遊馬vs案山子

休日の午後。
シノは南中した太陽をサングラス越しに見上げてから、薄暗い店内に目線を落とした。
忍具専門店の店内はカウンターに身を置いた初老の男唯一人。
それに何の感想も抱かず、ただ認識してシノは店に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
という店の老人の声掛けに軽い会釈を返し、真っ直ぐにクナイの棚に向かう。
武器の中でも、消耗品のクナイは余分に持っていないとすぐに切れてしまう。
今日は、その補充用の物を買いに来たのだ。
「よぅ。買い物か?」
先程まで、確かに誰もいなかった店内にふと現れた気配。そして声。
「……アスマ先生」
振り向くと、10班の担当上忍猿飛アスマが、くわえ煙草を揺らしながらにっと笑っていた。
「はい。…アスマ先生もですか」
「いや。俺は修理頼んでた鎖鎌を取りに来たんだ」
そう言えばここは武器の修理も取り扱っていたな、と思い出し、ふと思った。
「鎖鎌を使うんですか」
アスマの使う武器は、チャクラ刀が主。他の、鎖鎌等の武器を持っている姿をシノは見たことがなかった。
「実戦じゃあ、滅多に使わねーな。チョウジの修行に使ってんだ」
シノの問いにその真意を汲み取り、アスマはシノの正面に立って笑って答えた。
アスマの答えに、なるほどと呟く。
「そうだ、シノ。もし昼飯まだなら、一緒にどうだ?」
納得顔と取れなくもない表情のシノに、アスマは唐突に言った。
「暇なら、その後手合わせってのもいいだろ?」
更に付け加える。
ご飯の誘いだけでは乗ってこないかもしれないが、修行の相手をすると言えば、可能性は格段に大きくなると踏んだ。
それに、そうなれば一緒にいられる時間も増える。一石二鳥だ。
まんまと策略にはまったのか、シノは少し眉を寄せて考える様に手を顎に添えた。
当然、上忍であるアスマが手加減するのは言うまでもないが、それでも良い修行相手になるのは間違いない。とても魅力的な誘いだ。
そう思い、シノが答えようと口を開きかけた、その時。
「いいね~。俺も昼飯まだなんだ。イッショしたいな~」
呑気な声と、殺気にも似た気配がシノの開いた口を噤ませた。
「………カカシ…てめぇ、どっから湧いて出やがった…」
振り返りもしないが恨めしげなアスマの声に、カカシは徐にアスマの肩に手を回しながら囁いた。
「どうでもいいでしょ、そんなこと。それより、抜け駆けはダメだなぁ。アスマ」
満面の笑みで囁かれる声は呑気だが、ひしひしと伝わってくる怒気のこもったチャクラの気配に、余裕の笑みがひきつる。
「うるせえ。抜け駆けも何も、偶々会ったから食事に誘っただけだろうが」
「んじゃ、俺が連れてっても文句ないよな?」
「大有りだ。文句っつーか、てめーと二人にさせといたら危険だ」
「なにそれ。人をまるで狼か獣みたいに…」
「間違っちゃねーだろうが」
もはや囁きでも小声でもない。
邪魔する気満々のカカシと迷惑そうなアスマの会話が、いつの間にやら奪い去る気満々のカカシと
それを必死に阻止せんとするアスマの会話に入れ替わっていた。
そんな二人の言い合いの中、暫し事の次第を見守っていたシノだったが、白熱してきたところで
これはさっさと追い出さねば店に迷惑だと判断し、必要な分のクナイを手にカウンターへと向かった。
早々に買い物を済ませ、ついでにアスマの鎖鎌も受け取って、店から出そうと二人の元へ戻る。
と、そこにまた新たな気配が現れた。
「何してるの、あんたたち」
呆れた声の主は、シノの担当上忍、夕日紅。
彼女に出現により、大の大人の言い合いも止まった。
そんな二人を尻目に、紅はその奥にいるシノに視線を向ける。
「シノ。急だけど任務だ。キバを連れて門に集合!」
「はい」
紅の命に素早く反応し、シノは頷くとアスマに鎖鎌を押しつけるように渡してふっとその場から去っていった。
後に残った呆然と突っ立った男二人。
結局のところ、シノの最優先事項…もとい最大のコイビトは、任務というわけで。
「………じゃ、シノはもらってくわね」
そう言って、紅は妖艶な笑みを浮かべて掻き消える始末。
まさに漁夫の利…?
この勝負、紅の勝ちということで……。
















(07/1/23-4/27)