*まえがき

バレンタイン企画の続きです。
お読みでない方は、文章中の「かくかくしかじか」をクリックしてください。
「プロローグ」ともつながっています。




「し‥‥シノくん‥!」
迷子の子豚を保護し、Dランク任務を無事終えた後、ヒナタは一大決心をしてシノを呼び止めた。
振り向いたシノに、ますます緊張し、頭が真っ白になる。
しかし言わなければ、と胸の前で組んだ手を固く握りしめた。
「あの‥‥あの‥‥‥‥わ‥わ‥‥わたしと付き合ってほしいの!」


告白


ああ、俺はシノが好きなんだ。
そう、キバが漠然と自覚したのはバレンタインデーの日。かくかくしかじかでチョコをもらうことになった時、
自分の気持ちが信じられなかったが、どう頭をひねって胸に手を当てて考えても、答えは一つしか出なかった。
俺は、シノが好き。
男同士とか性格が正反対で気が合わないだとか、思うべき所は色々あるはずなのに、
浮かんできたのは幼い頃森で出会った琥珀の眼の少年。その少年がシノだったと知ったのは、アカデミーを卒業した後だった。
散歩をしながらキバはそんなことを悶々と考えていたため、上の空。
かなり前方で赤丸が不満そうに吼えてようやく我に返った。
「悪ぃ!赤丸!」
慌てて駆け寄り、不満そうな相棒を抱き上げる。
「悪かったって。機嫌直せよ」
小さく唸る赤丸の頭を撫でてキバは機嫌を取ろうとしたが、楽しみにしていた散歩を台無しにした罪は重いようで、なかなか許してもらえない。
しばしご機嫌取りを続けていると、赤丸は何かに気付いたようでぴくんと耳と鼻を動かし、唐突にキバの腕からすり抜けて駆け出した。
「あ!おい、赤丸?!」
慌てて赤丸の後を追う。少し走ると、キバも赤丸が何に気が付いたのか分かった。
よく知る二つの匂い。ヒナタと、シノの匂いだ。
今日は休日で任務も演習もない日。それ故約束もせず二人に会えるのは、赤丸だけでなくキバにとっても嬉しいことだ。
赤丸と二人の匂いを頼りに、角を曲がる。
「シノ!ヒナ‥‥!???」
元気に二人の前に駆け込んだキバだったが、二人を目にした途端目を丸くする。
しゃがんで赤丸を撫でるヒナタと、そのすぐ後ろに立ったシノ。
構図はいつも通りだが、二人の服装がまるで違う。
いつもの格好ではなくて、二人揃って和服なのだ。
偶然出会ったようではなく、どう見ても示し合わせたであろうその姿に、キバは絶句した。
繰り返すが、今日は任務も演習もない、休日。休日に、シノとヒナタは約束を交わしていたとしか思えない。
‥‥‥‥‥デート以外の、何物でもない。
「あ、キバくん」
ヒナタが顔を上げ、キバを見て微笑んだ。
いつもより可愛く見えるのは、多分、ほのかに化粧をほどこしているからだろう。水色の質素な着物が、とても馴染んでいる。
一方シノも僅かに顔を上げ、赤丸からキバへ視線を移した。
サングラスは普段通りだが、こちらも藍色の着物を着こなしている。
「‥‥‥‥え‥と‥‥」
ようやく声を発することはできたが、なんと言ったらいいのかわからず言葉にならない。
しばらく、キバは仲良さげな二人に呆然としていたが、じわじわと頭が混乱してきた。
これは、どういうことだろう。デートだよな。デートだよな?なんで、シノとヒナタが?なんで、シノが?だって、シノは俺の‥‥‥。
「キバ?」
突然名を呼ぶ低い声に、はっと我に返る。
シノが、眉を寄せて不思議そうに僅か首を傾げていた。
大人びているくせにたまに取る、子供っぽい仕草。
好きだ、と思う。好きで好きで、堪らない。
しかし、思いに反して、キバはへへっと笑っていた。口の端を上げ、挑発的な笑みをこぼす。
「あ~。‥‥なんか俺、お邪魔?」
揶揄するような口調と声で言い、一歩後退する。
鼻の奥がツンとし、ああこりゃ泣くな、と他人事の様に思った。
「赤丸、行くぞ!!」
その前にと踵を返し、赤丸に号令をかけて走り出す。少し遅れて、赤丸もその後を追いかけて走り出した。
「あ‥え‥‥キバくん?!」
その背中にヒナタが慌てて声をかけたが、すでにキバは角を曲がり姿を消していた。
ヒナタが狼狽えてシノを見上げると、シノはしばしキバの消えた角を見つめていたが、ふいにヒナタと顔を見合わせて静かに言った。
「気にするな」


    *


走って走って、キバはとにかく走った。
後を追いかける赤丸が、キバの様子がおかしいので不安そうな面持ちで見上げていたが、気付きもしなかった。
ある屋敷の前を通り過ぎたところで、キバの足がようやく止まる。
十歩程後戻りして確認したその屋敷は、奈良シカマルの家。
この際、誰でも良かった。
とにかくこの鬱憤をぶつける相手が欲しかった。
「おい!シカマル!!居るか!?」
ガラッと遠慮なく玄関の戸を開け放ち、これから被害者になる者の名を叫ぶ。
しばらくしてから相変わらずのやる気なさげな顔でめんどくさそうに登場したシカマルは、
やり場のない怒りを惜しげもなく向けてくる同期に、居留守を使えばよかったと心の底から後悔した。
「‥‥‥いいじゃねーの。お似合いだろ」
通したわけでもないのにずんずんと家に上がり込み、シノとヒナタが付き合っていたと散々喚き散らすキバに、シカマルは辟易して言った。
すると物凄い形相で睨まれる。
「いいわけねーだろっ!!だいたい、なんでだよ!奴等が話してるとこなんてほとんど見なかったし!
いっつも微妙に距離おいてたし!仲良くなんてなかったんだぞ!?」
「‥‥俺が知るかよ。‥‥‥ったく、メンドクセェ」
うるささに耳を塞ぎながら、それでも聞こえてくるキバの主張にシカマルは応えた。
冷めやらぬ感情を剥き出しにしてまるで犬のように唸るキバ。
ただ二人の関係を知らなかったことが気に入らずムカついている、というわけではなさそうだな、とシカマルは思った。
知らなかったことに対しての不平不満ならそろそろ落ち着いても良い頃だし、何よりわざわざウチに来て喚かずとも
本人たちの前で「なんで言わなかった」と怒鳴ればいい。
しばし思考してから、徐に聞いてみた。
「‥お前、もしかして気があったのか?」
それなら、態度に納得がいく。
好きな相手が別の、しかも仲間と良い仲であればショックも相当なものだろうし、本人たちに問い質す気にもならないだろう。
言ってみて、キバの反応に確信する。
びくっと肩を震わせて、今まで止まることを知らなかった口を噤み、シカマルを凝視してからふいに目を泳がせる。
「図星か」
とどめを刺すと、しゅんと項垂れた。
シカマルははぁと溜息を吐き、めどくさいことになったと眉を寄せた。
恋愛相談など、御免被りたい。
しかし、いつになくしょ気るキバを放っておける程無慈悲でもない。
「俺はどうしたらいいんだよ‥」
と、救いを求める仔羊ならぬ犬を前に、菩薩にでもなった気分だ。
「‥‥‥いいんじゃねえ?片思いでも。ガイ上忍みたいに青春してみれば?」
面倒くさいと思ってはいだが、シカマルはこれでも真面目に言ったつもりだ。
そんなシカマルの言葉を受け、キバの脳裏に激濃い上忍が妙なポーズを取っている姿と、ついでにそれに追随するそっくりな弟子の姿が浮かんだ。
「絶対、嫌だ!」
キバは即効で拒否した。
「いや‥別にあれを見習えとは言わねーよ。さすがに。ただ、相手の幸せを考えて身を退くのもありだが、お前はそんなキャラじゃねーし、らしくないだろ」
「そりゃ、まあ‥‥」
「なら、諦めずに勝負するっきゃねーだろうが」
「‥‥‥でも、勝負って言ってもよ‥」
相手はあのヒナタだ。
そもそも、シノは男であって、自分も男。女のヒナタを相手にしては勝ち目がないというか、端から勝負にならない。
眉間に皺を寄せ俯いて考え込むキバを見て、一方のシカマルも思案していた。
そもそも、本当にシノとヒナタが付き合っているのか?どうにも信じがたい。
確かにあの二人が恋人同士でも、キバには悪いが違和感がない。静かな雰囲気も似ているし、やたらイチャイチャしないで
傍にいるだけでって感じがよく似合う。‥‥しかし。シノについては感情が面に出ないのでなんとも言えないが、ヒナタは、
ナルトに気があったはずだ。それはもう、誰から見ても明らかなくらい一途に。それがシノに傾くとはどうも思えない。
「なあ、キバ。本当にデートだったのか?」
考え込むキバに問うと、目線だけ向けられる。
「‥‥俺に内緒で、二人揃って、他に何だってんだよ」
「なんか‥‥用事とか‥」
「ヒナタ化粧してた」
「化粧が必要な用だってあんだろ」
「シノと一緒に?」
「そりゃあ‥シノと一緒じゃないと行けないとか」
「なんだよ、それ」
なんだ、と問われてもそんなこと知るものか。
シカマルは口を噤み、どうしたものかと考えて、話題を変えることにした。
「で、お前いつから気があったわけ?」
「‥‥‥‥自覚したのはバレンタインの日にチョコもらった時。でも、好きになったのはずっと前」
今度は目さえも上げず俯いたまま答えるキバ。
好きになってもそれに気付いていなかったとは、なんともこいつらしい。とシカマルは思いながら先を促した。
「ずっと前って、いつ」
「‥‥‥アカデミー入ってすぐ‥。ほら、呪いの森に迷い込んだ時。覚えてるか?」
呪いの森‥‥?
シカマルは眉を寄せた。確かに、そんなことがあったのは覚えているが‥‥。
どうにも自分が考えている方向とは違うところに向かっている気がした。
なぜなら、どんなに記憶を手繰り寄せても、そこにヒナタはいなかったからだ。
そうして、シカマルは自分がとんでもない勘違いをしていたことに気が付いた。
「もしかして、お前の好きな相手って、シノか!?」
「あ‥? 何を今更‥‥」
シカマルが突然あげた素っ頓狂な声に、キバはようやく顔を上げた。
それと同時に、シカマルが勘違いしていたことに気付いてはっとする。
シカマルは、キバがヒナタを好きだと思っていたのだ。
「あ~! やっぱそうか!そういや、お前、森ん中でシノに見取れてたもんな!!」
シカマルは食い違いが解消されてすっきりしたせいか、顔をにやつかせて今日はじめて表情を生き生きとさせた。
「な、な、なんだよ!! 悪ぃか!っつーか、お前、あれがあいつだって知ってたのかよ!?」
「知ってるもなにも、アカデミーで見かけた時に気付いたぜ? その時の話したし」
「!?」
シカマルの言葉に、キバは衝撃を受けた。
自分はアカデミーを卒業してからやっと知ったというのに、シカマルははじめから気付いていたというのか。
そう言えば、と思い出したのは、森での別れ際シカマルに台詞を横取りされたこと。
‥‥‥いつだって先を越されていた。
「しっかし、そうか。シノか。そいつは盲点だった」
何やら得心した感のシカマルはしきりに頷く。キバはふて腐れながらも気になることを聞いた。
「変だと‥思わねーのかよ?」
「あ? ‥‥‥ああ。いいんじゃね、別に。気持ちはわからないでもねーよ。あいつの眼きれいだし、妙に惹かれるもんな。それに、時々可愛いじゃん」
「かわ‥‥っ!?!」
可愛い!? キバは目を見開きシカマルを凝視した。
いつもいつも、なんでこいつはそういうことを恥ずかしげもなくぽんぽん言えるのだ。
「でも、そうなると難しいな。確率ほぼゼロ。諦めるしかねーんじゃねえ?」
「さっきと言ってること違うじゃねーか!!」
「さっきのは、ヒナタだと思ってたから。お前、女のヒナタ相手に勝てると思うか?」
キバはぐっと言葉を詰まらせる。それは、先程自分も考えたことなので言い返せない。
う~う~と唸り頭を抱えたキバに、シカマルは長くなりそうだと時計を見た。
キバが来たのは一時くらいだったはずだがすでに三時近い。
小腹も空いてきたし、この重い空気から一瞬でも解放されたいと思い、シカマルは立ち上がった。
「三時だし。おやつでも持ってくるか。息抜きになるだろ」
幸い、チョウジが来るのでお菓子は常備されている。
しかし、三時と聞いた途端キバの様子が一変した。
「三時!?やっべ、俺帰る!!」
「え‥‥」
「母ちゃんに三時までに帰ってこいって言われたんだ! 遅れたら殺される!!」
やはり、どこの母ちゃんも恐いらしい。恋の悩みを一瞬にして吹き飛ばす恐怖は、シカマルにも痛い程わかった。
大慌てで庭を駆け回っていた赤丸を呼び寄せ、キバは「邪魔したな!」と挨拶もおざなりにシカマルの家を飛び出した。
嵐のようにやってきて去っていった同期に、なにはともあれ帰ってくれて助かったと大きな溜め息を吐く。
「しかし、シノとはね‥」
この先どうなることやら。
とにかく自分に火の粉が降りかからないことを、シカマルは切に願った。


    *


なぜ三時までに帰らなければいけないか、理由は知らないが、とにかく滅茶苦茶厳しく言われた。
全力疾走で戻ればぎりぎり間に合う、とキバはそれこそ死に物狂いで飛んで帰った。
しかし、結局遅れることとなる。
その原因は、シノが、家の前に立っていたからだ。
「シ‥‥シノ‥‥?!??」
息も絶え絶え家に到着したキバは、目を丸くした。
懐の中で全く疲れていない赤丸が、キバの代わりに元気に挨拶する。
「な、なに‥やって、んだ‥‥?」
「お前に言っておくことがあるから待っていた」
「中に、入りゃいいじゃん」
「家に上がる程の用事ではない。それに‥‥」
ちらと玄関を見、シノは少し首を傾げた。
「入れない雰囲気だったのでな」
「?」
キバも玄関の方を覗く。と同時に、何かが割れる音と怒声が聞こえてきた。いつもの母親の声と、もう一つは男の声。
「‥‥‥‥あ。父ちゃん帰ってきたんだ‥‥」
だから、三時までに帰れと言われたのか。
キバは頭を押さえた。
キバの父親は里内の獣医施設で働いていて、そこに籠もりきりなので年に2,3回しか帰宅しない。
母は静かになってせいせいするとかよく言っているが、キバもそう思う。
と言うより、母と父が一緒になると相乗効果か、煩さと危険度が四倍になるのだ。
「お前の家はいつもこんなに賑やかなのか?」
シノが興味深げに問う。
「いや。いや!いつもはもっと静かだ!」
キバが首を振り激しく否定すると、シノはそうなのか、と頷いた。
そんな時、そう言えばいつもは家の前で別れるだけで中に招いたこともなかったな、とキバは思った。
こんな風に家の前で立ち話をしたこともない。別れの挨拶を軽く済まして、お互いさっさと別れてしまっていた。
「キバ。要件だが」
「ん?あ、ああ」
ふいに話題を元に戻し、シノはキバに正面を向けた。
キバも、つられてシノの真正面に起立する。
一体、言っておくこととはなんだろう‥‥?
期待と不安を胸に、キバはシノの言葉を待った。
一拍おいて、シノが口を開く。
「俺とヒナタは、デートをしていたわけではない」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥へ?」
随分、間抜けな声が出た。
キバはぽかんとし、しばし放心状態になる。
「‥‥‥‥‥デートじゃ、ない?」
やっと言葉を返せると、シノはうむと頷く。
「茶会へ行っただけだ」
「チャカイ?」
「ヒナタがスズメ先生に招待を受けたらしいのだが、一人では心細いので一緒に行ってほしいと頼まれた。
お前は作法を知らないだろうし、興味もないだろう?そう思って俺もヒナタも誘わなかった」
確かに、そんな退屈なところには近付きたくもない。
「どうやら誤解させてしまった様だったのでな。それだけ言いに来た」
言うことだけ言い終え、シノは踵を返す。
そんなシノを、キバは慌てて捕まえた。肩を掴むと、シノがゆっくりと振り向く。
「なんで、わざわざそんなこと言いに来たんだよ。この次会った時でもいいじゃねーか」
キバの収まりかけていた心臓が、再び高鳴りだす。無駄を嫌うシノの行動にしてはおかしい。
これではまるで、一刻も早く誤解を解きたかったみたいだ。
ヒナタと付き合っていなかったという事実を知って安心したせいか、もしやと都合の良い考えが浮かぶ。
「なあ、なんでだよ」
もう一度、シノのサングラスを見つめながら問う。キバは思わず顔がにやけそうになるのを、必死にこらえた。
こらえながら、シノの答えを待つ。待つ。
そして漸く言われたシノの返答に、どきりとした。
「お前を安心させるためだ」
まさか、バレていたのか。
「き、気付いてたのか‥‥?」
「お前の態度は、ヒナタの次にわかりやすい」
確かにこいつの洞察力は鋭いが‥とキバが恐る恐る聞くと、シノはきっぱり言った。
形容し難い多大な衝撃を受け、自失茫然とするキバ。
そんなキバにシノは再び向き直り、キバと同じようにぽんと肩に手を置いた。
「心配するな。俺は恋路の邪魔をする程、野暮ではない」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あれ?
半分飛んでいた意識が、シノの言葉を聞いてキバに舞い戻った。
恋路の邪魔‥‥?え?‥‥‥‥‥‥‥‥‥って‥‥それ‥‥。
「っ、ぜんぜん、わかって、ねえじゃねーか!!!」
思わず肩を掴む手に力が入り、その力に任せてキバはシノに噛み付いた。
シノも、シカマルと同じ勘違いをしているのだ。
「鋭いんだか鈍いんだか、はっきりしやがれ!!」
「‥‥‥」
キバに怒鳴られ、シノはわけが分からないと眉を寄せた。一見すると怒った様にも見えるが、キバやヒナタには見分けがつく。
不思議そうな表情。
なぜ自分が怒鳴られ、キバが怒ったのか全く分かっていない。
キバは大きく深呼吸をして、怒鳴る勢いで顔を近づけたために見えるようになったサングラス越しの目を見つめる。
「いいか。よく聞けよ」
殊更ゆっくり、言い聞かせる。
もしかしたら、元に戻れなくなるかもしれない。
今のような、親しい関係を崩すことになるかも‥‥。という消極的な考えも頭の隅にあった。
それでも。
今、言わなければ、と強く思った。
今回は誤解だったけれど、いつ誰に取られるかわからない。
またシカマルに、先を越されるかもしれない。
後手に回るのは、もう嫌だ。
取られる前に、先手を打ってやる。
キバは、夢中で言った。
「俺が好きなのはな、お前だ。シノ」
シノの寄せられた眉が解かれ、驚く表情が浮かぶ。
「俺は、お前が好きなんだ」
言うだけ言うと、なんだかすっきりした。
ふっと力を抜き、身を離してシノの肩も解放する。
「よっく覚えとけ!」
そう言い捨て、キバは家の中に駆け込んだ。
玄関に入ると、相変わらず喧嘩なんだか談話なんだかわからない騒々しさが身を包む。
一気に現実に引き戻された気分で、キバはほうっと息をつきその場に崩れた。
懐で、今まで為す術無く黙っていた赤丸がごそりと動く。
「あ、わり‥赤丸。また忘れてた」
しかし今度は機嫌を損ねるでもなく、赤丸はキバの頭に上体をのっけて小さく鳴いた。
今回だけは、許してあげる。





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あとがき
‥‥‥‥‥もっと上手く書けないだろうか。
とは思うのですが、これで勘弁してください。
プロローグ、若草色のバレンタインに続く告白編です。妙に長くなりました。
しかもキバ、やり逃げです(笑)
そして、シカマルはやはり相談相手(被害者)としてはまり役ですね。
シカマルと赤丸はこの先もキバとシノに付き合うことになるでしょう。御愁傷様。
さて。
二次作品でもあまり見ない(見ますか?)キバのお父さん登場です。
当然、設定は管理人の妄想に寄るものであります。
ツメさんに尻に敷かれる夫の図も良いですが、敢えて勇敢に立ち向かってもらいました。
 私的には、キバは母似でハナさんは父似。
ついでにスズメ先生というのは、アカデミーでサクラたちくノ一を教えていた実際漫画に登場する方です。
 脇の脇役ですから、念のため。