「!」
ザワリとさざめいた蟲達に、シノは木々を渡る足を止めた。
さほど遠くない場所に、強いチャクラの発生を感知したと言う。
見てみれば、見知った影が二つ、演習場で暴れているのが窺えた。
どうやら、ケンカをおっぱじめたらしい。
それを見て、シノは思った。
バカが二人いる…。と。
犬狐(けんこ)の決闘
「てめぇにゃ負けねぇ…!」
「 んだとぉ…っ!!」
ピリピリと空気は張り詰め、鋭い眼で睨み合った両者はまさに一触即発。
そんな中で、
「ふあぁぁ~」
と、木の根元に座り込んだシカマルは、大きな欠伸を漏らして、やる気のない表情を惜しげもなく顕わにした。
目の前で繰り広げられようとしている壮絶な戦いは、しかしシカマルの目からすれば、ただの面倒なケンカに他ならない。
シカマルは心底面倒臭そうな顔を、緊張に充ち満ちたキバとナルトの両名に、緊張感無く向けた。
*
事の発端は、キバに向けて放たれたナルトの一言。
「お前、シノに嫌われてるもんな~」
だった。
その言葉にキバの目つきが変わったと判った瞬間、シカマルは一瞬にしてこれから始まる壮絶にして不毛な戦いを予想し、
そして同時にあきらめた。
修行のために赴いた演習場だったが、キバと鉢合わせたうえ、ナルトがそこに居合わせたのが運の尽き。
それぞれに様々な理由を持って、一人で修行をしに来ていたのだが、その理由を語り合う…という極々自然な流れの中で、
うずまきの名に恥じぬ渦を、ナルトが起こしてくれたのだ。
まだ下忍と言えど成長著しいナルト。しかしNo.1と謳われた意外性は、まだまだ健在らしい。
ヒナタに家の用事があるからと断られた挙げ句、シノにはいつもなら付くはずの「なぜなら…」すら省かれて、
「断る」と一言で切り捨てられた旨を語り嘆くキバに、
「お前、シノに嫌われてるもんな~」
である。
そう言う自身も、サクラやサイ、カカシやヤマトに尽く断られておきながら、ナルトは、自分のことは見事なまでに棚に上げきっていた。
そうして始まったのが、現在の険悪ムード。
「「決着つけようじゃねーか!」」
と決闘を申し込んだのは、ナルトもキバも同時だった。
もともとナルトとキバは、同類故に、息の合うところと衝突するところが混在していて、協力しながらいがみ合い、
反発しながら協調するという器用な関係を築いている。
そして、シノに関してもまた、ナルトとキバは同士であり、且つライバルだった。
シノとは相性が合わないと思われる二人は、しかし意外にも、シノのことが好きなのだ。
だからこそ、ナルトの発言がキバには聞き捨てならなかった。
「俺が嫌われてるって…?」
「そーだろ? だっていっつも足引っ張って、呆れられてんじゃねーか」
「俺がいつ足引っ張ったってんだよ。つーか、何でてめぇが知ってんだ」
「はは、やっぱそ~なんだ」
「根も葉もねぇデタラメ言うなっつってんだよ…!」
「ヒナタはデタラメなんか言わねえってばよ!」
「―――――っ!」
ナルトの言葉に、キバが詰まる。が、負けじとすぐに切り返した。
「へっ、お前なんて、呆れられるどころか歯牙にも掛けられてねぇじゃねーか!」
ここで、(呆れられてることは認めるんだな)とシカマルが思ったことを、キバは知らない。
「ん…んなことねぇってばよ! だって、最初に俺が気付かなかったのまだ根に持ってるし…!」
ここでは、(それで良いのかよ…)とシカマルに思われたが、ナルトは知らない。
「違うな。それは根に持ってんじゃなくて、恨んでんだよっ!」
「だったらお前は、嫌われてんじゃなくて、厭がられてんだってばよ!」
(どっちもどっちじゃねーか)と、シカマルは思ったが、二人は知らない。
「こうなったら…」
「どっちがよりシノに相手にされてないか…」
「「決着つけようじゃねーか!」」
(最悪の底辺争いだ………)というシカマルの思いを、二人が知ることは―――ないだろう。
*
シカマルが、思い出すだけでも面倒臭ぇ…と溜め息を吐く。
と同時に、一触即発の空気が揺れ、一触した。
ゥオオオオオオ!!!!
という雄叫びをキバとナルトが同時に発し、正面からぶつかる。
忍者らしからぬ、初っ端からの肉弾戦。
だがあいさつ代わりの拳を交えると、キバがザザザと地を鳴らして後ろに下がった。
そして控えさせた赤丸の下で、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。
「まずは、俺一人で相手してやるよ。下忍クン?」
「―――――っ!」
カチンと頭にきたナルトが、ムカついたという表情を露骨に表す。
だが、そこは何とか堪えたらしい。
「へっ! 余裕こいてると、また負け犬になんぞ!」
と、口角を上げ、キバの挑発を打ち返した。
中忍試験の予選を思い起こさせるそのお返しに、キバの不敵な笑みが益々深まる。
鋭い眼光は更に鋭くなり、爪や牙の切っ先はギチギチと音を立てて尖ってゆく。
チャクラが漲(みなぎ)り、全身に張り巡らされた様が見て取れる。
そのうえ四つん這いになったキバは、まさに獣の様だ。
「………今度は油断なんかしねぇさ。最初(ハナ)から全力だ。全力で……てめぇをぶっとばしてやる!」
どんな相手だろうと嘗(な)めたりせず、全力で向かえ。
それは、ナルトととの戦いで学んだことであり、シノに叩き込まれた教えでもある。
嘗めないとは、相手を甘く見ず、その力量をきちんと見定めるということ。
そして全力で向かうとは、がむしゃらに向かうことではなく、軽率な行動は控えて臨機応変に、その場における最善の手を尽くすこと。
シノのようにできた例しはないし、できればそんなまどろっこしいことはしたくないが、キバとて意識するよう努力している。
ナルトと対戦するのは中忍試験の予選以来だ。
それからキバも成長し強くなったが、それはナルトも同じ。もしかしたら、それ以上かも知れない。
キバは呼吸を整えて、暴走しそうな感情を抑えた。
昔は負けたが、今回は負けるわけにはいかない。
なんと言ってもこの戦いには、シノとの、ささやかながら大事な「関係」が懸かっているのだ。
チームも同じでずっと一緒にやってきた自分が、別のチームなうえ3年間も里にいなかったナルトなんかに、シノとの親しさで負けるなどあってはならない。
例え、シノが自分のことを「うるさいチームメイト」ぐらいにしか思っていなかったとしても。
例え、その距離を、それ以上縮めることができないとしても。
シノと自分との間にナルトが入ってくるなど、絶対に。
絶対に、許せない。
だからこの勝負だけは、絶対に―――。
負けられない!
「…………俺のスピードに、ついて来れるか…!」
キバは手足に込めたチャクラを一気に解放し、ナルト目掛けて、飛び出した。
*
「………ったく…よくやるぜ…」
シカマルは、そんなバリバリ本気モードで戦いながら徐々に演習場の奥へと移動して行く二人を眺め、呑気に呟いた。
厳密に言えば、キバの攻撃に押されて、ナルトが避けるべく後退しているのだ。
始めはシカマルの方にもクナイが飛んできたりして危なかったが、今ではもう届かない位置にまで二人は離れ、バトルを展開している。
シカマルを巻き込まないように……という思い遣りならば良いのだが、シカマルが邪魔で大技を出せないと思ったのなら、いささか困りものだ。
そうなると、二人は『大技を出す気満々』ということだからだ。
「…………」
今までは止める気など毛頭無かったのだが、止めた方が良かったかな…という思いが、シカマルの頭を初めて過ぎった。
二人が演習場をぶっ壊したら、自分まで怒られるんじゃないか…。
そんな考えが、かなり現実的に浮かんでくる。
(今の内に帰っちまうか…)
そもそもシカマルが今までじっとしていたのは、動いたらキバやナルトの目に留まり、とばっちりを受けるかもしれないと考えたからだ。
だが今ならば、その心配は無い。
(よし、帰ろ―――)
そう思い、シカマルが腰を浮かせた、その時。
「……どこへ行く」
「?!」
突然横からかけられた声に、シカマルはビックリして尻餅をついてしまった。そして驚いて見れば、なんとなんと。
いつの間にか、ナルトとキバの争いの元である、シノが横に立っていたのだ。
「シノ…! い、いつからそこに…」
シカマルが僅かに身を引き尋ねれば、
「今さっきだ」
と、離れた場所で繰り広げられるキバとナルトの攻防を真っ直ぐに見据えたまま、シノは答えた。
「け……気配消して近付くなよ……。ビックリすんじゃねぇか…」
はあ、と息を吐き、体勢を戻すシカマル。だが、シノに睨まれてピタリと止まった。
「………特別、気配を消したつもりは無かったが…」
「…………。……」
「そんなに俺は……」
「や、ウソ。冗談。いや、間違えた。俺がボケッとしてて気付かなかったんだ、うん」
悪い悪いと、シカマルは必死になって取り繕った。
シノに拗ねられると非常に面倒だし、なんと言っても今まさに、『シノに相手にされない奴決定戦』の真っ最中なのだ。
万が一にも、キバやナルトに目の敵にされるなどあってはならない。
シカマルは、底辺争いに巻き込まれることだけは、なんとしても避けたかった。
「…………」
シノは少し疑わしげだったが、シカマルの繕いに怒りを収めたらしい。
醸し出す寸前だった怨恨の気配を引っ込めて、再びキバ達の方へと目を向けた。
キバ達は、森に入る手前のところで真剣勝負を続けている。
シカマルの嫌な予感どおり、戦いは益々ヒートアップし、エスカレートしていっているようだ。
特にキバの猛攻が止まらず、ナルトを容赦なく襲っている。
シカマルはそんな様子を見つめてから、シノを見上げた。
シノは腕を組み、直立不動のまま動かない。
「……止めないのか?」
様子を窺うように尋ねれば、シノはやはり前を向いたまま答えた。
「お前が止めないものを、何故俺が止める…」
確かに、動きを封じて止めるならば、シカマルの役目だ。
「……………」
シカマルは言い返す言葉もなく、口を噤んで再び木の根元に腰を落ち着かせた。
どうも帰るに帰れない空気になってしまったと、救いを求めるように空を見上げるシカマル。
だが、遠くの方から聞こえてきた、明らかに尋常ではない破壊音に、(ああ…やりやがった…)と目を瞑った。
そして更に、横から聞こえてきた音声に目眩を覚える。
「よくやるな…」
呆れながらそう言うシノに、シカマルは叫びたくなった。
(お前のせいだ、お前の――――!!)
*
「通牙!!!」
ドオッという音と共に弾き飛ばされたナルトが、地面に叩きつけられた。
キバの高速移動により巻き上げられ、煙幕のように漂っていた土埃が、風に散って晴れてゆく。
それと共に、地を抉られ岩を砕かれた上に、設置されていた鉄棒やら土管やら水飲み場等を跡形もなくなぎ倒され吹き飛ばされた、
無惨な演習場の現状が露わとなったが、キバもナルトも、そんな状況には目も呉れない。
「どうしたよ……これで終わりじゃ、ねぇだろう?」
「当然……だってばよ…」
獣じみた体勢のまま気を緩めず、ナルトの様子を窺うキバに、ナルトはむくりと立ち上がって言った。
青い目に宿る光りは、キバのそれにも劣らない。
負けられないのはナルトも同じだ。
ただし、ナルトの事情は、キバとは違った。
正直なところ、シノとの絡みがほとんど無いナルトにとって、キバの方がシノに近いところに居るという事実は認めざるを得ない。
しかもナルトは、シノへの苦手意識をかなりはっきりと示してきたのだ。
聡いシノのことだから当然そのことに気付いているだろうし、だからこそシノは、ナルトに対して僅かながら積極的になるのだろう。
シノは、寄って来るモノには受動的だが、離れようとするモノには積極性を見せる。
一見しても二見しても、三見四見五見しても分かり難いが、実は人間大好きだし、好かれたいと思っているのだ。
押してダメでも、引いてみたら案外簡単に釣れるかもしれない。
が、シノの積極性は常人には少々受け入れ難く、怖がられる傾向にあって、ナルトも例外では無かった。
苦手なものは、未だに苦手だ。
だが。
しかし。
ナルトは、それでもシノに近付きたいと思ったのだ。
ヒナタに、シノの意外な一面を聞いて。
シノに少しだけ、興味を持った。
それから、見掛ける度に気になるようになり。
キバの居場所を、羨ましいと感じて。
シノのことを、もっと知りたい。
もっと、もっと。
もっともっともっと――――。
そして今では、あろうことかその体に触れたいとさえ、思っている。
そんな夢は、夢に終わるかも知れない。
苦手なまま、シノと仲良くなることなど、無いかも知れない。
けれど。
それでも。
例え、歯牙にも掛けられずとも。
例え、恨みがましく思われ続けるだけだとしても。
諦めたくないのだ。
シノへの想いだけは、どうしても、譲れない。
キバになることも、取って代わることもできないけれど。
うずまきナルトとしての、この想いだけは。
絶対に、誰にも負けない。
だからこの勝負だけは、絶対に―――。
負けられない!
「ナルト…良いこと教えてやるよ」
「……?」
唐突なキバの言葉に、ナルトは訝しげな表情を浮かべた。
くいと顎で指し示されたのは、二人が元居た方向で、シカマルが居るはずの場所。
見てみれば、だいぶ離れたがそこにはやはりシカマルが居て――
―――シノが居た。
「!?」
驚いたナルトが、キバを見る。
キバは特に何も言わなかったが、ぶつけるように返された視線に、ナルトは理解した。
これでお互いに、ますます負けられなくなった……と言うことだ。
シノの見ている前で、不様な姿を晒すわけにはいかない。
「…つーことで、小手調べは終わりだ」
キバがそう言うと同時に、トットッと、赤丸がキバの下へとやって来る。
その大きな相棒の背中に手を当てて、キバはナルトに向かって言った。
「次からは、赤丸もやるぜ」
ワンッ! と咆吼を上げ、赤丸がやる気を見せる。
「へっ、上等だってばよ…」
ナルトは、キバを真っ直ぐに見据えて、印を組んだ。
「多重、影分身の術―――!!!」
ポポポポンッ!! という音を立てて影分身が現れる。
「こっからが…」
影分身達に囲まれたナルトが、自信に満ちた瞳と笑みをキバに向け、
同じ意志と信念を持った分身達と共に、言い放った。
「「「「「本番だ!!!!」」」」」
*
数で勝るナルトと、速さで上回るキバ赤丸の攻防は一進一退。
「獣人分身………」
一度戻った自身と赤丸をそれぞれに擬獣化し、擬人化させたキバは、もう何度目か知れない技名を叫んだ。
「牙通牙ああああ!!」
ポンッ! ボンッ! ポポンッ!
素早い身のこなしと体さばきでキバ達はナルトの分身を次々と蹴散らしていくが、倒しても倒しても続々と出てくるためにキリが無い。
(――――チッ、分身バカのスタミナお化け相手に、これ以上の長期戦はこっちに不利だな…)
「赤丸! 一気に本体を叩くぞ!」
キバは、そう言うや否や煙玉を取り出し、煙幕を張った。
敵を見失い、身動きが取れなくなるナルト達。
その隙間を、キバが一目散に駆け抜ける。
いくら影分身と言えど所詮は分身。匂いまでは真似出来ない。
そのため、キバにはナルトの本体がどこにいるかなど、手に取るように分かるのだ。
だがナルトとて、いつまでも不利な状況に身を置くほどバカではない。
煙の外に逃げれば赤丸が待ち構えているかもしれないことも、判る。
と、なれば。
「影分身の術!」
ナルトは、手の中にチャクラの渦を作り出し始めた。
煙幕が、チャクラの回転により掻き乱されて、徐々に切れてゆく。
そして、煙が途切れたナルトの周囲にキバが飛び込んできた瞬間、ナルトは叫んだ。
「今だ!」
ナルトの号令に、影分身が一気に攻撃を仕掛ける。
本体を探し当てられる鼻も、周辺にごろごろと居る分身一人一人の動きを嗅ぎ分けることは困難であり、
その上視界が開けてしまえば、奇襲はキバの手からナルトの手へと奪取されてしまう。
「う!」
「ず!」
「ま!」
「き!」
空中へ蹴り上げたキバに、最後の一体が踵を落とした。
「ナルト連弾っ!!!!」
技は同じでも、当初と比べると切れも速さも、そして威力も格段に上がっている。
「や――、!」
確かな手応えに思わずやったと叫びそうになったナルトだったが、次の瞬間、
ボンッという音と共に消えたキバに、息を呑んだ。
まさかの分身。しかも。
「赤丸! ダイナミックマーキング!!」
「っ、う、わっ!?」
不意を突いて上から降ってきた水飛沫(しぶき)に、ナルトは頭を抱えた。
「くっせ…、て! 小便?!」
「当たりだ、ナルト」
顔を上げて見れば、晴れた煙幕の向こうで、キバが自分と赤丸の口に兵糧丸を放り込む。
「!」
ナルトは、更に擬獣化したキバと、毛を逆立て赤く変貌した赤丸の姿を、久しぶりに目の当たりにした。
「いくぞ赤丸!!」
「ワンッ!!」
『人獣混合(コンビ)変化………双頭狼!!』
「おいおいおい…!」
現れた、二つの頭を持つ巨大な狼に慌てたのは、ナルトではなく傍観していたシカマルだった。
「やりすぎだろ。これはさすがに、止めた方が良いんじゃねぇか?」
だが、同じように観戦していたシノは慌てる様子もなく、
「…………そうか」
と言っただけで動こうとしない。
「お前…もうちょっと慌てろよ」
「慌てたところでどうにもならない。それに、今止めに入るのはこちらが危険だ」
「でもよ…」
「シカマル」
諌(いさ)めるように。
シノが微かに、視線を向けた。
『喰らえ! 犬塚流体術奥義…!』
双頭の狼が、ナルト目掛けて突撃する。
『牙狼牙―――!!!!!』
対するナルトは、作り上げた青い魂(チャクラ)の塊を手に迎え撃つ。
「螺旋丸―――っっっ!!!!」
渾身の超回転と超回転がぶつかり合い、周囲に突風が巻き起こる。
シカマルやシノの所にまでその衝撃波は伝わり、シカマルが背にしていた木が激しくしなってバサバサと揺れた。
威力は五分五分。激しい衝突の末、互いに打ち消し合って消失する。
そしてその反動で、ナルトも、キバ・赤丸も、勢い良く後方へ弾き飛ばされた。
が。
「まだ…だっ…!」
地に伏した顔をなんとか上げて、ナルトは、一人だけ地面に潜らせておいた影分身を地上へと復活させた。
影分身のナルトが、仰向けに転がるキバの頭上に立つ。
「っ、」
意識はあるものの起き上がることが出来ず、キバが顔を歪ませる。
ナルトの螺旋丸と違って、体当たり的なキバの体術奥義は、自らの身体にかかる負担がより大きいため、回復に多少時間がかかるのだ。
加えて、チャクラももうほとんど残っていない。
「これで、終わりだってばよ」
ナルトの分身が、キバに触れようと身を屈める。
だがその時。
触れる間際に、ポンッと消えてしまった。
「な…なんだ…」
驚いたのは、ナルトだった。
どうしたわけか、身体がしびれてうまくチャクラが練られない。
「はは…心配すんな」
きつそうに体を起こしたキバが、赤丸に手を伸ばし、撫でながら言った。
「ただの痺れ薬だ。死にゃあしねぇよ……」
「っ…んなもん、いつの間に…」
「さっきの煙幕にな。……そうでもしなけりゃ、お前みたいなスタミナバカ、大人しくなんねぇだろ?」
キバが、薄笑いを浮かべ、蹌踉めきながら立ち上がる。
「…つっても、俺ももうチャクラ残ってねぇしな」
ナルトも、荒い呼吸で何とか立ち上がった。
満身創痍の二人が、それでも尚、男の意地とプライドを懸けて対峙する。
「これで終わりに……」
「するってばよ………」
互いにボロボロな体を引きずって、息も絶え絶えに間合いを詰めた二人は、無言のままに睨み合った。
ピリピリと空気が張り詰め、緊張の糸が張り巡らされる。
ザワザワと、荒野と化した演習場を、風が吹き抜けてゆく。
そして、一陣の疾風が、張り詰めた空気を震わせ緊張の糸を断ち切った
――――瞬間。
互いに最後の力を振り絞り、拳を振り上げた……!
「!」
「!」
フッと止んだ風の中。
キバとナルトの間に現れたのは、シノだった。
「…………そこまでだ」
両者の手首を掴み、止めに入る。
いい加減に見かねたのか、止めるなら今と思ったか…。
ともかく、それまで黙って観ていたシノが割って入ったことは、少なからずキバとナルトの戦意を削いだ。
耳と心に響くその声に、二人の殺伐とした気配が思わず凪(な)ぐ。
だが、二人は志気を奮い起こすと同時に怒鳴った。
「「シノ!! 邪魔すんじゃねぇ!! これは男と男の戦いだ…!!」」
負けるわけにはいかない決闘。
勝たなければならない、勝負。
だが。
「………勝敗はついた。どちらも負けだ。なぜなら、喧嘩は両成敗だからだ」
「「?!」」
突然ボロリと崩れたシノに、キバもナルトも目を瞠る。
そしてそれが蟲分身であったことに気付くも遅く。
ギャアアアアア!!!! ウァアアアアア!!!!
という、最後のトドメを刺された二人の哀れな悲鳴が、演習場であった場所に響き渡った。
*
「……………」
「……これでいいか」
唖然とするシカマルに、一歩たりとも動かずに強制終了してくれた、シノが言う。
「………お前…もう少し………いや、いいや」
やんわりと止めてやれよ、と言いたくなったシカマルだったが、止めた。
今止めるのは危険……と言うことは、シノも止めた方が良いとは思っていたのだ。
そして、そのタイミングを見計らっていたのだろう。
(全く、冷静すぎて逆にメンドクセェ……)
と、シカマルは頭を押さえた。
何だかもう、色々と面倒臭い。
今回の事の元凶であり、且つ有無も言わさず強引に幕を下ろした、この無自覚野郎に、この面倒臭さを投げ付けてやりたくなる。
更に、一件落着はしたものの、この後始末のことを考えると余計に頭が痛くなった。
「…………?…なあ…」
だが、不意に。
一つの疑問が浮かび上がり、シカマルはシノに尋ねた。
「お前……何でキバとの修行、断ったんだよ」
そうだ。
そもそもの原因はソレではないか。
始めからシノがキバと来ていれば……それはそれで一騒動起こったかも知れないが……こうはならなかったのだ。
シカマルの問いに、シノは「ん?」と首を傾げ、
「それは………」
と答えた。
「寝起きで、面倒臭かったからだ」
「…………」
面倒臭さを、逆に叩き落とされたような気分になった、シカマルだった。
了
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
ナルトvsキバ…!!
如何でしたでしょうかっ!(> <)
リクエストを頂いた時は、本当に「おおぉ…」と思った後、
「えええぇええ?!」とビックリ致しました。。
「アレを…!?」と、最初は思い掛けないリクエストに、思わず笑ってしまいましたが。
書いてみたら、楽しい愉しい(笑)
真剣そのもの・本気モードのナルトとキバ…!
というか、もう、私がマジモードでしたね。
戦闘シーンなどあまり書いたことがなく、マジで書いてこの程度ですが、
キバがこう来たらナルトがこう返し…とか考えると、すごく楽しかったですv
基本、中忍試験予選をベースに、キバの雪辱戦ともなるように書いてみました。
ナルトも強いけど、キバも強いんだよ…!
でも、シノはもっと強いんだ…!(笑)
という希望を込めてw
読み返してみると、メッチャ真面目なのに何か笑える…とか。
シカマルの面倒臭がりキャラ押し出しすぎじゃね?…とか。
シノ受け要素少な!……とか。
ツッコミどころ満載ですが…(汗)
海月様、ど、どうかお納め下さいませっ。
そして、この度は相互リンク、及びナルトとキバの戦いを書くチャンスをくださり、
誠にありがとうございました――!!!