※キバシノ風味のアスシノ。裏の傾向があります。
シノの母親について、オリジナル設定有り。
カーネーションの花束を
「肩たたたき券……?」
「…………。…今、た、一個多くなかっ…」
「気のせいだ」
間髪入れぬどころか最後まで言い終わらない内にぴしゃりと否定され、キバは口を噤んだ。
でも、やっぱ一個多かったよな……と思いながらボケをかました本人を見れば、素知らぬ顔で知らぬ存ぜぬを極めている。
これだけ堂々とトボケられると、こっちの自信が無くなってくるから気に入らない。
何だか負けた気分になって、キバは口を尖らせた。
「………で、これがどうした」
何事もなかったかのように、自分の失態を黙殺したシノが、言いながらキバが渡した『かたたたきけん』を返してきた。
「……別にどうしたってわけじゃねぇよ。ただ、昨日たまたま見つけたって話しただけだろ」
不満げに口を尖らせたまま、キバがシノから『かたたたきけん』を奪い取る。
そして立ち上がると、机の中に戻した。
「むか~し、母の日にこれプレゼントしたんだよ」
「つまり、それはその後日使用された、使用済みの券というわけか」
「まぁな」
キバは答えながら、シノの向かいには戻らずに窓際で丸まっている赤丸の隣に座り込んだ。
日溜まりで心地よさそうにしている赤丸を撫でてやる。
「………一つ、不可解なことがある」
シノは、一つ間を置いてから、不思議そうに言った。
「肩たたきをするのに、何故わざわざ券が要るのだ。そのくらい、頼まれたらやればいいことだろう」
「…………」
シノのごもっともな意見に、キバが閉口する。
そして説明し難そうに、頭を掻きながら答えた。
「あのな……そうじゃねーんだよ。違うんだって。……なんつーかなぁ…ガキにもガキのプライドがあるっつーか…。
簡単にはいはいと親の言う事聞くわけにゃいかねー時があんだよ。あるだろ?」
「無い。他に特別優先すべき事がなければ、頼み事は聞くのが当然だ」
「………お前んちに生まれなくてマジで良かったよ」
キバは心の底から言葉を吐いた。
キバにとって、親姉弟は反発するものだし、意地を張り合い、自己主張してぶつかって、喧嘩するものだ。
その点シノや、ヒナタの家族観は、キバのそれとは相容れない。
ヒナタにとって家族や親族は、畏怖し、敬い、誇らなければならないものだ。
そしてシノにとっては、それぞれの役目を果たして成り立つ、それこそ虫の集団のようなもの。
親孝行なんて小っ恥ずかしくてそうそうできやしない事なのに、ヒナタは孝行しようと必死だし、シノは当然の事と考えている。
根本的に違うのだ。
「……まあとにかく。あるんだよ、そーゆーのが。普通はな」
そう言えばシノは眉を寄せたが、何も言い返してはこなかった。
「んだから、券があれば面目が保てるっつーか、やり易いわけよ」
「…………そうか」
どうにかこうにか理解したらしい。
だがまた、ふむ、と考えて、質問してきた。
「……だが、一枚だけなのか?」
「何が」
「肩たたたき券」
「…………」
今、やっぱり『た』が一個多かった気がする。
気がするが、聞き違いかもしれない。
「……………否…。確か、十枚くらいあったと思うけど」
キバは、聞かなかったことにした。
「では、使われたのは一枚だけなのか」
「…そーだな……うん、一回きりだったぜ。確か、一回やったとき、何か知らねーが怒鳴られて、そんで大喧嘩になって………それきりだ」
あん時、母ちゃん何であんなに怒ったんだろ、と言うキバに、シノは思った。
………きっと、力任せにやられて痛かったに違いない。
そう言えば、キバは顔を顰めて「そんなこたぁねぇ!」と力一杯否定した。
「俺は上手いんだぞ!! なあ、赤丸!」
赤丸に賛同を呼びかければ、アンッと元気に返す。
「あ、何だよその目! 見えねーけどわかるぞ?! 今絶対嘘だと思ったろ!」
シノが疑わしげな眼差しを向けると、キバは機敏に反応して怒鳴り、立ち上がった。
「いいぜ! そーゆーことならやってやるよ!」
「断る。なぜなら…」
「ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ! 黙って肩貸しゃあいいんだよ!」
「……どこのチンピラだ」
「うるせぇ!!」
キバは怒鳴りながらシノの後ろに立った。
シノは断ると言いながらも、その場から動かない。
ただ、小さく息を吐いて言った。
「………勝手にしろ」
キバの肩たたき、そして肩もみは、確かに力任せではなかった。
が。
「――――――っ、キバ…、もういい、やめろ……!」
「何でだよ…!」
逃げようとするシノを押さえ込むキバ。
「何故ってっ、くすぐったい―――からだ!」
シノはキバの手から尚も逃れようとしたが、どうも上手く力が入らない。
問題は、キバの力加減ではなく、キバが全く凝っていない部分ばかりを揉んでくる事にあった。
それも狙っているとしか思えないほど、的確に、くずぐったい部分ばかりを、だ。
どうやら、犬のツボは心得ていても、人間のツボはさっぱりならしい。
「くすぐったい……? 変だな、こっちはどうだ?」
「―――――――っ!!」
またしても絶妙な部分をぐっと押し込まれて、シノは身を捩った。
「い…いいから、もう、やめろ……っ!」
だが、珍しく焦ったようなシノの様子を見て、真面目に取り組んでいたキバの顔に、思わず悪戯っ子の笑みが浮かんだ。
先程シノの知らん顔に負けた気になったから、その仕返しに、と、シノの嘆願に無視を決め込む。
「つーか、お前、案外首弱ぇな」
「な、に…」
当初の目的はすっかり頭から消えていた。
「!!!」
肩から項、首筋を意図的にくすぐってやれば、シノが身を竦めて悶える。
「はは、スッゲー面白ぇ!」
「ば…バカ! やめ…っ」
調子に乗ったキバの悪戯は数十分にも及び、漸くキバが手を止めた頃には、シノは息も絶え絶えになっていた。
あはははははと、楽しくて仕方なかったのか、腹を抱えて笑い転げるキバを睨み付ける。
のそりと起き上がったシノは、赤丸を部屋から追い出して。
怒りのチャクラと蟲を背後に立ち上らせて、キバの頭上に仁王立った。
アスシノに続く→
(09/5/10)