熱の所為 Ver.酔


「キバ、飲み過ぎだぞ」
「チョウジ、いい加減やめとけって」
今日は同期の新人下忍と担当上忍での新年会。
旅館を手配し、しっかりとした宴会場を借りて行われた宴会は、しかしとんでもない盛り上がりを見せていた。
未成年に酒を飲ませてはいけなかったのだが、酔って気分の良くなった紅がキバに勧めてしまったことがきっかけで、今ではシノ以外全員が飲酒している。
紅を筆頭に、サクラ、いのはハイテンションになってアスマとカカシに絡んで困らせ、ナルトはサスケを見ては意味もなく爆笑し、
笑われるサスケはいつも以上に辛辣な言葉をナルトに吐いて、キバとチョウジはとうとう度数の高い日本酒に手を出す始末。
ヒナタは既に部屋の隅で赤丸と共に寝入っていて、今正常なのは女3名に捕まっているアスマとカカシ、素面のシノと飲んでも変わらなかったシカマルだけだ。
シノとシカマルは日本酒に手を出したキバとチョウジをそれぞれ止めに入っていたのだが、酔っ払いが聞く耳を持つはずもなく。
「シノ、いいからお前も飲め!」
と、シノは逆に勧められてしまった。グラスになみなみと注がれたストレートの日本酒が、口元に差し出される。その匂いだけでも胸焼けしそうだ。
「いらん」
シノは眉間に皺を寄せて、酒の匂いから逃れるために一端キバから離れようとした。が、「逃さん!」とキバにしがみつかれて尻餅をついた。
しっかと腰に腕を回され、必然的にキバの顔が腹部に押し当てられる。
「キバ! てめ…っ、離れろ!!」
その状態に気付いたシカマルが、珍しく慌てた様子で怒鳴った。
「やーだね! へへ~。シノが飲むまでぜってー放さねー」
「なんだそりゃ! いいから放せ…」
「まあまあ、シカマル。これ、美味しいよ?」
更にぎゅっとシノを抱き締めるキバをシカマルが引き剥がそうとした時、後ろからチョウジに腕をつかまれた。
飲んでみなよ、といつも以上にほこほこした表情でお猪口を差し出され、こっちもこっちで飲むまで放しそうにない。
メンドクセェ…と呟きながらもお猪口を受け取り、仕方なしにごくりと飲むシカマル。強い。が、確かに美味い。
「まあ、確かに美味いな…で、飲んだんだから放せよ」
そう言ってお猪口を床に置き、手を放すようにシカマルが促すと、チョウジは素直に解放した。
そうしていざ、キバを剥がそうとした時。
「…………美味いのか?」
シノが興味深気に尋ねてきた。
「ん…? まあ…それなりに」
唐突な問いに戸惑いながらもそう答えると、シノは、ならば飲んでみようという気になったらしい。自身に抱き付いているキバに向かって言った。
「キバ。飲んだら放せよ?」
「んん…!? おうっ! 男に二言はねえ!」
酔っ払いに二言も何も…と思うシカマルを余所に、シノはそのセリフに頷くと、手を伸ばして酒の注がれたグラスを取った。
口に近づけ、やはりきつい匂いに顔をしかめたものの、そのままごくりと流し込む。
その様子をキバは真下から凝視し、シカマルは思わず自身の喉を鳴らした。
シノがどういう反応をするのか、誰でも少しは興味があるだろう。酔ったらどうなるのか。
ヒナタのように寝てしまうのか、紅達のようにハイテンションになるのか、まさかナルトのように笑い転げるのか。
後ろの二つは想像もできないが、それはそれで新天地だ。
しばしキバもシカマルも一種の期待を持ってシノを見つめた。が、シノは一口飲んでグラスを離すと、普段と変わらない様子で一言、言った。
「不味い」
その感想に、キバもシカマルも脱力する。シカマルは項垂れ、キバは抱き付く力を抜いて酔いが醒めたようにシノから離れた。
一方のシノは首を傾げ、これのどこが美味いのだろうかと呟いてもう一口二口と飲んだが、やはりわからないというように首を傾げる。
どうやら、シノもシカマル同様変わらない質だったらしい。それも、シカマルよりずっと強い。
「つまんねーの」
と、キバが心底からの言葉を発した。シカマルも、心の中で同意する。
羽目を外したシノは見たくないが、正直、少しくらいは酔った姿を見てみたかった…というのが本音だ。
それからしばらくは新年会というより酒宴となった宴会をそれぞれに楽しんでいたが、次第に一人、また一人と酔い潰れていった。
「こりゃ、酷いな」
「み~んなダウンしちゃったねぇ…」
結局生き残ったのは、やはりアスマとカカシとシノとシカマルの4人だった。
「しょうがねえ。分担して寝床に連れてくか」
アスマの提案に従い、まずは女性をアスマとカカシが女性部屋へと連れて行き、その間にシノとシカマルが一人ずつ男子を運んで行く。
シノがサスケを、シカマルがキバを運び終えたところで上忍二人が戻り、ナルトと赤丸はカカシが、チョウジはアスマが担いで行った。
シノとシカマルは宴会場の片付けを簡単に済ませ、ようやく、二人も寝床に就くことができる状態になり布団部屋へ行くと、
女子軍の相手をして流石に疲れたのか、カカシもアスマも既に眠っていた。
ナルトは早速寝相の悪さを発揮していてサスケが被害を被っており、チョウジとキバはどちらも豪快に鼾を掻いて、
赤丸はキバの枕元で騒音を物ともせずに寝入っている。
「……俺、こっちに寝っから。シノはそっちな」
シカマルは部屋の状況を見て即座にそう言った。
空いているのは入口付近の二枚。シカマルは鼾を掻くチョウジの隣を取り、シノを部屋の角にした。
こうしておけば安全だと、瞬時に判断を下したのだ。
だが。
「……………やだ」
ヤダ…? シカマルは後ろから聞こえてきた言葉に驚いて振り返った。
そんな言葉遣いを、シノはしない。
「シ、シノ…?」
「………嫌だ。シカマルと一緒がいい」
「は……?」
唖然とするシカマルを尻目に、シノはむんずとシカマルの腕を掴むと自分に割り当てられた布団に連れ込んだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てっ」
突然のシノの行動にやっと頭が追いついたシカマルが、焦った声をあげる。だが、音量を抑えることは忘れない。
「おま…どうし……っ」
自分に覆い被さったシノを問い質そうとするが、服を脱ぎだしたことに言葉を切る。
目の前であっという間に上半身をさらけ出されて、シカマルは軽いパニックに陥った。
「な、にしてんだよっ」
「…………熱いから」
「熱いって…」
取り敢えずと、脱ぎ捨てられた上着を必死に掴み、シノに突き付ける。
「こ、これだけでも、着ろ。頼むから!」
二人きりの部屋ならまだしも、こんな他の連中のいるところでヤれるわけがない。だがしかし、これ以上煽られたら堪ったもんじゃない。
突き付けられた上着にシノは小さく眉を寄せたが、素直に言うことを聞いた。シカマルの上から退き、ぺたんと布団の上に座っていそいそと上着の袖に腕を通す。
「お前、どうしたんだよ」
少し落ち着いたところで、シカマルは言った。
「シカマルと一緒に寝たい」
「!」
躊躇いもなく言い放たれたセリフに、シカマルは顔を赤くした。どうも様子が変だ。こんなに積極的で誘うようなシノは、熱を出していた時以来見たことがない。
「…そう言えば、さっき熱いって言ってたな……」
ふと思い出し、身を乗り出してシノの顔に両手を添えると、確かに熱い。
「………ここが、一番熱い…」
するとシノはそう言ってシカマルの手を取ると、自身の胸に押し当てた。シカマルはぎょっとして、更に顔を赤くする。
ドクンドクンと、いつもより速いシノの鼓動に、シカマルの鼓動も速くなった。
「シカマル……好き」
「シ、シノ…!?」
シノが、前置き無しにシカマルに抱き付いた。拍子に、再び下敷きになる。

これは、もう、ヤバイ。非常に、ヤバイ―――。

しかしシカマルがもうこのままいくしかないかと思った時、不意に、耳元から微かな寝息が聞こえてきた。すうすうと、それはもう気持ちよさそうな、寝息が。
「……。…シノ……?」
呼んでみたが返事は無い。
少し無遠慮に上に被さったシノを横に下ろすと、やはり、眠っている。
「はあ…?」
自身に抱き付いたまま眠るシノに、思わず素っ頓狂な声が出た。
一体何事かと考えると、一つの答えが浮かび上がる。
………………酔っ払ってたのか。
多分、怖ろしく酔いの回りが遅かったのだ。日本酒のストレートをあれだけ飲めば熱くもなるだろうし、胸焼けもする。
そして、ほんの少し甘え気質も浮かび上がるらしい。
「…つーか、これは、あれだな。差詰め抱き枕ってとこか」
シノの抱き枕と化したシカマルは、呆れたように言い、小さく息を吐いた。
しかし、しどけなく、どこか幸せそうなシノの寝顔を見て口の端を上げる。
「今度はもう少し、上手く酔おうな」
シカマルはそう言って、おやすみ、と静かに軽く、愛おしい酔っ払いの頬にキスをした。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き
お酒は二十歳になってから! ですよ☆

『裏庭の南蛮煙管』様でお酒に酔うシノを見掛け、そう言えばむか~しこんなの書いてたな~と、思い出して引っ張り出してみました。
『熱の所為』のパート2として書いたものだったので、裏的ではありませんが裏に失礼をば。。
当初は忘年会設定でしたが時季が時季なので新年会に。他にも所々書き直しましたが……まあ何と言うか……
シノのキャラが壊れてますねぇ(笑)
ってか昔書いたものの方がシノ可愛い気がするのは何でだろうw
でも、こういうのもやっぱり良いな。
多少キャラが崩壊していようと、可愛いシノ受けもやっぱり好きv
自分はあんまり書けないのが難点ですが(苦笑)
酔っ払った時とか風邪引いた時とか、物凄く眠たい時とか、そういう時がやはり狙い目ですねっ☆
今年(2010)は初心に還りつつ、愛でていきたいですvv











(10/1/12)