「…………ぁ…」
シノの衣服の前を開け、喉元から胸、腹へと撫ぜていく。
「……シノ…寒くないか」
ゲンマが問えばシノは首を振り「熱い」と答える。
その返答にゲンマは微笑むと、ズボン越しにシノの物にそっと触れた。
「………」
シノは、正直に言えばゲンマの手は冷たくて寒気も覚えたのだが、自分の身体に触れることでその手が暖まればと我慢していた。
しかし身体が火照ってきたことは事実であり、その熱が伝わってゲンマの手との温度差も無くなってきている。
もともとこの熱はゲンマの所作によるものなのだからそれがゲンマに奪われるなら良いだろう。
シノは、自身を隠す衣がくつろがされていくのを感じて、長く深い息を吐いた。
「―――っ、」
まだ冷たさの残ったゲンマの指が蕾に触れる。
シノは身を竦めて反射的に口元を押さえていた。
経験の差か、ゲンマの手慣れた愛撫は巧すぎていつもシノの方が先に達してしまう。
何とか耐えようとしては結局耐えきれなくなってしまうのだが、それでも思わず我慢してしまうのだ。
「シノ…」
ゲンマがシノの一物を片手で弄ったまま身体を伸ばして覗き込んでくる。
ゲンマは、帽子は脱いでいたが上着はまだ着たままで、楊枝も銜えたままだった。
シノのサングラスを外そうとしたようだが天辺で未だ煌々と灯るロウソクの火に気付き手を止める。
「おっと、消しとかないとな」
そして、そう言うと口に銜えていた楊枝をロウソクに向かって吹き付けた。
狙いは見事に命中しロウソクの火がフッと掻き消える。
「……お見事…」
シノが呟くとゲンマはにっと笑い、今度こそシノの目を覆い隠すサングラスを取り上げた。
シノの視線とゲンマの視線が隔たりなく交わる。
そしてどちらともなく、口付けた。
始めはそっと軽く触れるようなキスが、繰り返す度に徐々に深まり激しくなっていく。
「ン……んふっ、ふ…ぅん…」
口に侵入したゲンマの舌が歯列をなぞり頬内を這いシノの舌を絡め取る。
シノは眉を顰め苦しそうに喘ぎながらもゲンマの背に手を回してもっとと言うように強くしがみついた。
「ぁ…はあ……は…んあ」
口腔内を堪能するように丹念に舐められ、吸われて、ゾクゾクと躰が震える。
軽く扱われているだけの下にまでその興奮が伝わって、ゲンマの手の中で張り詰めていくのが判った。
息を継いだ瞬間に零れた唾液をゲンマが舐め取り、チュッとキスをして唇を甘く噛んでくる。
ビクンと跳ねる身体に、勃ち昇る性器。
息づき始めたシノの躰をゲンマが優しく扱いながら撫で下ろしていく。
唇から喉、鎖骨から肩のライン、胸、脇腹、腰…。
手の平全体で触れ、撫でながら舌も這わせる。
「あ…やっ」
腰元を撫でつつ胸の小さな突起を口に含めばシノは堪らず身を捩った。
顔を背け逃げようとするシノを、しかしゲンマは逃さず攻め続ける。
少し可哀想な気もするが高ぶる気持ちに逃がしてやることは出来なかった。
「―――っ、―――っ!」
口を押さえ必死に声を押し殺すシノ。
乳首を転がし吸ったゲンマの口舌は、這うように下へと向かい、くつろがされたズボンと下着の合間から覗く白い肌に着く。
内股や根元を愛撫し濡らせば、シノの蕾もトロトロと濡れ始めた。
ゲンマは股の辺りで止まっていたシノのズボンと下着を膝まで下ろし、脚を折り畳ませる。
さすがにこの雪の中、靴まで脱がせて剥ぎ取るのは忍びない。
挿れるなら後ろからか…などと考えながら、溢れ出した愛液を舐め取るようにしてシノへの愛撫を始めた。
「―――っ、あ…、ぁ」
それは、シノが何度受けても慣れない恥辱と快感。
好意を抱く相手の前に性器を晒してそれを銜えられる。
それは性行為をする上では、何も不自然な状態ではない。
ゲンマがこの格好を不様などとは思っていないことも知っている。
が、それでもシノはどうしても、こんな痴態をゲンマに見られていると思うと恥ずかしくて仕方がないのだ。
しかし人間の性というのは奇妙なもので、そんな羞恥心でさえ興奮を呼び起こす火種になってしまうから堪らない。
その上、更に性感の中心がゲンマによって刺激される言い様のない感覚に襲われて、シノは耐えがたい悦びに苛まれ益々どうしようもなくなってゆく。
「ふ…ぅウ……、ン…ンん」
肩が竦まり押し当てた手を唇が噛む。
しかしいくら我慢しても、厭らしい音を立てて犯される身体は自然と動き出してしまうのが口惜しい。
もっとと言うように脚が開き腰が揺れ、耐えるために噛んだ手も唾液に汚れて淫乱になるだけだ。
「シノ…後ろ、向けるか」
ゲンマも少し息を弾ませ、そう言ってシノを覗き込んできた。
シノは今にも泣き出しそうなのを堪えてゲンマを見つめると、そっとゲンマの頭に手を伸ばし上体を起こして口付ける。
そして言われた通りに俯せになって背を向け、そこに外して置いた手袋とマントを抱き締めた。
そんなシノの返答にゲンマが微笑む。
上着は着乱れていて、露わになっているのは肩からうなじにかけての背の一部と、捲れた裾からは腰元が覗いている。
普段、シノのことはその無愛想な反応が可愛いだとか時々垣間見える子どもらしさが愛らしいだとか思っているのだが、こういう時には妙な色気を感じてしまう。
自分と関係を持ち抱かれるようになったことが多分に影響しているのだろう…と思うと、ゲンマは微笑みを少し複雑な笑みに変えてシノを背後からそっと抱き締めた。
この歳の少年はあっという間に青年へと成長し大人になっていくだろう。
このままシノが大人になったらどうなるんだろうかと、ゲンマは思ったのだ。
シノのことだからきっと立派な忍になるだろうし中忍どころか特別上忍、あるいは自分より上の階級である上忍にも成り得るだろう。
ともすれば自分の上司にだってなりかねない。
まあそれはそれで、自分が生きている内は手放すつもりはないのだが、問題はこの妙な色気まで成長してしまわないかということだ。
普段の露出の少なさからすると問題は無さそうだが、シノは何気雰囲気に出やすい。
そうなったら、悪い虫が付かぬよう気を付けなければならなくなるだろう。
今でも既にベタ惚れだというのにこの先はもっと大変になりそうだ…。
そう思ってゲンマは苦笑を浮かべると、色っぽいうなじに口付けた。
とりあえず、一番に付いた悪い虫は自分だ。
するりと腰に回した手を尻に移し撫で回す。
そして濡れたシノのところから粘液を指で拭い取ると、秘部にあてがい、ゆっくりと挿れた。
「ん……」
シノが鼻に掛かったような甘い声を出す。
緩やかに抜き挿しを繰り返し徐々に広げていけば、内部からの刺激を受けてシノは敏感な反応を示すようになった。
ビクビクと反射的に感じるシノを抱き竦め、乱れた呼吸と喘ぎを耳に聞く。
「あっ!」
前立腺を見つけ出しその痼った部分を押し込めば、シノは背を反り返して声を上げた。
「あぁ……」
一瞬イったかと思ったがシノは耐えたらしい。
荒い呼吸でマントを握り締めている。
そして更にグチュグチュと弄り続けてもシノは耐え続けていた。
シノは我慢強く自我が強い。それは忍としては修行や拷問に耐えるのに必要で重要な素養だが、性行為においては少々困りものだ。
素直に恥などの自我を手放せないシノは必要以上に我慢してしまう。
しかしそこは、シノが出来ないならこちらのテクニックで解放させてやるのが務めだろう。
ゲンマは片方の手を可哀想なくらい張り詰めたシノの部分へと伸ばした。
「うあ!」
片手で内部を、そしてもう一方の手で性器を擦られて、シノは嬌声を上げた。
耐えきれない程の快感が一気に襲いかかってくる。
「くっ――あ! ああっ! あっ、ん、ああぁあ!」
ついにはポロポロと涙が零れ出し、我慢の限界に追いやられた。
「はあっ…! や! あ! ああっ!!」
「シノ……もう少し」
熱い吐息で耳元に囁き掛けられ、シノが頭を振って涙溢れる目を瞑る。
「あ、あ、あ、あ、あぁあぁぁあああ――――!!!」
もう、限界だった。
理性が弾け飛んで頭が真っ白になる。
「あ……はぁ…は……っ」
一気に解放されたシノはぐったりとして放心したようになったが、涙は止まらなかった。
「シノ……」
ゲンマがそんなシノを抱き締める。
シノが握り締めている自分のマントで涙を拭ってやり、宥めてやれば、シノも次第に落ち着きを取り戻していった。
「…………」
もぞもぞと動き出したシノに、ゲンマが抱く腕を緩める。
するとシノは未だ涙に濡れた睫毛と瞳をゲンマに向け、身体を捻るとゲンマの首に腕を回して口付けてきた。
「………次は、あなたの番だ…」
シノはそう言うと上体を起こして脚に引っ掛かったままのズボン類を脱ごうとしたが、ゲンマに止められる。
「待て待て。こんなトコで下半身まっぱになるつもりか?」
「……別に寒くはない」
「でも脱がなくたって、さっきのでやれば…」
「それは嫌だ」
きっぱりと言ったシノは足を引いてもう少し楽な体勢を取ってから続けた。
「なぜなら、背後からされると俺は手も足も出せなくなる。さっきは………あなたがやりやすいかと思い従ったが……その…もうそれも済んだのだし……」
「それ…って………慣らし?」
ゲンマが少し間の抜けた声で言えば、シノは徐々に俯いていった顔を真っ赤にした。
要するに、慣らすのは後ろからでもかまわないが、本番は正面切ってやりたい……と言うことなのだろう。
「それに……後ろからでは…」
「ん?」
頬を染めたまま上目遣いにゲンマを見遣ると、シノは睨むようにして言った。
「………キスができない……」
「…………」
シノの悪態に、なんとなく正座の格好になっていたゲンマは目を瞠ってフリーズした。
何と言うか、もう、本当に…。
「……お前、可愛いなぁ」
可愛くて可愛くて堪らない。
ゲンマはまいったと言うように笑うと、「よぉし、なら脱げ!」と自分も気合いを入れるように上着を取っ払う。
だが更に脱ごうとするのを、今度はシノに止められてしまった。
「ま…待て。あなたは脱ぐな」
「はぁ? 何でだよ。お前が半身晒すなら俺だって……それともお前が脱がせたいとか?」
「違う。そういうことではない。とにかくあなたはそのまま、極力服を着たままやれ」
「だから何でだよ。それじゃ不公平だろ」
「それは……何故なら………」
シノは言葉に詰まった。
まさか、『ゲンマが腹巻きや股引を使用している姿を再確認したくないから』……とは言えまい。
「………何故なら…」
シノは必死に頭を巡らせて考えた末に、答えた。
「『子どもは風の子、大人は火の子』と言うからだ」
「………何だそりゃ。子どもって…珍しいな、お前が自分を子ども扱いするなんて」
「―――っ、」
疑わしげなゲンマの眼差しを受けて僅かに怯むシノ。だがそれだけで白状するシノでもない。
「……歳を考えろと言っている。これで風邪でもひかれたら俺の責任になる」
しかしシノの科白はゲンマの反感を買い、不屈の魂に火を点けたらしい。
「歳って…なにか? 老化して俺の免疫力が低下してるって言いてぇのか?」
「……そう言うことだ」
「あ~あ~、そうかい。ならその歳食った大人から言わせてもらうけどな、責任があるのは俺の方だ。俺が、お前の、保護者なんだからな。
万が一風邪ひいたって、ガキに責任転嫁なんてするかよ。自分のケツは自分で拭くさ」
そんな大人げないゲンマの反論に、シノの負けん気も奮い立つ。
大人しい、大人びているとよく言われるシノだが、これで存外売られた喧嘩は買う方だ。
「…何が保護者だ。ある意味一番の危険人物だろう。それにガキ扱いは心外だ。俺だって自分の事は自分で責任を持つ」
「いっつもお前の尻拭いてんのは俺だろうが。それに心外っつーなら俺だって年寄り扱いは心外だ。
そもそもお前の方こそ、風の子って言うほど外で元気に遊んだことなんかねーだろ」
「……っ、余計なお世話だ。そっちこそ、こんな無駄に広いかまくらなど作って大人げない」
「無駄って何だよ。お前には浪漫ってモンが分からねぇのか」
「そんなものは知らん。必要以上ならそれは無駄だ」
「そんな頭の固いジジイみたいなことばっか言ってるから友だち出来ねぇんだぞ。
どうせ虫とばっか戯(たわむ)れて木ノ葉の里でだってまともに遊んだこと無いんだろ。お前はそれでも木ノ葉のガキか」
「だから余計なお世話だと言っている。それに人の趣味にまでケチを付けるな。それと、言っておくが虫と触れ合うのは修行の一環であって遊びではない」
「じゃあお前は何して遊んでたんだよ。つーか何を楽しみに生きてんだ」
「それは…………、」
「……………?」
シノが急に押し黙りゲンマをじっと見つめるのでゲンマも口を噤んだ。
蝋燭の灯りが消えた雪の竈蔵(かまどくら)は、入口から入ってくる雪明かりに白明を宿している。
その静かな雪影が、筋が通っているようで通っていない、冷静な者同士の子供のような口喧嘩の火を粛々と鎮火していった。
「……だから………」
シノが口火を切る。
「だから…言ったはずだ。………俺は…『アナタがいればそれで良い』と」
旅の行き先を問われた、シノの答え。
特別なことは望まない。
ただ、ゲンマと一緒にいられることが、今のシノにとっては何よりもの楽しみだった。
「…………」
シノが再び口を閉ざし、思い出したようにはだけていた衣服を掻き寄せ自身の腕を抱く。
俯いて身を縮めたシノに、ゲンマは寒いのだと判った。
「………」
何も言わず、腕を伸ばしてその体を抱き寄せる。
たじろいだようなシノに、ゲンマも言った。
「俺も言ったろ。……寒かったら温めてやるって」
「………」
沈黙したシノは頑なに口を閉ざしていたが、体は素直に、ゲンマにその身を委(ゆだ)ねていた。
「……だいぶ話が逸れちまったけど」
ゲンマは笑って、口喧嘩の原因となった脱ぐ脱がないの話題を思い出して言った。
「取り敢えずお前が言うなら服は着たままで良いよ。ただし…」
シノの身を離し鼻先を付き合わせて悪戯っ子のようにニッと笑ってみせるゲンマ。
「その代わり、俺はまだ若いんだってこと、この体に教え込んでやるからな」
「………」
きゅっと眉を顰めたシノが、不平そうに渋い顔を作った。
*(Scene7へ)