腹癒せ
夏の昼過ぎという最も暑い時間帯に、連絡も無しにアスマがやって来た。
しかし、それも最近では頻繁なことで、シノはいつものように出迎え、部屋へ招いた。
目的は、一つ。
「用意はしてあります」
「お…? 準備が良いな」
最近、アスマが家に来るとシノは決まって将棋の相手をさせられる。
初めは不審にも思ったが、今では慣れてしまった。しかし今日は、いつもと事情が違った。
「来ることがわかっていたので」
「……あ?」
「昨日、シカマルと話したんです」
そうシノが言うと、アスマは心当たりがあるのか、黙った。
「面白いことに、アスマ先生が家に将棋を指しにやってきた日と、シカマルと将棋を指した日が一致していたことに気が付きました」
手持ちぶさたから煙草の箱を取り出し、一本くわえる。
「そのことから、アスマ先生はシカマルに負けた腹癒せに将棋を指しに来ていたのだ、と推察しました」
部屋の戸口に突っ立ったままのアスマを、シノは隣から見上げた。
「さっき、シカマルから、頼んでいた連絡がありました。アスマ先生が負けて帰ったと」
シノはアスマのくわえ煙草に手を伸ばし、奪う。
「推察は正しかった。なぜなら、今、あなたはここに居る。これ以上の証拠はありません」
ネタはあがっている、と言うことだ。
アスマは、正面から見上げてくるシノを見下ろした。観念したように、息を吐く。
「御察しの通りで」
それを聞くと、シノはアスマに背を向けて将棋盤の置いてある部屋の奥へと進んだ。
「………今日は、罰ゲームは無しだ」
少し、拗ねた口調。
「……わかった。悪かったって。そう拗ねんなよ」
「拗ねてない」
その、拗ねた後ろ姿に、心底罰ゲーム無しは残念だとアスマは思った。
こと将棋に関しては、アスマの方が一枚上手。負けず嫌いな質から罰ゲーム制を受けていたシノだったが、未だ全敗中。
いい加減嫌になってきたのだろう。だが…。
「じゃ、罰ゲームじゃなくてお詫びって事で、どうだ?」
にやりと笑ったアスマに、まだ火のついていない煙草が一本、硬質化されて投げつけられた。
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後書き
昔書いた、アスシノ前提話。
罰ゲームが何かは………そりゃあもう、ねぇ…(ニヤリ)
アスマ先生は、よく負けているイメージが強いけれど、将棋が弱いわけでは無いと思います。
ただ、シカマルだから……相手が悪い。
シノとやったら、苦戦するもアスマ先生が勝つんじゃないかと。
でももう少しで勝てそうだから、シノは懲りずに挑戦して。
アスマ先生の余裕が段々なくなっていけば良い(笑)
裏っぽくないですが、アスマ先生がちょっと非道いのでこちらに置きます。
(07/11/20)