※8班下忍試験後のお話。
つなぐ
気があわねー。そう、心底思う。
けど…。
「おい、シノ」
下忍選抜試験に合格した帰り道。
ヒナタを送った後、たまたま帰り道が同じだったから俺はなんとなく成り行きでシノと一緒に帰っていた。
黙々と前を歩いている奴に、気まずげに話しかける。
沈黙が、俺には気まずく感じた。こいつがどう感じてんのかは知らねーが。
俺の声に立ち止まり、振り向いたシノに、下忍試験の記憶が甦る。
一瞬黒い霧かと思ったそれは、無数の蟲。しかも奴の体の中から。
正直、ひいた。
開始直後から人間らしくない匂いだってのは感知してたけど、その正体に虫唾が走った。
「何だ」
呼んでおいてじっと見つめたまま何も言わない俺に、シノが口を開く。
この野郎。なんともねーって顔してやがる。
お前のことだ。
どうせ俺やヒナタが一瞬退いたのを見逃さなかったんだろ。
それなのに、なんでそんな平然としてんだよ。
なんか、ムカツクぞ。
「手、出せ」
「て…?」
不機嫌そうな声で言うと、シノは眉を寄せて不思議そうに言った。
「そーだ。手! 出せ!」
いつもポケットに突っ込まれた手。グラサンと高い襟に隠された顔。
アカデミー時代は、ただ不気味としか思ってなかった。無口で無愛想なのが、気に入らなかった。でも、今は。
事情を知った今は、どれもこれも、隠してるようにしか見えない。
偉そうにしてるくせに、自分を隠して、他人に触れてはいけないモノみたいに思ってねーか。
俺は、わけがわからないという面持ちのシノにかまわず、強引に右腕を掴んでポケットから引っ張り出す。
そして、その白い手を両手で強く握る。
「……キバ。お前は何をしたい?」
心底呆れた様な、困惑した様なシノの声。
その人間味のある声と、手のぬくもりに、俺は思わずにんまりと笑った。
「あったけーから良し!!」
「………………は?」
呆気に取られたシノの手をぱっと離し、赤丸に号令を掛ける。
「じゃ、また明日な!!」
そう言って、力いっぱい駆けだした。
「あ! それから、忘れんじゃねーぞ!! リーダーは俺だからな!!!」
そう叫んで、シノの返事も聞かずに走り帰った。
ちゃんと、あったかい。ちゃんと人間だ。それが、なぜかもの凄く嬉しかった。
それから8班の活動が本格的になってきて、やっぱり奴とは気があわねーと、心底そう思う。
けど…。
俺は、お前に触れるのに躊躇ったりしねーよ。
それだけは、約束してやる。
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(07/1/23-4/27)