明くる日
「ま、各自心構えだけは中忍になれよ。おだつなよ」
中忍試験をクリアした子ども達。
昨年のシカマルの後に続き、全員が中忍に昇格できた。
その吉報を聞いて真っ先に言ったシカマルの言葉。
「我愛羅、待ってたぜ」
なんでか真っ先に我愛羅に行った。
「どうせみんな受かると思ってたけどな、時勢的に木の葉と砂は忍不足だから。
つか、忍が去年減っちまったのは、砂の木の葉崩しのせいだけど。
ま、これでやっと俺下っ端脱出だわ」
超嫌みだった。
テマリに、我愛羅と近い!顔が近い!離れろ!
と、言われて面倒そうに我愛羅から離れ、チョウジとハイタッチしていた。
「つーか『待ってぜ』って言ってみたかったんだよ。
俺一人見学でハラハラしてたんだし」
シカマルのローテンションなスキンシップに、
我愛羅がかなり照れているのがどうにもおかしかった。
「さて、シカマルはほっといて」
アスマは担当上忍達と向き合う。
「俺とカカシとガイと紅で、
ガキどもに飯奢るんだが、
砂のガキどももどうだ?バキ」
感動的な各班での締めの後、全員を焼き肉屋に連れて行く事なるかと思ったら、
微笑ましい限りにナルトの話になって全員で一楽に行く事になった。
チョウジも、焼き肉は別の日で良いとして、全員一致である。
(結局は十班は焼き肉もする)
昨年から付き合いのある子ども達。
世代の変化は、とても輝かしいものだ。
「リー!呑むな!それは酒だ!」
「チョウジ、そのチャーハンは赤丸に食わせようと!」
「キバ、赤丸に変化かけてんのは良いとして、尻尾はやしてると…」
「なんか犬の尻尾だけ付いてるキバくんって…」
「萌っぽくて気持ちわりぃ」
「カンクロウ、化粧はげかかってるぞ」
「げ!?まじかよ!」
「デコリーン、あんまりがっつくと太るわよ」
「がっついてないわよ!?このいのぶた!」
ちなみに中忍試験ではスリーマンセルをさせなきゃならなかったため、
サクラをいのとチョウジに混ぜたスリーマンセルで試験を受けさせていた。
その事についてのシカマルの感想は。
「別に俺ハブにされてるなんか気にしねえよ。
カカシ先生とアスマとトランプしながら中忍試験見学してるから」
拗ねながら、面倒くさそうな態度だった。
「「「ごちそーさまでした!」」」
「おう!またおいで!」
元気に、一楽から退場させる。
「そんじゃ!あんた達!うちで呑むわよ!」
紅の誘いに、キバが呑まねえよ!と吠えた。
「サクラ、明日からどうすんの?」
「心配してくれなくても、また綱手様にしごかれますよ。
だから帰って早く寝ないと。おやすみなさい、カカシ先生」
「ん。それならおやすみ」
カカシが楽しそうに笑う。
「リー、テンテン、ネジ、我愛羅!
明日も!青春についてこい!」
ガイ先生!とリーが泣く。
なんで我愛羅一緒に抱きしめられているのかは、突っ込み不可かなと思った。
が、テマリが急いで我愛吾羅を救助し、我愛羅を困らせるな!ガイを一喝した。
「…じゃ、ホテル戻るじゃん」
砂が静かにその場を退散する。
「おやすみねー!」
いのが元気にその後方から手を振った。
我愛羅が軽く手を振り返した事により、
いのに抱きつかれていた。
いのをシカマルが回収する。
「じゃ、うちは普通に解散な」
シカマルとチョウジといのは、アスマにしっかり礼を述べて並んで帰った。
打ち上げは、この通り。
未成年の集まりだったのだから、各々解散したのである。
「…で、お前さんは何でそうなってる?」
子の刻を回った夜。
猿飛アスマは自宅の庭を眺めながら、久々に三味線を抱えていた。
特に眠れないとか大層な理由も無く、ただの気まぐれであった。
そんな中、夕日紅の班員、油女シノが庭先に現れた。
頭からずぶ濡れで、魚、たぶん鯉(こい)を胸に抱いていた。
猿飛アスマは、率直に、わけわからんぞと感想を述べた。
明日にでも、呼び出し祝いの一つもしてやろと思っていた人物なのだが。
「…紅のところで、ヒナタとキバと居まして、」
シノから、ポタポタと滴り落ちる水分は庭の土を染める。
鯉はとりあえず、庭の池に放った。
(水が入ってなかったためにアスマが久々に水遁で湧かした)
「俺にもよく解らないのだが、
…なんでかこうなってしまった?」
酔ってんのか未成年。
「…まあいいや。風呂入れや」
どこから持って来てしまったのか、この鯉は。
「呼び出す手間が省(はぶ)けて良かったかな」
「呼び出される予定だったのか」
シノは、アスマから木製のスプーンとマグカップを受け取った。
湯気の立つマグを覗くと、中身はシジミの味噌汁だった。
「…ありがとうございます」
酔っていると思われているのだなと、シノは一人確認する。
シノが風呂に入っている間に作ってくれたらしい。
シジミは二日酔いに良いのだったなと、
別に酔ってはいないと思いながら、シノは口を付けた。
「どういたしまして。…シノ」
アスマは、シノを見て、やんわり和んだ。
シノの服は今洗濯機に放り込まれていて、今はアスマの浴衣を着せらている。
だが、やはりサングラスはいつも通りをかけている。
「おめでとさん」
アスマが微笑んでお祝いを述べると、
シノが無愛想にありがとうございますと返した。
「食事も奢っていただき、ありがとうございます」
「おう、…嬉しくなさそうだな?」
「…そんなことは、無い」
シノには、合格したという安堵はあるものの、
それはただの通過点であると云う概念が強かった。
それ故に、達成感や満足感と言った嬉しさ、薄かった。
これは当然で在らねばならないと、シノは考えていた。
忍にとって、ただの入り口だと。
「これからキバとヒナタと離れたら、寂しくなんだろ?」
「…うちの班は、もともと探索系の能力者を集めた班だ。
戦闘においてはヒナタとキバが前方で俺が後方に回る。
紅も言っていたが、俺達はあまり前と変わるような編成や任務は無いらしい」
この班編成において、イルカ先生には大いに感心を示さねばならないと思った。
まず、日向がいると云うことは、その班員共々、
忍になるのは間違いがあってはならない。
だから、名門には遠いとしても、犬塚と油女、
家柄のはっきりした一族で組ませられている。
そして、そのバランスは長けていた。
事実、下忍一年せぬ内に中忍試験を受け、
欠ける事無く生還を果たし、二年目には合格を果たした。
木の葉を代表する血継限界の一族。
木の葉を代表する犬使いの一族。
それに、蟲使いの一族。
いのしかちょうのような先代から一族の術者
バランスが証明されたメンバーではなかったが、
れっきとしたチームワークが生まれたのは間違いが無い。
「それに、離れるも何も、中忍になり、
一族独自の部隊に身を置く事は、元々の志願だ」
キバもヒナタも、一族への帰納というだけ。
「…あまり特別ではない」
「そうかい」
飲み終わったマグカップを取り上げられ、口をふさがれた。
「っ!!?」
口づけをされている。
暴れてみるも、意味を持たず、顔をずらそうにも、
頭部は両手に抑えられて、口内へ舌の侵入を許す結果になってしまった。
「ん、はぁ!」
やっと離れたと思えば、単なる息継ぎの間を取ってくれた
だけらしく(キスの間の息は止めていた)、押し倒され、
舌を絡ませる、刺激の熱いキスは続く。
「な、─っ何をしている」
「あまりにも嬉しく無さそうだから、
急遽にお祝いやってみたんだよ」
アスマは、ケロリとした態度で、悪びれもなく、
本当に、ただの祝いという風に、キスを続けた。
「ふ、…う」
舐められる唇。
深い口づけ。
気持ちが良いと感じてしまう。
ゆっくり、アスマの温もりに力が抜けてしまう。
シノは、アスマに嫌悪などを持った事が無い。
いや、一度くらいは在るかもしれないが。
初めてのキスというわけではない。
「ん」
サングラスを奪われ、額にキスを受ける。
「部屋にでも行くか」
頭をくしゃりと撫でられる。
「…あ」
「ん?」
「三味線、は」
「しまっちまった。
なんだ?聞きたかったのか?」
コクリと頷けば、アスマは苦笑する。
「ま、また今度な」
ヒョイと担がれて、シノはアスマの部屋に運ばれる。
アスマのベッドで、アスマに、愛される。
アスマの温もりに触れ、アスマと愛し合う。
シノは、この幸せが好きだと思う。
最中のアスマは、普段と変わらず優しく、
普段では考えられない程に優しく。
普段の倍以上、かっこがいい。
「よし、いい子だ」
「ん……。」
アスマが、そっとシノを撫でると、
シノはアスマの手首に触れた。
「ん?どした?」
「…こどもの、ように」
扱われてたくないと、小さくシノが続けるが、アスマはそっと撫で続けた。
「あぁ、もう中忍だったな」
ならば、早く大人になって。
ならば、いつまでもこどもで。
このままであれば、どれだけ幸せか。
─*─
「アスマ、あの魚どしたの?」
どの魚?ああ、あの魚。今朝金魚の餌を与えたなと思い出した。
昼下がりの縁側、アスマとシカマルと将棋を指していて、シカマルが尋ねた。
庭先に見慣れぬ生き物が居場所を作っていれば、
シカマルでなくて尋ねてくるだろうと、アスマはふっと笑った。
アスマは、シノが中忍になったその日に抱えてきた鯉だと説明する。
行為の事は省くも詳細に、ずぶ濡れだったとか、言い訳が酔っ払いだったとか、
後でシノが口をきいてくれないのは当たり前に説明をしてやった。
「…へぇ、シノが鯉を抱えて」
「ああ、結局なんだったんだか」
池の中で、スイスイと泳ぐ大きな、綺麗な赤い鯉。
「……大喜利じゃね?」
「ん。なんだって?」
「あー、何でもねえよ。めんどくせえ。
はいはい、シノが酔ってアスマんとこに鯉抱えて来たんだろ。
アスマのとこまで、胸に恋抱えてきたんだろ。
あー、鯉ね。恋。『恋』、ね」
「…なに連呼しながら拗ねてんだお前は?」
「あー、めんどくせえ」
パチッと、シカマルは不機嫌そうに王手を刺した。
─:*:─
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リンクさせて頂きました『空の天空の穹』の森林様より、相互御礼としていただきました…!
アスシノですよ! アスシノ―――――っ!!
『アスシノで、中忍試験に合格して中忍になったのにそれ程嬉しいとは思わないシノ。
裏めで、シカマルとも絡みを』
……なんていう滅茶苦茶な注文に、こんな素敵な文章を書いてくださいました!
シカマルがいじけるんですよ!
我愛羅が照れるんですよ!
シノが鯉(恋)胸に抱いてアスマを訪れるんですよ!
しかもアスマの浴衣着せられてるんですよ!
しかもしかも、「よしいい子だ」って、御礼絵の場面まで出てくるんですよ!
そして最後に、シカマルが拗ねるんですよ!
もう、笑いが止まりませんよ!
しかも、本当はシノに
「鯉(恋)を胸に抱いて行ってしまった」ってシカマルに相談させるつもりだったらしいのですよ!
さすがに可哀想で止められたそうですが。
でも、そんな可哀想なシカマルも、想像すると堪りませんよ!
天然シノ万歳!(笑)
シカマル、我愛羅、みんな最高です!
そして『裏め』な部分も…vv
森林様、こんなに素敵なアスシノ小説を、誠に、ありがとうございました!!