夜の帷が下りた頃、チカチカと点滅を繰り返す街灯の上に、キバは降り立った。
かなり急いで飛んで来たため、冷たい夜風が心地良い。
空を見上げれば、満天の星。
流れ星は見当たらないので、適当に目を付けた星に注文をつける。
「ぜってー、いい夜にしろよなっ!」
承諾か拒絶か。
白い光が、瞬いた気がした。
白灯
Scene1.ヒナタの冒険
コンビニの溢れるような電気の中で、ヒナタはお酒コーナーの前に立ちつくしていた。
こう言うところで、こういう物を買った経験は今まで無く、どれが何なのかも実はよく分からない。
しかし、折角誘ってもらったのだから何かお土産を持っていかなければいけないと、ハナビにも注意されたのだ。
一般的に、軽いお酒と、おつまみになる物を何か。
ヒナタはカゴを握り締め、意を決して、二十歳未満が開けてはいけないその冷たい扉の取っ手に、手を掛けた。
ヒナタがキバに出会ったのは、2日掛かりの任務の報告書を提出し終えて帰宅する途中だった。
太陽が西に傾き、もうそろそろ暮れだすかと思われる時分。
突然、聞き慣れた声に呼び止められて振り返ると、赤丸の背に乗ったチームメイトが成長しても尚やんちゃな笑顔を浮かべながら降り立った。
彼と会うのは2週間ぶりで、それほど久しぶりというわけでもなかったが、元気かどうか最近変わりはないか等の挨拶を交わして立ち話を始めた。
その中で音信不通のシノくんが心配だと話したら、なんと『シノなら今ウチに居る』と言うではないか。吃驚した。
その上『今夜暇ならウチで飲まねーか』とのお誘いまで受けてしまった。
キバとお酒を飲んだことは何度か有ったが、大抵紅も一緒で、落ち着いて飲んだことはなかったし、
久しぶりにシノくんにも会いたいと思い、少し悩んだが有り難くお誘いを受けることにした。
父上は、いい顔はしないだろうが止めはしないだろう。
ハナビにも一応言っておいた方がいいだろうか、等キバと別れた後色々考え込みながら、ヒナタは再び帰路についた。
「ちょっと、買い過ぎちゃった…」
コンビニでの冒険を終えたヒナタは、すっかり暗くなった夜道をのんびりと歩いていた。
白いビニール袋の中で、ガチャガチャと缶と缶がぶつかったり、おつまみの袋に入っている薄い
ブラスチックが形容し難い音を立てるのを少しでも抑えようと、何度目なにるか、袋を持ち直す。
ふと夜空を見上げると、白い息が立ち上る先に満天の星。
冷たさにやはり身は震えるが、しかしその冷えた空気のお陰でとてもきれいな星空が見れるのだと、ヒナタは感謝を込めて微笑んだ。
そんな風にゆっくり歩みを進めていると、不意にぱっと灯りが目の端に入ってくる。
天上を見上げていた顔を下げれば、少し先に一本の街灯。
チカチカと点滅を繰り返す心許ないそれは、キバの新居への道標だ。
そこの角を曲がって自動販売機を過ぎたところに、キバのアパートがある。
部屋の前までは連れて行ってもらったことがあり、その時おしるこを奢ってもらったので、よく覚えていた。
ヒナタは今にも切れてしまいそうな電灯の下を通り抜け、ガチャガチャと鳴る袋を持ち直して、緊張の内に心を弾ませて、キバの家へとゆっくり向かった。
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