誕生日企画と若干つながり有り。




マフラー


目覚めた朝。
窓の外はまだ暗く、真夜中のようだ。
冬も間近な季節。
外は息が白くなる冷たさだということは、窓の四辺に貼り付いた霜を見れば判る。
そして、ぬくぬく布団から出たくないという、生理的欲求からもまた然り。
しかし、ここで挫けては、耐え忍ぶ忍としてあまりにも情け無い。
……でもまだ出たくない。
暫しそんな葛藤を心中で演じ、自身の怠惰と奮闘して、シノは漸く布団から身を引き剥がすことに成功した。
外は、やはり身震いする寒さだ。
だがまたぬくぬく布団に舞い戻る事は許されない。
早々に服を着込んで、出掛ける支度をする。
しかし、防寒具を取り出そうと箪笥の引き出しを開けた時、愕然とした。
「………」
冷たい空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
静かに静かに、そ~っと引き出しを閉め、何も見なかったことにして。
息白くなる朝闇の中へと身を投じた。



「チョウジ! 食べてばっかいないで少しはこっち手伝いなさいよ!」
いのの怒声が落ち葉舞い散る中に響き渡る。
それでもホカホカの焼き芋を両手に掴みもぐもぐと頬張り続けるチョウジは、流石だ。
「……なんか、そっちの芋焦げ臭いぜ?」
火の番をしていたキバが、くんくんと鼻を鳴らして言うと、落ち葉を追加していたシカマルがそっちを向く。
「ぁあ…? っておい、その芋焦げてんじゃねぇ?」
「え…!? こ、これか!? っぅアッチ!!」
「バカ! 素手で触ったら熱いに決まってんでしょ!! も~!」
「ナ…ナルトくんっ!」
ナルトの目の前を顎でしゃくり示すシカマルに、ナルトが慌てて焦げる焼き芋を救い出そうとして、軍手も無しに芋を掴み悲鳴を上げた。
そこにすかさずサクラが叱咤と手当を施し、ヒナタがあわあわとナルトを覗き込む。

焼き芋大会と称したこの集まりは、10班が主催した、大会というわりにルーキーしか集まっていないこじんまりとしたものだ。
枯れ葉落ち葉を掻き集めて、焚き火をおこしてイモを焼く。
そんな、普通の焼き芋パーティである。
その様子を、少し離れたところで木にもたれ掛かりながら、アスマは何の気無しに眺めていた。
手には、先程持ってきたホカホカ出来たての焼き芋が一つ。
実は持ってきた時は二つあったのだが、もう一つは今や横に並んだ者の手にあった。
「……………お前は、混じらないのか」
枯れ葉集めには参加したものの、以後はずっと木にもたれたままの隣人に声を掛ける。
そのアスマの問いに、隣人は一つ、小さな欠伸を以て返した。
「……眠いのか?」
「…………はあ…早朝、虫の冬眠を観察をしていたので」
「…………とうみん……」
冬眠というと、眠っているのだろう。つまり、動かない。
そんな状態を観察してなにか得があるのかと、アスマは首を捻った。
「……面白ぇのか?」
「面白いですよ」
「………へぇ…」
自分だったら、間違いなくつまらないだろうが。
まあ此奴の趣味なら別にいいかと、アスマは深く追求しないことにした。
そんな折り、焼き芋を持って温まった手を首筋に当てるシノの姿が目に入る。
年中上着の襟を立たせてはいるが、アスマのように上から見れば、首下は結構寒そうだ。
「マフラー、持ってねーのか?」
唐突な問いに、シノがアスマを不思議そうに見上げた。
「いや…。なんか、首下が寒そうだからよ。持ってりゃすればいいんじゃないかと思ってな」
そう付け足したアスマに、シノはなぜか眉を寄せた。
「…………持っては、います…」
「じゃあ、してくればいいじゃねぇか」
「……………」
沈黙したシノに、アスマが首を傾げる。
「…………なんだよ……」
「………」
それでも沈黙し続けるシノの態度は、何かマフラーに対するトラウマでもあるのかと、アスマの悪戯心に火を付けた。
「なんだよ、何かあったのか…? ん…? 俺でよければ、相談に乗るぞ?」
にやけた顔で屈み込み、シノの肩に腕を回して親身なフリをする。
そんなアスマにシノが訝し気な眼差しを向けると、アスマはふっと真面目な顔を作った。
「いや、俺は別に楽しんでなんかいないぞ」
最早自白であるが、この戯けはシノの警戒心を呆れに変える効果があった。
「………笑いませんか」
「………笑わねぇよ」
真面目な顔で頷くアスマは胡散臭いが、まあそれなら、とシノは言った。
「……持ってはいるんですが…朝見たら、虫に喰われてたんです……」
箪笥の中を見て愕然とした真相。
防虫剤の効き目が切れていたらしく、やられてしまった。
因みに油女一族が使う防虫剤は、植物から防虫効果のある成分を採取して作った自家製の物で、虫に害は絶対に与えない。
「……………」
「……………」
「……………」
暫く沈黙した後、アスマは耐えきれずにぷっと吹き出してしまった。
「虫使いがマフラー虫に喰われたってか! そりゃ傑作だ!」
口約束など端から無かった様に、豪快に笑い飛ばす。
そんなアスマに、ほらみろやっぱり笑ったじゃないかと、大人への信用をワンランク下げるシノ。
「忠実なのは寄壊虫だけですから」
ぶすっとふて腐れてぼぞりと言い訳をするシノに、そうそうそうだよなと、アスマが機嫌を取るかのようにしてポンポンとシノの頭を軽く叩く。
「ちょっと気ぃ抜いちまっただけだもんな。虫と共存すんのも、大変だろ」
「…………」
「なんなら今度、マフラー選ぶの手伝ってやるよ。それとも、笑った詫びにプレゼントしようか?」
「……………」
アスマへの信用はすっかり無くしたのか、シノはアスマの言葉を全て無視して、冷めてしまった焼き芋を頬張りもぐもぐと食べ始めた。
「………」
さてどうしたら機嫌が直るだろうかとアスマが口の端を上げたまま真剣に悩み始めた時、
「アスマせんせ~! シノ! そんなとこでじゃれついてないで、こっち来なさいよ~! 焼き芋、全部チョウジに食べられちゃうわよ~!!」
と、いのからのお呼び出しがかかった。
その声に、シノがアスマの腕からすり抜けて行く。
「あ…おい…」
一瞬慌てたアスマを、シノがふと立ち止まって振り返る。
「……アスマ先生が買ってくださるなら、二度と気を抜いたりしませんよ」
そう、言うだけ言ってさっさと焼き芋焦がす焚き火の所へ歩いて行ってしまう。
そんなシノの背をぽかんと見つめながら、アスマは今言われたシノの科白を解読した。
「………………俺に買えってことか……」
にやりと苦笑を漏らしつつ、自分の贈り物は大事にしてくれるらしいという解釈を胸に秘めて。
手の中ですっかり冷めてしまった焼き芋を、ぱくりと頬張った。





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あとがき
の秋企画第2弾。
アスマ誕とほんの少し絡んでおります事は、御容赦下さい。
今回のお題は「食欲の秋」です。一応。
焼き芋美味しいですよね。私は芋好きなので、大好きです。。
でもこれで書きたかったのは、焼き芋ではなくマフラー…
…というか。
虫使いなのに虫にマフラーを食われてしまったシノです(笑)
忠実なのは寄壊虫だけで、他の虫とは知識を生かして上手く共存しているのではないかと。
でもたまに気を抜くと、領分を侵されてしまったりして。
紆余曲折を経て、虫と共に生きていく油女一族……なんて。
虫と言葉を交わせても良いんですけど…。
虫とお話をするシノ……ああ、なんてメルヘン!
甘いアスシノも大分慣れて参りました。
書くのが、ではなく見るのが…(笑)
母の日企画で甘いアスシノ見た時は、自分で書いておいて「うわぁ」と思いましたが…。
これなら、なんとか幸せな感じでいけそうですよ、アスマ先生!












(07/12/1)