうが、それはある意味ギャンブルだ。
そんな危ういものに里の命運を賭けるのが正しいとは、俺は思わない。………俺は今でも、俺たちはナルトを殺してでも止めるべきだったと思っている。
何故なら、任務が失敗して良かったと言うのは、結果論に過ぎないからだ」
ブチリと、シノの指がワレモコウの花を抓み取る。暗紅紫色の、花びらのように見えるガクの集合体。
本物の花びらは退化している、花らしくない花。
真ではない。しかしこれを、偽と言うべきか。
「俺も、そう……思った…」
殺してでも、止めてやると。
「でも……」
できなかった。
しなかった。
「お前は、それほど非情にはなれない」
一変した、穏やかな声だった。
シノが、シカマルの手の内にあったリンゴを取り上げ、代わりにワレモコウの花を落とし入れた。
リンゴは不和を表し、後悔を孕む。
ワレモコウは変化と、移りゆく日々の意味を持つ。
「なる必要も無いだろう。……シカマル」
手の中に落とされたワレモコウの頭を見下ろしていたシカマルが、呼ばれて顔を上げる。
「玉の守り方は、一つではない」
「…………」
「ナルトの信念は理想的だし、どんなに低い可能性でも、アイツはそれを実現する。だが、それは一つの打ち方に過ぎない」
「…………」
「シカマル。お前は頭が良いのだから、もっと多くの方法を考え、自分の見出した方法で玉を守れば良い。お前はお前の火の意志を持ち、お前の忍道を行くべきだ」
「………シノ…」
「突っ走るのがナルトの役目なら、俺達には俺達の役目がある。アスマ先生の火の意志を継いだのは、いので、チョウジで、お前だ。
だが誰も、アスマ先生にはなれない。受け継いだ火をどのように燃やし続けるかは、お前次第……」
シノの手が、シカマルの目を塞ぐように覆い、額に触れる。
シカマルはその手に、自然と目を閉じた。
「そしてそれもまた、立派な火の意志だ」
開ける視界。
「………と、言うのが、俺の個人的な意見だ」
滔々と語ったシノの締め括り。
ポケットに手を戻し、眉間に皺を寄せているシノを見て、シカマルは微笑った。
そろそろ行くと言うシノを、ちょっと待ったと止めて荷物をまさぐる。
そうして見つけたライターを、シカマルはシノに差し出した。
「悪ぃけど、アスマの墓参り、行ってきてくれねぇか? 騒動が収まってから、まだ行ってねーんだ。……ほら、病院抜け出すと、いのとかサクラ恐ぇしよ」
最後、小声で付け足された言葉に、シノは微かに頷いた。
「わかった。任務は失敗したと報告しておこう」
「…………いや…」
こいつ何気に根に持ってるな、とシカマルは秘かに思ったが言わずにおいた。
「だから、嘘も方便ってのを……や、嘘吐けとは言わねーがよ。せめて木ノ葉は無事だとか、その辺で頼む」
シカマルの依頼に、シノは解ったと言った。
「……ところで、煙草は無いのか」
「持ってねぇから、途中で買ってくれ。代金は後で払う」
「……否、いい。代わりにこれをもらって行く」
シノが、手にしていたリンゴを見せて言う。
「もらいモンだぜ?」
「かまわない。……では、大事にしろ」
「おう」
手とリンゴをポケットにしまい、去っていくシノ。
その後ろ姿を見送りながら、シカマルはもう一言、声を掛けた。
「……シノ」
振り返るシノに、ちょっと笑みを浮かべてみせて。
「ありがとな」
用と言う用も無く。
ただ、心配して来てくれたのだろう。
「礼には及ばない。何故なら………ただの、暇潰しだ」
そう言い訳をして、シノは部屋から出ていった。
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