※シノキバ色がとっても強いです。ご注意下さい。あといつもの事ですが捏造設定有ります。




夕陽も沈み、冬場の早い夜がやって来ようという時。
任務からの帰り道で、シノの後ろを歩いていたキバの足が、ふと止まった。
それに気付いたシノも足を止め、後ろを顧みる。
すると俯き加減のキバを赤丸が心配そうに見上げていた。
「…………どうした」
シノの声に、キバがビクリとして僅かに肩を震わせる。
しかし一間置いてから上げた顔の表情は、苦笑いだった。
「…なんでもねぇ」
その苦笑にシノは眉を顰めたが、何も言わず問わず、再び前を向いて歩き始める。
そしてその数歩後ろをキバもまた歩き出した。
だが。
シノの家の前に着いた時。
ではと言って別れようとするシノを、キバはつい引き留めていた。
特に力は要らない。
ただ触れるぐらいにシノの袖を抓むだけで、シノはピタリと止まる。
「…………」
「あ…あの……やっぱ…」
今度はどうしたとも訊ねてこないシノにキバは熱い顔を俯かせながら、ボソボソと呟く。
しかし最後まで言うことができず尻窄めば、
「………来るか」
と、シノが静かに言った。
キバはその問い掛けに口では答えず、ただ、項垂れるようにコクン、と首を垂れたのだった。



一蓮托生



「っ、……ぅ…く」
クチュクチュと粘液質な音が室内に流れる。
「は…」
それが自分の股の間から発せられていると思うと、キバは熱くなった頬が更に熱くなるのを感じた。
「あ…っ!」
シノの舌先が自身の先端を突き、その衝撃に思わず声を上げる。
だがピタと止まったシノの舌と手に、キバはきつく閉じた目をそっと開いた。
潤んだ瞳に映ったのはこちらをじっと窺うシノの眼差し。
全裸のキバに対しシノは服を着たままだが、黒眼鏡は外して素顔を晒し、壁に凭れて布団の上に座ったキバの脚と脚の間に居る。
その顔は熱に浮かされたキバとは対照的に酷く落ち着いていて、ただひたすら真っ直ぐ向けられる眼差しだけが熱い。
そんな眼差しを受けながら、はぁ…と息を吐いたキバに、もう良いと判断したのかシノは再び頭を沈めてキバの一物を口に含んだ。
「―――っ!」
シノの舌と指の刺激に息を詰めるキバ。
再びぎゅっと目を瞑り、耐えるように唇を噛みしめる。
シノとこういう関係になったのはサスケ奪還任務を終えてからで、まだ一年と経っていない。
はじめはシノの指を指して「なんかエロいよな~」などと冗談を言って笑っていたのだが、次第にそれが冗談では無くなってきてしまった。
いつの間にかシノの指でされることを想像しだし、終いには口や声、身体自体に興奮するようになってついにはシノで自慰をしてしまったのだ。
その時のショックをキバは忘れられないが更に忘れられないのはある日、キバの様子がおかしいと気付いたシノに追及され、吐露したらその流れでシノにイかされた事だ。
確かに、シノと接触する度便所に駆け込んでいたのでは修行も任務もあったものではないし、白状した時ももう限界に近かったのは違いない。
違いないが―――。
その時の事を思い出すと今でも顔が熱くなる。
まさか野外で、想像ではない本物のシノにペニスを銜えられるとは、誰が予想できるだろう。
だが、喜んでという感じではなくこうなったら仕方ないといった感じではあったものの、必要なら俺が処理するから普段は我慢しろ、 と言われて感じたのは混乱だけではない。
シノが、それこそ夢にまで見たあのシノが、自分の味方に就いてくれたのだ。
これ程心強いものもないだろう。
それに本人が性欲処理をすると申し出てくれたのだから願ったり叶ったり。
混乱していた気持ちも徐々に収まり、取り敢えずは今のカタチに落ち着いたわけだ。
キバが求めればシノは応えてくれる。
排泄器官への挿入は無いが、十分な快感と快楽を与えてくれる。
ただ一つ、最近気になるのは―――。
「ぅ…、あっ!」
ドクンと脈が打つ。
「ひっ…ぐ……ン…っ、ン! ァアっ!!!」
シノの愛撫に追い詰められ耐えきれなくなった一物から、びゅるっと精液が飛び出していく。
跳んだ精の滴が腹部や胸部にパタパタと落ち、キバを汚す。
しかしそれでも、はぁはぁとだらしなく唾液の垂れた口で喘ぎどっぷりとその余韻に浸るキバがぼんやりと見てみれば、シノはキレイなままで。
整った顔立ちを歪めることもなく。
汗一つ、吐息一つ漏らささずに。
ただひたすら静かな眼差しを自分に向けている。
それが、最近―――。
「………は…」
少し、悲しい…。
キバが落ち着いたのを見計らってシノが立ち上がる。
そして何事もなかったかのように、いつものように、淡々とした物言いで言った。
「落ち着いたなら風呂に入れ。今夜は冷える。いつまでもぼうっとしているな」
そう言ってシノは部屋から出て行ってしまう。
前に、どこへ行くのか尋ねたら、うがいと手洗いに行くのだそうだ。
どっから帰ってきたばっかだよ……とからかいつつ自嘲気味に笑ったら、シノは僅かに眉を顰めただけだった。
キバはぼんやりと、シノが出て行った後を見つめ続ける。
この場所はシノの部屋ではなく、油女邸の母家から少し離れた所にある座敷だ。
小さいながらも風呂付きの離れで、本来は女性が出産時に使う産屋らしいが、最近は使われていないらしい。
それならお前もここで生まれたのかと訊けば、そうだと答えられてキバはちょっとビックリした。
ここで産み落とされた赤子はすぐに母家へと運ばれ、秘術を施されて蟲を体内に寄生させられる。
だからここは産屋であると同時に、産後の母親を一時閉じ込めておく部屋でもあるそうだ。
どんなに意志が強く聡明な女性でも、死ぬ思いで生んだばかりの子を取り上げられ泣き声が聞こえてくれば追ってしまう可能性がある。
大事な儀式を邪魔されるわけにはいかないし、子どもに蟲が寄るところを目の当たりにするのは母親にとっても好ましくない。
そんなわけで、母親は儀式が終わるまでここに隔離されることになっており、また母親になる可能性があるため女性は全員、儀式を見ることが許されない。
寄壊虫を赤子に与える儀式は女人禁制、父親となる男の仕事なのだ――とシノは言っていた。
勝手に使って良いのかと問えば、妊婦が居る時は衛生上出入りが制限されるが、普段は特に問題無いらしい。
昔はよく入り浸ったものだ―――という呟きはつい口から零れてしまったものだったらしく、「え?」と聞き直したキバは「何でもない」と誤魔化された。
シノの母親についてキバは聞いたこともなく知りもしないし、見たことも無い。
けれどここはきっと、シノにとって大事な場所であるに違いない。
キバは暫く放心した後、気怠い体を動かして腹に出した精を指先で拭い取った。
親指と合わせて動かせばぬるりと滑り、離せば糸のように引く。
「………」
自分は一体何をしているのだろう―――と急に空しくなって、ゴロンと横になった。
シノが敷いてくれる布団はキバが風呂から上がってくるといつも片付けられていて、新しい布団が掛け布団付きで敷き直されている。
処理すると言ったシノは本当に最初から最後まで処理するんだなと、感心して笑ったものだが、しかし今はもう笑えない。
その事務的で完璧な処理技能に、今はただ空しさと悲しみを覚えるだけだ。
されている時はいい。
与えられる快感と快楽、内からの熱に考えることも儘(まま)ならず、ただその欲情に流されるだけ。
でもその後の脱力感と虚無感は日に日に増すばかりで、苦しくて苦しくて仕方なくなる。
自分はシノに、どうしてほしいのだろう。
考えても考えても分からない。
もともと考えるのは苦手で考える前に動く質なのに、何故かこういう時に限って何もできなくなってしまう。
もう、どうしていいか、わからない―――。
ぱたりと落ちた滴に、我に帰ったキバは自分が泣いている事に気がついた。
頬や鼻筋を伝い、手の甲や布団に涙が流れ落ちていく。
泣くなど自分らしくない。男なら泣くんじゃねぇ…!
と言い聞かせるもますます苦しさは増していき、涙も更に零れ落ちていく。
堪えようと身を縮めると堪え切れなくなり、息を吸った次の瞬間には、ぼろぼろと堰を切ったように涙が溢れだしてしまった。
「―――っ、ふ…うっ、」
何とか嗚咽だけは抑えて布団に顔を押し付ける。
ぎゅっと握り締めたシーツは皺くちゃになり、感情に任せて怒りをぶつけるように力を込めれば、爪の部分からビリビリと破けてしまった。
「っ、…は………」
少しだけ落ち着いて息を継ぐ。
現実に帰れば裸の自分が布団に泣きつき八つ当たりをしているだけで、カッコ悪ぃ…とキバは再び布団の上に頭を落とした。
「……キバ…どうした」
そんな時、シノが戻ってきたらしく。
キバは思わず頭を上げて振り向きそうになったが、こんな情けない顔は見せられねぇと布団に突っ伏したまま「何でも」と声を出した。
しかし掠れたその声に説得力はまるで無く、口を噤めばシノが畳の上を歩いてくる音がする。
そのままどうするのかと思っていると、予想外に、突然上から柔らかくも重たい物が落ちてきた。
「うぐっ」
蛙が潰れるような声を出し、わたわたと掻き分け蹴り上げ脱出すれば、それはシノが持ってきた新しい寝具一式。
「ってめ、何す―――!」
布団の重しから抜け出したキバはその先で屈んだシノと顔を突き合わせてしまい、
「………泣いていたのか」
バレてしまった。
「……っ、な、泣いて…な…なん、か」
その上変わらぬシノの静かな視線にまたもや切なさが込み上げてきて、息苦しくなる。
隠したいのにそう思えば思うほど泣きたくなって、再び溢れてきた涙をキバはごしごしと腕で拭い取ると、
「ねえ!」
と言葉を繋げて涙に濡れた目でキッと睨み付けた。
「…………」
それでも、シノの瞳は揺るがない。
気丈に振舞ったキバだったが、そのシノがすっと手を伸ばしてくると思わず、反射的にビクッとしてしまった。
と同時にピタッと止まるシノの手。
その、手に。
そのキレイな手に、キバはカッとした。
頭に血が昇りワケも分からぬままそこにあった枕を鷲掴んでシノに投げつける。
「!?」
枕はボフッとシノの顔面に当たり、シノが尻餅を搗く。弾んで横に転がる枕。
「――――んでっ、」
困惑した様子で、しかし真っ直ぐ自分を見据えてくるシノに、キバは叫んでいた。


「何でてめーは、いっつもそーなんだ!!!」


澄ました顔で、平然と。

求めれば応え、拒めば従う。

そして俺は汚れて、お前はキレイなままで…。



「……んで俺は、何でいっつもこーなんだ…」
感情的に、考えるより前に動いてる。
我に帰り暫し浅い呼吸を繰り返すと、キバは最後に大きく深呼吸をして、情けない顔でシノを見た。

もういっそ
欲に溺れてしまおうか
それでシノも巻き添えにして
一緒に沈んでいけばいい―――


「なあ、シノ」
キバは、コロコロと変わるキバの言動を訝しげに見つめていたシノに、犬が近づくようにして擦り寄った。
「お前、俺のことどう思ってる?」
惨めか憐れか淫乱か。
まあ、そんなことはもうどうだっていい。
「……俺は、お前が欲しいぜ? もっと」
もっと、もっと、もっと…。
「…それは……」
上目遣いに見遣るキバをじっと見据えていたシノが、漸く口を開く。
「俺と……もっと深い関係になりたいということか」
「お前がいいならな」
「…お前はいいのか」
「俺が訊いてんだろ」
顔を顰めたキバに、シノも眉を顰める。
「いつもいつもそーやって俺の都合に合わせるなんて、都合のいいマネさせてやるかよ」
「…………」
「ヤるかヤらねーか、テメーが決めろ。イヤならイヤだって言いやがれ!」
「………」
シノの瞳は揺るがない。相変わらずの眼差しを、ただひたすら真っ直ぐにキバへと向けてくる。
その眼差しを睨み返しながら、キバは返事を待った。
シノが欲しかった。
シノの心が――欲しかった。

「………俺は…」

シノが重い口を開いた。
しっかりと、真っ直ぐに、キバと目を合わせて。


「お前が望むことはしてやりたいし、望まないことはしたくない」


「―――っ、だから…!」
「何故なら」
怒鳴りかけたキバの威勢を制し、シノは続けた。


「俺はお前が好きだからだ」

しっかりと。
ただひたすらまっすぐに。
静かなる熱い眼差しをキバに向けて。

「っ」

その、眼差しに。
キバは真っ赤になった顔を背けて目一杯の悪態を吐いた。


「バッッッカじゃねーの…っ!!!」


そんなキバにシノがふと笑みを漏らし、熱くなったキバの頬に触れる。
一瞬ビクリとしたキバだったがシノは止まらず、キバの額に軽く口付けると、僅か細めた目をひたとキバに向けて言った。
「風呂に入れ。いつまでもそんな格好では風邪をひくぞ」
「へ……? あ…」
そう言われ、素っ裸のままだったことを思い出したキバは、それと同時に一つ盛大なクシャミをかましたのだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き
こんな、シノとキバが好きです。
キバシノのつもりなのかシノキバのつもりなのか自分でもよく分かりません。
どっちも…なんて欲張り言ったら両方から怒られそうですね。
でも私は、こんなシノとキバが好きなんです。
多分、私がシノキバよりキバシノ派なのは、キバを好きになってもシノは安易に手を出さない――と思うからで。
好きだから、キバが望むならするし厭ならしない。
内なるキバ至上主義なシノが好き。
好きになった相手には操を捧げるシノが好き。
ぶっちゃけキバはお姫様でもいいんだ。
でもそれならシノには、姫の前で膝をつき首を垂れて忠誠を誓う家臣であってほしい。
シノ攻めならそういうのが一番好い。

っていう主張がしたくなっただけでございました(笑)

うん。でもまあこれは飽くまでも私の好みの問題で、色々なシノキバ、キバシノ、その他諸々勿論あっていいと思います。
その中から自分に合うものを見つければいいんです。
そして私はまだまだ模索中。
今回のはそういった中での試作品……と思っていただければありがたく。

どうぞ御容赦下さいませ。。


それから以下は、キバシノ風味のちょっとしたオマケです。
本当に風味だけですが、宜しければお口直しにどうぞ…!


               ↓







「んなあ…」
好きなら一緒に寝ろと望まれて布団に入ったシノは、抱き枕の代わりとばかりに抱きついてくるキバをそっと抱き返しながら、掛けられた声に何だと応える。
返事は突慳貪だが、風呂上がりで乾かしたばかりのキバの髪はふわふわとして、またその匂いや体温にシノは心地良さを感じていた。自分が抱き枕ならキバは湯たんぽだ。
いつもキバと一緒に寝ている赤丸には悪いな…と独り帰してしまった赤丸の事を思いながら、その幸福に身を浸す。
「お前、俺が望むことはしたい、って言ってたよな」
「…できる限りな」
「んじゃあよ」
だが。
「もし俺がお前抱きたいっつったら、抱かせてくれるんだよな?」
その質問に、思わずちょっと身を離した。
「………。………ああ…」
「何だよその微妙な間は」
キバはそう言いながらも、僅かに動揺を垣間見せたシノに満足気な笑みを浮かべ、シノの体を更にきつく抱き締めてくる。
苦しい…と呻いたがその声は無視されてますますぎゅっと抱き竦められた。
「心配すんな。俺も、お前が厭な事は絶対しねぇからよ!」
「………」
ふわりと。
感触の良いキバの髪に手を乗せる。
そしてキバにエロいと言われた指で軽く梳(す)き、その毛先に温かな眼差しを向けてシノが言ったのは。

「では取り敢えず、もう二度とシーツを破くな」

だった。







以上! 御粗末様でした!











(10/3/12)