キバシノ、同棲生活~夕方~
「シノ」
紅の呼びかけに、シノが一つ頷く。
片付いたという無言の報告に、紅は一つ息を吐いた。
「では、後始末を終え次第、里に戻る」
「はい」
今度はきちんとした返事を返して、シノは再びその場から掻き消えた。
山々が夕陽により真っ赤に染まる頃、帰路に付いた紅とシノは、僅かに緊張感を解いて歩を進める。
そんな中、ふと、紅が言った。
「そう言えば、あなたキバと同棲始めたって言ってたわね」
「……はい」
「どう?」
「……………キバの寝起きが悪くなった事以外、特に問題ありません」
少し間を空けたシノの返答に、紅が首を傾げる。
「寝起き…?」
「ここ数日、日課である赤丸との散歩を怠っています。もし習慣に復帰しないようなら、躾し直さなければなりません」
「躾って、あんた……」
犬じゃないんだから…と思いつつも、あまりに淡々としたシノに、言う事はしなかった。
「……シノ、あなたは何か変わりないの?」
話をシノにスライドして問えば、シノは考えるように僅かに首を傾げる。
「……………ベッド……」
「……え…?」
「今までずっと布団で寝ていたので、弾力のあるベッドはなかなか面白いです」
突然飛び出した単語に一瞬ドキッとした紅だったが、相変わらず淡々としたシノの答えに脱力する。
ベッドが面白いなんて、始めて聞いた感想だ。
もし言うとしても、小さな子供がトランポリンの如く飛び跳ねて遊んでいる場面しか思い浮かばない。
「……………そう…」
やっぱりこの子、ちょっと変だわ。
と、改めて実感した紅であった。
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