Scene3.第8班の混迷

翌日。
キバは、紅の口から告げられた言葉の意味が、一瞬解らなかった。
けれど間を置いてからじわじわと、その言葉を頭が認識し、理解していく。

―――シノは今、蟲が原因と考えられる病で休職中だ

今朝早く、紅先生からの呼び出しが掛かり、久々に紅班での任務かと胸躍らせて来てみれば。
時間に来たのはヒナタだけで、今日シノは来ないんスかと尋ねたら、そんな答えが返ってきた。
それは、思ってもみない返答で。しかし紅がそんな嘘を吐くはずもない。
一間置いてからの、躊躇いつつもしっかりとした、考えた末に決断したような、事務的な口調。そしてその表情からも、冗談を言っているわけではないと伝わってくる。
けれど、でも…。
「……ウソだろ…?」
言葉の意味を理解しても、嘘なんかじゃないと判っていても、そう、口をついて出ていた。
だって、そんなはずはないのだ。
一ヶ月前、シノは長期任務に出ると言っていた。だから自分はシノが出立する前、シノの誕生日の日に、頑張って任務を終わらせて、ケーキまで買って帰ったのだ。
ローソクに火を点けて。
恥を忍んで臭いセリフを言って。
祝ったんだ。
なのに。
そんなバカな事―――。

「あの…病気って、大丈夫なんですか!? 一体いつから…」
キバが呆然としていると、隣から焦ったようなヒナタの声が聞こえてきた。
見ればヒナタが心配そうな顔で、どこか懇願めいた眼差しを紅に向けている。
「……症状は、昨年の始め頃から出てきたそうよ。でも一向に治る気配がないから、ひと月前に精密検査を始めて、昨日その検査結果が出たの」
紅の声が聞こえてくる。
キバは気付けなかったが、ヒナタはすぐに気付いたらしい。
「じゃあ、あの時にはもう…」
と、ショックを受けたように青ざめた顔をして呟いた。
あの時…。
キバは、それが久しぶりに3人で集まった時の事だと遅れて気付き、鳥肌が立った。
そうだ。あの時にはもう、シノは病に侵されていた事になる。
否、それだけではない。自分はヒナタと違ってその前からシノに会い、家に泊めてまでいたのだ。
あの、飲み屋街で会った時から。
なのに…。
全然、気が付かなかった。
一番傍に居たはずなのに。
一番、シノに近かったはずなのに。
何で………どうして?
キバは紅の言葉も聞かぬままに駆け出していた。
キバくん! と、ヒナタの叫ぶ声が微かに聞こえてきたが止まらない。


自惚れていただけだったと言うのか?
シノの事は、自分が一番知っていると思っていた。
なのにアイツはそんな重大な事を隠していた。
そしてその事に、オレは何も気付けなかった。
最後に見た、家から出ていくシノの姿を思い出す。
そのシノを、任務に行くのだと思って笑って送り出した。
病気の事も検査の事も、何も知らず、能天気に笑って。

「………あの野郎…馬鹿にしやがって」

衝撃と後悔が、キバの中でじわじわと怒りに変わっていく。
内側から激しい怒りが滾(たぎ)り出し、表情を憤怒の形相へと変貌させる。


「ブっ殺してやる…!!」


油女邸の見える木の上まで辿り着いた時、キバは感情のままに拳を幹に叩き付け、その太い樹木を破壊していた。



す、と目を覚ましても、それが現実なのか夢の続きなのか判別できない。
薄暗い中で「おはようございます」と声を掛けられ、世話係の者の姿をぼんやりと捉えて、シノは漸く自分が目覚めたのだと知った。
光を極力遮断された部屋は、蟲の活動を抑制させるためであると聞く。
今、自分の蟲達は、熱を感知すると必要以上にその熱を奪おうとしてしまうらしい。
それが慢性的な低体温の原因であり、併発した体重の減少や不眠症は、その際にかかる体へのストレスと蟲の興奮状態がもたらしたもの……だそうだ。
だが、より詳しい原因追究は、何度蟲との対話を試みてもはっきりとしなかった。
蟲達はただ威嚇するように喚き立て、訳の分からないことばかりを言ってきて話にならない。
こちらが強く出れば反発するし宥めてみても沈黙してしまい、交渉は決裂したままだ。
正直、シノはもう厭になっていた。
蟲との意思疎通がこれ程上手くいかないのは初めてのことだ。
もちろん、調子が悪くなってから一年余り。蟲との対話は続けてきたし他の命令は聞いてくれるのだ。が、肝心な部分を、蟲達は語ってくれない。
それどころかその話題に触れることすら嫌ならしく、聞き出そうとすると過敏に反応し騒音を掻き立てる。
その度に、最も身近で最も信頼していた蟲達がひどく遠くに感じられて気が滅入る。
しかしそれでも、シノが諦めるわけにはいかない。
自分のために、一族の者たちもサクラも奔走し、火影である綱手までも尽力してくれているのだ。
自分が、折れるわけにはいかない。
しかし―――と、シノは暗い天井を見つめながら思った。
最近では不眠症の反動か眠くて眠くて仕方がなく、一日の殆どを寝て過ごしてしまっている。
ここ暫くはマトモに体も動かしておらず、衰えていくのがよく分かった。
蟲との交渉は最早、最低限の生命活動と睡眠以外にできる唯一の事であり、シノにとっては生きている意味にすらなっている。
これしかできない。
これだけなのだ。
「今朝―――」
不意に、黙ってシノの体温を測っていた世話係の者が言った。
「当主から言伝を預かりました」
「…何だ」
「昨日、夕日上忍を呼び、検査結果を報せたと」
「……」
「それから、夕日上忍がチームメイトに伝えておくと言っていた――と」
「………そうか」
紅先生が、サクラから知らされた事は知っていた。
結局皆、人伝になってしまったな――とシノは虚ろに思う。
紅や、ヒナタや、キバは、今何をしているのだろうか。
自分がこうして寝ている間にも、修業を積み、任務をこなして、力を付けているのだろうか…。
そう思うと、胸がざわめいた。
否。これは―――。
シノが見ると、世話係の者も察知したらしく入口の方を振り返っている。 外が騒がしい。それに…。
「シイイイイイィィィノオオオオオオォォォォォ!!!!!」

この声、蟲を使って確かめるまでもない。紅先生から事情を聞いて怒鳴り込んで来たのだろうと、察しもつく。全く分かりやすい奴だ…。
シノは息を吐くと、「羽織を」と世話役に言った。
そして体を起こし、横に置いてあった黒眼鏡を手に取る。
「しかし…」
「かまわん。通せ」
ここは自分の部屋ではないが、キバの鼻なら既に居場所は知られているに違いない。
もしも制止を振り切って、無事にここまで辿り付けたなら、罵声でも拳でも受けてやろう。
だから―――。
背に掛けられた打ち掛けの袖に腕を通しながら、シノは言った。
「それからお前は、手を出すな」

だから―――来い。

バンッ!! と、勢い良く盛大な音を立てて木戸が開かれる。
木戸は横に押し遣られると同時に打ち付けられて、衝撃音か破壊音か、激しい音と共に跡形もなく粉砕された。
そしてその空間から射し込む光を背に、汚れや傷を負い、息を弾ませながらも、眼光鋭く牙を剥いたキバが立ち塞がる。
「テメェ…、」
唸り声が地を這い、空気を震わせた。
「随分、乱暴な見舞いだな」
久しぶりに感じる敵愾(てきがい)心。全身全霊の怒りをぶつけてくるキバに、シノの血も騒ぎだす。
すっかり鈍っていた体が、久々の臨戦態勢に浮き立つのが分かった。
「この詐欺師野郎! 何で言わなかった! ヒトをおちょくってンのかああ?!」
キバがシノの胸倉を鷲掴み、引っ張り上げて怒声を浴びせる。
止めようとした家人を片手で制して、シノはそんな怒りを顕わにしたキバをじっと見つめた。そして殴るなら殴れと、挑発的に目を細める。
キバはその謙虚さのカケラも無い―ある意味シノらしい―態度に、思うつぼと思う間もなく頭にきて、思い切り拳を振り上げた。
だが、その拳がシノの顔面を殴打する直前、キバを我に帰らせたのは「ワンッ!」というひとつの咆哮だった。
はっとして拳がピタリと止まり、驚いたようなキバが振り向く。
「あ…かまる…」
すると、キバが壊した戸口に赤丸が、そしてその背後には紅とヒナタ、そして騒ぎに駆け付けた油女一族の人間が数名立っていた。
「止めなさい、キバ」
紅がトドメにピシャリと言い放ち、中へ入ってキバの頭を一発グーで殴れば、
「って! 何で俺だけ!?」
とキバが頭を押さえて抗議したが紅は取り合わずにシノを見据える。
「やっと会えたわね。思ったより、元気そうで良かったわ」
シノは乱れた合わせを直してから、そんな紅を真っ直ぐ見上げる。そして色々なことに対して「すみません」と言った。

その後、シノと話をさせろと要求したキバにヒナタと赤丸も賛同し、紅の責の下、3人と一匹だけが部屋に残される。
集まっていた油女の人間は各々戻って行き、世話役と紅だけが外で待機することとなった。ただし戸は壊されたため、二人に話は筒抜けだ。
しかしその耳に、聞こえてくる声は暫く無かった。
「…………」
「………」
「……」
シノは沈黙しキバも胡坐をかいてムッツリと黙りこみ、ヒナタもそんな二人の様子を窺いながら言葉に詰まっている。
赤丸も息を顰め成り行きを見守っていたが、不意にキバの肩に鼻を擦りつけ、それが後押しになったらしくキバがようやく口を開いた。
「………で」
シノを睨みつけ、咎めるように言う。
「何か言うことねーのかよ」
「……何か言って欲しいことがあるのか」
「なんだと?! テメェ自分が何したか分かってんのか!」
「俺は、何もしていない」
「っ、揚げ足取ってんじゃねえよ!」
「キ、キバくんっ!」
膝を立て身を乗り出して、再びキバがシノに掴みかかろうとするのをヒナタが止める。
怒りの再沸したキバは鼻の頭に皺を寄せ、今にも噛み殺す勢いではあったものの、その制止を受け入れた。
それでも十分にキバの憤りは伝播する。
シノの中でもザワザワと、再び気持ちが昂ぶっていくのを、シノ自身感じ取っていた。
今回だけではない。いつもそうだ。
昔からキバの言動はシノの神経を逆撫でし、ぶつけられる感情に触発される。
「で…でもね…」
シノもまたキバを睨み据えていると、ふと、今度はキバを押さえていたヒナタがぽつりと言った。
「キバくんの言うこと、間違ってないと思うの。あ、あの、きっとシノくんも分かってるんだと思うけど…。
でも、ね、シノくん、私たちに何も言わなかったのは……ヒドイよ…」
ヒナタが人を責め、傷つけるようなことを言うことは滅多に無い。
それでもそう言ったのは、きっとヒナタの本音であり、そう思っているのだと分かってもらいたいのだ。
たとえその言葉が大事な人を傷つけ、自分も傷ついたとしても。どうしても、本当に分かってもらいたいから。
「………」
シノはそんなヒナタに押し黙った。
そんなことは、分かっているのだ。怒るキバにも悲しげなヒナタにも、申し訳なく思うし、有り難いと思う。けれど、仲間だからこそ。
大切で、特別な、友だからこそ、弱みは見せられない。見せたくない。
心配や同情をされたくない。
前に進んでいく二人が自分のために立ち止まり、振り返ることを望まない。
いや、望んでいるのかもしれないが、望みたくない。足手まといになるのは御免だ。
キバやヒナタに言わなかったのはタイミングを掴めなかったからだが、それが本当に偶然だったのか、今でははっきりとしない。
もしかしたらどこかで拒み、言わない理屈を付けてはほっとしていたのかも知れなかった。
しかしそんなことは、口が裂けても言えるはずがない。何を言っても言い訳に過ぎず、言い訳など無様なことはしたくない。
「………お前たちには、関係の無いことだ」
対等でありたく、しかしそれが無理ならさっさと先へ行ってしまえと思う。もう、自分のことなど放って、構わずに――。
だがその言葉が、再びキバの逆鱗に触れた。
「てめぇ!!! 俺らがこんなに心配してやってんのに、関係ねぇだと?!」
「心配してくれと、頼んだ覚えは無い! お前達が勝手にしているだけだろう!」
「なんだとおおおぉ!?!」
キバの激昂にシノの感情も高ぶって、もう後へは引けなくなる。
攻撃は最大の防御なり。互いが互いの意地を守ろうとケンカ腰になった時、紅と世話役が部屋へと踏み込み、「キバ!」と紅が怒鳴った。
パァンッ!!
だが、しかし、シノの頬を打ったのは、キバの拳ではなく―――ヒナタの平手だった。
拳を振り上げたまま、目を丸くして固まるキバと、赤丸。唖然として立ち竦む紅。
そして、予想だにしていなかったヒナタからの平手打ちを受けて、シノが呆然とする。
暫し時が止まったような沈黙が訪れたが、ふとした瞬間にヒナタがはっと我に返り、慌てて手を引っ込めた。
「あ…あの、あの、ご、ごごごごめんなさいっ!!」
あわあわとうろたえるヒナタ。しかし動揺は次第に涙へと変わり、ヒナタの瞳から零れ落ちていた。
「あ…の……ご…、ごめ…っ、」
「………ヒナタ…」
肩を震わせ唇を噛み締め、目に涙を溜めたヒナタに、力の抜けたようなキバが呟く。
それはシノを叩いてしまったことへの罪悪感や後悔の念だけの涙ではないだろう。
大事な人が辛い時に何もできない自分への悔しさ。そしてその大切な友だちに、拒絶されてしまった衝撃…。
「でも……お願い…だから……」
それでもヒナタは伝えようと、声を絞り出して言った。

「……関係無いなんて、言わないで…」

涙が溢れる。
シノは大事な仲間で、大切な友だちで。その繋がりは、掛け替えのないものなのに。
「………」
叩かれた頬に手を当てて、シノがヒナタを見つめる。その表情はひどく悲しげで申し訳なさそうだ。
ジンジンと熱をはらむ頬から、何よりも雄弁にヒナタの気持ちが伝わってくる。
シノは悔いるように目を閉じて、静かに、長くゆっくりと息を吐きだした。
しかし次の瞬間。
「シノ!」
布団に倒れ込んだシノに、世話役が鋭く叫んで駆け寄った。
そして突然のことに呆然としているキバやヒナタ達に向かって「出て!」と指示する。
しかしその言葉にすら反応できず、やはり呆然としているキバ達を、いち早く察した紅が二人の首根っこを捕まえて言った。
「ほら! 出るわよ!」
「え…あ…」
「へ…?」
それで漸く我に帰るヒナタとキバ。目の前では意識を失ったようなシノに、家人が処置を施しているようだが、何が起きたのかはやはり分からない。
そしてそのまま、分からないまま紅に部屋から連れ出され、後ろからついて来た赤丸が、そんな二人にくぅん…と不安げに鳴いた。
「あ…あの、シノくんは…」
ヒナタの、やっとのことで言えた質問に、とにかく離れなければと突き進んでいた紅の足が止まる。
掴まれていた首根っこが外されて、二人は向き直った紅の言葉を待った。
「……私も、よくは分からないわ。でもどうやら、容体が急変したみたいね…」
表情を険しくして廊下の先を見つめた紅は、それでも事態を呑み込めてはいないようだ。
キバ達も振り返ってみれば、再び数人が駆け付けて来ていて、それぞれが慌ただしくも静かに動き出していた。
そんな様子を遠巻きに眺めていると、その内の一人が部屋から出てきて紅達の方へやってくる。
そして紅の正面に立つと、簡潔に告げてきた。
「今日は、お帰り下さい」
「おい、シノはどうなったんだよ! 何があったんだ!?」
「キバ!」
通告者に対し怒鳴るキバを、紅が窘(たしな)める。
しかし紅もまた何があったのかと無言の内に目で問い詰めれば、通告しに来た者はキバの暴言も意に介さず、淡々とした口調で紅に向かって言った。
「……心配は要らない。久方ぶりに感情が昂ぶったことで熱くなり、その熱を急激に奪われて一時的に気を失っただけです」
「意識はまだ戻っては…」
「おります。しかし本人が……帰ってもらってくれと…」
事務的に告げていた者が、紅やキバ達のことを慮(おもんぱか)ったのだろう、初めて躊躇いがちに言葉を濁した。
それは即ち、シノが会いたくないと言ったということであり、完全に拒絶されてしまったことを意味する。
しかしここまで来ると、誰も、キバでさえ、文句を言うことなどできなかった。
今さっき起きた出来事を考えれば仕方ないと思えるし、何より、キバ達自身も混乱しているのだ。
「分かりました。…ほら、行くわよ」
一行は紅に背中を押されるようにして大人しく油女邸を後にする。
けれどその表情は暗く険しく、それぞれがそれぞれの葛藤を抱いているようだ。
外は昼近く、冷たい空気が混じりながらも暖かな陽射しに照らされている。
その長閑な天気に、まるでさっきまでの事が夢のようだと、思ったのは紅だった。そして一つ溜息を落として気を引き締めなおす。
「今日はこれで解散よ」
だが、号令をかけても返事は無い。
不満で腸(はらわた)が煮えくりかえっているような仏頂面をしたキバに、落ち込んだ上後悔の念に苛(さいな)まれているようなヒナタ。
そして赤丸は、そんな皆の様子に不安を隠せないでいる。
紅は今一度溜息を吐くと、皆に喝を入れた。
「こら! しっかりしなさい!」
凛とした強い声に、キバとヒナタ、赤丸が一斉に顔を上げる。
「あんた達が落ち込んでどうするの! 全く、昔と変わらないわね。シノがいないだけでこの様なんて!」
「んなことっ!」
「ない?」
「っ、」
反論しようとしたキバだったが、紅の間髪入れない応答に成す術なく口を閉ざした。
昔から…。そう、確かに昔から、キバもヒナタもシノを頼っていた節はある。
揺らがない自信、確固たる実力。それぞれがそれぞれの役割を果たしてこそのチームであり、それはキバ達紅班も同じく、
本人は影が薄いと気にしているようだが、紅班におけるシノの役割は皆と同等に重要なものだ。
先走りがちなキバのブレーキ役として。引っ込み思案なヒナタのフォロー役として。
班の調和を保ち任務を無事遂行するための役割として、シノはその一端をしっかりと担っていた。
キバとの衝突で自ら調和を乱すこともしばしばあったが、それは感情的にではなく、チームやキバの事を考えてのことだった。
だが、それが今回は違う。
感情的になり他人を気遣う余裕も無く、チームや仲間の真意を見失っている。
「今、一番辛いのはシノよ。あなた達は、それを支えてやらなきゃいけないんじゃないの」
支え合っていた、頼りにしていた、そしてその中でも最も揺らがなかった一本の枝が、揺らぎ倒れそうになっている。
その不安定に他の枝は、しっかと支えてやることができるのか。それとも…。
「しっかりしなさい」
紅の言葉に、返事は返ってこなかった。




→Scene4へ