※ヒナタ誕生日企画の続きです。まずは
こちらを読むことを、お勧めします。
パーティーが終わったのは、日付も変わる頃。
片付けを終え解散した後、キバとシノは並んで帰路を歩いていた。
クリスマスの夜といっても流石に深夜ともなれば騒ぎも一段落して、店も閉まり灯りは点々と点いている程度だ。
数組のカップルと擦れ違ったきり、人とも会わずしんと静まり返った道を息を吐きながら行く。
ただ、イルミネーションだけはパラパラと光を点滅させていて、とても幻想的だ。
「………ヒナタ…喜んでくれて良かったな…」
キバが、ぽつりと呟いた。するとシノから、「……ああ…」と静かな返事が返る。
「他の連中も、楽しんでたし」
「ああ」
「俺も、楽しかったし」
「そうか。……赤丸、残念だったな…」
「ん?ああ…。まあ、寝てりゃあ明日明後日には治る風邪だし。出掛ける時も、元気そうだったんだけどなぁ…。まだ外には出すなって姉ちゃんに言われたからよ」
ふとシノが口にした赤丸の名に、キバが首を回して相棒の姿を思い浮かべた。少し風邪気味だったので、大事を取って家に残してきたのだ。
本人はヒナタの誕生日パーティーにとても行きたそうだったのだが姉に止められ、キバも残ろうかと思ったが、そう大したもんじゃないからあんたは行ってきなさいと追い出された。
今頃寂しがっているだろうかと思うと、僅かに落ち着かなくなる。
だが、赤丸には悪いがもう少しこのままシノとゆっくり歩いていたい気もするのだ。
「それにしても…」
無駄な時間稼ぎとばかりに、キバが不意に話題を変えた。
「よくヒナタん家でパーティーなんてやらせてくれたよな。お前、任せろっつってたけど、何したんだよ?」
そうなのだ。
パーティー会場を決める際、ヒナタを呼び出すのに都合の良い場所ということでヒナタの家でということになったのだが、果たして可能なのかとそれが心配の種だった。
そんな時に申し出たのが、シノだった。どんな裏技を使ったのかと、実はずっと気になっていたのだ。
そんなキバの問いに、シノは小首を傾げて、
「別に……。ただ、親父に一筆書いて貰っただけだ」
と答えた。
「親父さんに……? 何て」
「それは俺も知らない。ただ、今回の計画を持ち掛け相談したら、ヒアシ様に渡せと手紙を渡された」
その返事を聞いたキバは、少し考えてから、徐に言ってみる。
「………お前の親父さん、何か、ヒナタの父ちゃんの弱みでも握ってんじゃねーのか…?」
「………さあな……」
シノも可能性の一つとして考えていたのか、含みを持った言い方で言葉を濁す。
日向一族当主と油女一族当主。規模や分野は違えど旧家同士の間柄である。
その上油女一族は隠密・諜報活動を得意としているため、内包している機密情報量は暗部をも凌ぐと囁かれている。
実のところどうなのか、まだ子供の二人に知る由もないが、そう考えると末怖ろしい関係である。
油女は敵に回すべきではないなと、キバは改めて強く思って、シノを横目で見遣った。
その視線に気付いたのかシノが何だと言う様に眉を顰めるので、慌てて次の話題を振る。
「あと、それからよ。お前のプレゼント、ネジが当ててたみてぇだけど、何だったんだ?」
これも、ずっと気になっていた事だった。
シノのプレゼント。
キバの場合、欲しい気持ちと遠慮したい気持ちが半々といったところだ。
虫関係であれば厄介なことこの上ないだろうし、当てた奴は災難だろうと思うが、シノからのプレゼントなら欲しい気もする。
そして、シノの答えは、矢張り厄介な代物であった。曰く。
「クマのマスコットだ」
「………は…?」
キバは思考を停止して、思わずシノを凝視した。
「クマ…マスコット……??!」
キバの悲鳴に近い叫び声が、冷たく澄んだ空気を震わせる。
そんなキバの反応にシノは煩そうに眉を寄せたが、「そうだ」と簡潔に答えると、
そのことから何か思い出した様に鞄の中をごそごそと漁りだした。
そして、緑の紙袋を一つ取りだして、キバに差し出す。
「………お前用のプレゼントだ。忘れていた」
「お…ぉお俺用…?」
突然の事に動揺したキバだったが、受け取ってみれば落ち着きを取り戻して、「つか、忘れんなよ…」と悪態を呟く。
袋を破き開けて見れば、黒の毛糸で編まれた帽子だ。
「ネジには、余った毛糸で作ったクマのマスコットが渡った」
シノが、帽子を取り出したキバに説明を補足した。
その説明を受け、そりゃ彼奴も災難だったなと、キバが苦笑いを浮かべる。
しかし、気持ち的には勝利者の様な余裕も浮かぶ。
なんといっても、自分はマスコットではなく帽子だ。
その上自分のが本命であり、ネジに渡ったのは余り物。
優越感が湧くのも、当然である。
「へぇ、そうだったのか。……ん、サンキュー。ピッタリだ」
にやにやしながら被った帽子は、耳まですっぽり覆って、とても温かい。
帽子からはみ出た前髪が気になったようで、シノが手を伸ばしてそっと左右に撫でつける。
その親切を甘んじて受けたキバは、ほこほことした気持ちに暫く浮かれていたのだが、不意に、重大な事に気が付いてしまった。
キバの家が近付いてきた頃。
ヒナタの誕生日パーティの企画や、赤丸の体調不良に気を取られていて、シノへのプレゼントをすっかり忘れていた事に。
やべぇ、どうしよう…と焦りだすも間もなく、家に着いてしまう。
明日(最早今日だが)の内に買って渡すという手段もあったのだが、キバはとにかく混乱する頭で必死に考えた末、思いがけない答えを閃き出した。
「シノ…っ、ちょ…ちょっと待ってろ!」
そう力強く釘を刺すと、シノを家の前に置いてドタドタと家に上がり込む。
そしてバタバタとしてから、再び飛び出してきて、「これ、やる!」と言ってシノのポケットに何かをねじ込んだ。
「?」
「いいか。家に帰ってから見ろ。あと、絶対、誰にも言うなよ」
「…………ああ……?」
何やら真剣な様子で圧されて、わけがわからない内に承諾させられるシノ。
そんなシノにキバは一度大きく頷くと、「絶対だからな」と念を押し、ぱっと身を離して「じゃあな」と背を向ける。
しかし、シノがその背を見送る体勢を取った後も、動かない。
「………?」
シノが、家に入らないのだろうかと訝しみ始めた時。
キバは数度地団駄を踏んだ後、助走を付けた勢いで取って返すと、勢いそのままシノに抱き付き、唇を頬に触れさせた。
「メリークリスマス…!」
どさくさに紛れてそう言うと、キバは今度こそ家の中へ逃げ込む様に入っていった。
「…………」
ぽつんと残されたシノは、暫くキバの唐突な行動に呆然としていたが、ふわりと上から舞い降りてきた白いものにはっと我に返る。
深い夜の空を仰げば、ちらちらと雪が降ってきていた。
「………俺達も帰るか……」
シノの呟きに、蟲達が、ざわりとうねり返してきた。
「………あれはやっぱ、マズかったかなぁ……」
深夜にドタバタと帰宅したキバは、姉母両者共に煩いと叱咤されて、床に就いた。
そして冷静になって考えてみると、自分のした事に対する後悔の念が沸々と沸いてくる。
プレゼントにしても、キスにしても、だ。今思えばなんとも恥ずかしい。
「あ~~~~!! 俺の馬鹿野郎~~!」
キバは、シノからもらった手編みの帽子を頭から顔まで引っ張り被って、布団に突っ伏した。
一方のシノは、キバとの約束を守り帰宅してからポケットの中の物を取り出していた。
しかし、触れた感触や形質から大方見当は付いていて、取り出して見ると矢張りこれかと一も二もなく思う。
クリスマスツリーの天辺に飾る、金色の星。
プレゼントを用意していなかったのならそう言えばいいものを、と呆れ、家のツリーから取って叱られるのではないかと、矢張り呆れる。
そしてキスされた箇所を少し意識して、微かに熱くなる。
しかし、折角もらったのだからと無理矢理意識を引き剥がし、シノは寝静まった邸内を足音も気配もなく移動して、父親が飾ったクリスマスツリーのある一室にこっそり忍び込んだ。
誰も居ない部屋で、ツリーのイルミネーションがチカチカと点灯している。
天辺に鎮座しているのは、銀色の星。
実は、シノは銀色の星も好きなのだが、一度金色の星も飾ってみたいと思っていたのだ。
手を伸ばし、少し足りないので踵を上げ爪先立ちをして銀の星を何とか外す。
そして同じように背伸びをして、金の星を取り付ける。
「…………」
少し斜めになってしまったのを蟲達が直してくれて、シノのささやかな念願は叶えられた。
その事にささやかに満足しながら、シノは自分がヒナタに言った言葉を思い出した。
嬉しい時には、笑顔を。
キラキラと光るクリスマスツリーの天辺を見上げて。
シノは、ヒナタへの祝福とキバへの感謝を込めて。
ささやかに、瞳を細めた。
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あとがき
メリークリスマス!&ハッピーバースデー、ヒナタ!!
今回は、ヒナタ誕生日企画とクリスマス企画の合同企画とあいなりました。
長い割にいまいちノリが悪く、進みが遅かったのですが…。
しかし。
最近、ノリノリな時とそうでない時とで差がほとんど無いという素敵な発見をいたしまして(え)
なのできっといつもと変わらないはずです…。
ヒナタ誕ではとにかく「ヒナタに幸福を」を念頭に。
クリスマスは、シノキバチックなキバシノで。
赤丸を出せなかった事が、心残りですが。きっと当日、犬塚家で素敵なクリスマスを過ごす事でしょう。
星が無いのは何で…?と首を傾げながら(笑)
油女家では、銀から金に変わった星に、シビさんが首を傾げます。
やっぱり良いですね、クリスマスは!
そして、以下は12/20放送のナルトスペシャルを見てのちょっとした感想(よって反転)です。
今回の企画とは、全く関係ありません。それから、本当にちょっとした感想です。
↓
最後の最後。青春エクササイズを見て。
絶句し爆笑し頭を抱えました……。
え…エクササイズって―――!
ナルトとサクラは必要不可欠。
リーは問題ない。
いのは…いのは……うん…まだギリギリ良しとしても……。
………キバがエクササイズ…(いましたよね?キバ)。
……見たいような、見たくないような……
エクササイズするキバ……。うわぁ。
ビデオに撮っていなかったので逆に気になって気になって。
怖いですね……!青春エクササイズ…。
(07/12/26)