Scene2.第8班の集合

一方、ヒナタが来るという予期していなかった事態に、キバの部屋ではシノを巻き込んでの大掃除が行われていた。
ヒナタが来る前になんとか体裁だけは整い、約束の時間直前に漸く客人を招く準備を始める。
そんな折り、キバが冷蔵庫から幾つかのビール缶を取り出してきたのを見てシノは眉を寄せた。
そうして、声を低くして問う。
「……飲むのか」
「ん…?当たり前だろ。つーか言ってなかったっけ?宅飲みに誘ったんだって」
「ヒナタが来るとしか聞いていない」
不服そうなシノに応えようとキバが口を開きかけた時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「おっ。来た来た!」
その場にシノを放っぽってキバが笑顔で玄関へ向かいドアを開けると、僅かに鼻の頭を赤くしたヒナタの姿。
「よう!待ってたぜ」
「あ、あの…お招き、ありがとうございます…!これ、お土産!」
キバが破顔して出迎えると、ヒナタは慌てたように一礼し、ビニール袋を差し出した。
そんなヒナタに、呆れたようにキバが言う。
  「お前な…ただの宅飲みなんだから、んな改まる必要ねーだろうが。礼とかいらねーし。俺等の仲だろ?」
な。と同意を求めると、ヒナタは再び慌てて手を引っ込め「ご、ごめん…」と呟いた。
誤り癖は、相変わらずだ。
キバは一つ溜め息を吐いてから、しょーがねーなーと呟いて、唐突にヒナタの首に腕を回して捕獲する。
「まあいいから。はい、入った入ったぁ!」
「!!??!?!」
無造作に連れ込まれて、目を白黒とさせるヒナタ。
しかし部屋に通されてシノの姿を認めると、数度瞬きをしてどうにか落ち着いたらしい。
キバが、腕をはずしてバンとヒナタの背中を叩く。
「どこでも、てきとーに座ってな」
そう言って、ヒナタの手からお土産を奪い取って冷蔵庫に向かった。
「お、なんかいっぱいある」というキバの声を背に聞きながら、部屋の入口に残されたヒナタは、遠慮がちに部屋に足を踏み入れる。
部屋のおよそ半分はベッドが占領し、その横に小さめの円卓が置かれていて、シノはその間に座っていた。
ベッドの辺に背を預け、片膝を立てている。
「……シノくん…久しぶり、だね…」
いそいそと自分の右隣の席に座るヒナタを目で追い、ヒナタが腰を下ろしたのを確認してから、シノも口を開く。
「……ああ。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「シノくんも…。怪我とか、してないみたいで、良かった…」
漸く場に慣れてきたヒナタが、シノの無事を確認して安心したように微笑むと、ヒナタの前にシノが無言で紙コップを差し出した。
何だろうと受け取ると、温かい。湯気が立ち、中身はお茶らしい。
「外は寒かっただろう」
ヒナタが不思議そうにシノを見ると、そうとだけ応えられる。
そうしてシノ自身も、茶を啜った。
そんなシノに、ヒナタは思わずくすりと笑いを零す。
相変わらずなのは、お互い様だ。
「ああ~シノ!お前なにちゃっかり茶なんて用意してんだよ!」
冷蔵庫に土産を仕舞い終えたキバが、戻ってきて声を上げた。
その手には、皿と、ヒナタが買ってきたさきいかの袋。
形容し難い音を発していた主だ。
「………湯はポットにあったからな。茶葉と急須は昼間見つけた」
「家主に無断で手を付けるのは無礼なんじゃなかったのかよ!!」
「急須には使った形跡が無かった。そして茶葉もそろそろ使用した方が良いと思われた。故に、これは例外だ」
皿を円卓の真ん中に置きながら噛み付くキバに、シノが淡々と受け応える。
何があったか知らないが、その昔と全く変わらぬやり取りに、ヒナタはくすくすと忍び笑い零した。
「ヒナタ、なに笑ってんだよ」
ヒナタの向かいに腰を下ろしたキバが、ぶすっと不満げな表情をしながら、ヒナタの目の前に真新しい紙コップを置いて口を開けたビール缶を傾けてくる。
ヒナタはごめんと謝りながらもまだ苦笑顔で、紙コップを手にキバの酌を受けた。
そうして缶の半分程を注いだキバは、ちらと急須で茶を入れるシノを睨んでから、それでも何も言わずにビール缶を掲げる。
「んじゃ、久しぶりの第8班集合に」
乾杯。
と、アルミ缶、ビールの入った紙コップ、お茶の入った紙コップが合わせられた。




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