Scene4.宴の終わり
それから数時間、再び8班らしい構図に戻った。
キバとヒナタとシノの団欒が途切れたのは、住所を教えられていたのかネジがヒナタを迎えにやって来た時だ。
チャイムの音に一体誰だと戸を開けたキバは、開けた視界に現れたネジの姿に一瞬目を丸くしたが、
「ヒナタ様を迎えに来た」と言うネジに「過保護だな~」と一笑する。
憮然としたネジに、苦笑が深まった。
そして折角だからとネジにも飲ませようとするキバをシノが諌めて、残念ながらヒナタは退場してしまった。
ありがとう、楽しかったと言うヒナタを送り出してしまうと、部屋がしんと静まり返る。
「………………行っちまったな……」
寂しそうに呟いたキバだったが、すぐに口の端を上げて、斜め後ろに立つシノを振り返った。
「ま!後は俺らで……」
飲もうぜ、と言い掛けて、ふと真顔に戻る。
先程まで平然としていたはずのシノが、壁により掛かって苦しそうに呼吸をしていたのだ。
「お…おい、シノ?おま……大丈夫か…?」
肩に触れようと手を伸ばしたが、それを避けるようにシノはずるずると踞っていく。
バは慌てて屈んで、シノの顔を覗き込んだ。
「おい。気持ち悪ぃのか!?だったら…」
「……否。………ちょっと…目眩がした…だけだ……」
焦るキバの言葉に、世界の回転が収まったのか僅かに顔を上げてシノが答える。
だが、大丈夫ではなさそうだ。
キバは頭をかしかしと掻いて、顰めっ面をシノに向ける。
「自分から飲んでたし、平気そうな顔してっから、俺てっきり今日は大丈夫なんだと思ってたぞ?」
顔を顰めたのはシノに対する嫌悪ではなく、シノが酒に弱いのは重々承知していたことなのに全く気付かなかった自分に対してだった。
そんな悄気た様子のキバに、シノが微かに喘ぎながら言う
「………ヒナタの前で、潰れるわけには……いかないだろう……」
「………………見栄っ張り」
シノの言葉を受けたキバは、一瞬にやりと笑みを零す。
だが、その意味が見栄だけでないことはキバにもわかった。ヒナタへの気遣いだろう。
酒はヒナタが買ってきた物だった。それで潰れてしまっては、悪いわけでもないのに責任を感じてしまったはず。
………ヒナタは、そういう人間だ。
ではシノが飲まなければ良かったのだとも思うが、此奴の仲間外れ嫌いは知っている。
自分だけ飲まないのはチームワークを乱すとでも思ったのだろう。
もしくは、此奴なりに久しぶりの集合を喜んでいたのかも知れない。それとも…。
「キバ」
「……ん…?」
シノに目を向けながらもぼんやりとしていたキバが、呼ばれてはっと我に返った。
「………眠い…」
何だよ、と見れば、シノが運べと言わんばかりに言う。
「………」
キバは、そんなぞんざいな扱いにむぅと唇を尖らせた。
ヒナタの事は考えているのに、俺の事は頭の隅にもないのかよ……。
シノのヒナタに対する態度と、自分への態度が全く違うのは昔からだが、もう少し自分の事も考えてほしいと不満を抱いたのだ。
「俺に気遣いはねぇのかよ」
シノへの不満と、どこかヒナタへの羨望を抱えてキバが不平を呟く。
だが、最早シノにそんなキバの心中を察する余裕は無いらしく、返ってきたのは。
「ない。……おまえは…キバだから…」
という、論理もへったくれもない、わけのわからない理屈。
けれどキバは、その一言に、息を呑んだ。
力尽きてぐったりと意識を失ったシノをみつめながら、発熱した顔に焦る。
加えて一瞬止まった心臓がドクドクと高鳴り出した事に更に焦った。
「…………んだよ、それ…!」
動揺を誤魔化すためシノを軽く叩いてやろうと手を伸ばしたが。
力無く項垂れた頭に触れる前に、空に止まった。
「あ」
「どうしました、ヒナタ様」
帰り道。
すっかり暗くなった道を歩みながら、ヒナタは小さく声を上げた。
停電の影響で、一時的に復活したに過ぎないかもしれないが。
点滅を繰り返していた電灯が、煌々と白光を灯していた。
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あとがき
『青灯』に続きまして、キバシノの成人話です。
まだまだキバシノな感じは薄いですが、これから濃くなる…予定。
一応、灯シリーズとして『朱灯』『消灯』と続けたいと思っております。
……が。
まだ題名しか考えておりません(笑)
今回の『白灯』は8班メイン。
…………長くなりました。意味もなく、つらつらと。
紅先生と赤丸が蚊帳の外ですが、さて。これから出せるかどうか…。
ま、期待しないでおいてください(ぇ)
青灯白灯どちらにも微妙に伏線っぽいものがなきにしもあらず…です。
書かれていない事にも、意味があります。
………なんて仄めかしてみたり。
上手く書ける事を、切実に祈りましょう。
ちなみに。私は特にネジヒナ推奨というわけではありませんので、あしからず。