※バレンタインに続き、下ネタ傾向です。
呼び出され、何だと思って来てみれば…。
白い生クリームをたっぷりデコレートしたケーキに加え、エプロン+三角巾に身を包んだいい男の姿を見たシノは、思った。
やはりこの人はバカだ――と。
white- fresh cream poison~白生乳酪ノ毒~
今日はホワイトデーということで呼ばれた意味はなんとなく予想していたのだが―予想してのこのこやってくる自分も自分だと思うが―
ゲンマはそんなシノの予想を良いのか悪いのか、裏切ってくれた。
ゲンマの家を訪れたシノが目にしたのは、エプロン姿の恋人と、その人が作ったのであろうワンホールケーキ。
頭にはいつものバンダナではなく三角巾を巻いていて、エセパティシエのようだと、シノは思った。
「じゃ~ん!」
しかし当の本人はシノにそんな感想を抱かれているとは露知らず、どうだ美味そうだろ~と上機嫌。
鼻の頭には生クリームが付いていて、無邪気にも程があるだろう…と思う。
「何だよシノ。んなとこに突っ立ってないでこっち来いって。それとも何か? 感激して声も出ないか」
「……別に感激などしていない。確かに、少々予想外ではあったが…」
「ん…? 予想?」
包丁を取り出したるゲンマが、きょとんとした顔でシノを見る。
そして戸口で足を止めていたシノが自分の下へやってくると、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「もしかして、ナニかと期待してたのか?」
「………」
その卑俗な質問にシノは答えず、ただ眉間の皺をぎゅっと深めただけだった。
赤面したり動揺したりしてくれればそれはそれで可愛いのだが。
非難の眼差しもこれはこれで可愛い、と思うのは惚れた欲目だろうか。
「………それでこれは」
ムッツリとしながらもシノが話題と視線を逸らす。
矛先は当然ケーキのことで、ゲンマはああ、と笑って答えた。
「もちろん、俺からのホワイトデーケーキv」
ほら座れよと言えばそこは大人しく席に着くシノ。
切り分けてやれば覗き込んだり斜めから見たりして、ポツリと呟く。
「スポンジも手作りか」
「おう。このゲンマさんが腕によりをかけて作ったんだ。残さず食えよ? ああ、ただし…」
いただきますと手を合わせて生クリームの山にフォークを刺したシノに、ゲンマはにこやかに付け足した。
「毒入りだから」
口に運ぼうとしていたシノの手がピタリと止まる。
「命懸けでバレンタインチョコもらったんだから、ホワイトデーも命懸けで受け取ってもらわなきゃ」
公平じゃねぇ、と言うゲンマにフォークを持ったまま顔を向けるシノ。
だがそれは困ったと言うより、呆れたような顔だった。
「やはりバカだ…」
「あ…?」
「どんな毒を入れたか知らないが、大抵の毒薬は俺には効かない。何故なら、蟲が分解できるからだ」
「…………」
一瞬、固まったゲンマが、不意に目を逸らしてチッと舌打ちする。
「残念だったな……それに…」
しかも平然とした様子でパクリと口に入れたシノは、ゲンマに更なる追い打ちを掛けてきた。
ひょいともう一度ケーキを突き刺すと、それをゲンマの方に差し向けてくる。
「まさか俺一人に全部食えと言うわけではあるまい」
そう言って「ん」と突き付けてくるシノに、ゲンマは笑顔を僅か引き攣(つ)らせた。
「いや、俺は…蟲に食わせればいいだろ」
「せっかく『ゲンマさん』が作ってくれたものだ。蟲に集らせるわけにはいかない」
「………っ、」
それは、確かに。
頑張って手作りした白いケーキに、黒い蟲が群がるのを想像してそれは嫌だとゲンマも思う。
思うが。
「……」
ゲンマが言い返せずにいると、はいあーん、と超棒読みで更に毒入りケーキを差し出してくるシノ。
ゲンマの負けかと、思われたが。
「!」
ニヤッと不適な笑みを漏らしたゲンマに、シノが僅か緊張する。
「そうか。そうだな。じゃ、」
あーんとシノのフォークを銜えようとゲンマが身を屈めれば、何か危険を察知したのか、シノはバッ、と腕ごとケーキを引っ込めた。
「ん? どうしたよ。食わせてくれんじゃねーの? ほらほら」
そんなシノの反応に満足げな笑みを浮かべ、逆襲とばかりにあーん、と口を開きつつシノに接近する。
シノは警戒するようにぐっと眉根を寄せ睨み付けてくるのだが、それがますます楽しくて仕方ない。
ゲンマは椅子の背もたれの両端に手を突き、逃げ道を塞いでそんなシノの顔と顔を付き合わせて目を細めた。
「ほら…。食わせてくれないなら、口移しで食っちまうぞ?」
「………毒ではないのか」
「ああ…媚薬をな」
「やはり…薬には薬か」
「知ってるだろ? 俺は公平が好きなんだ」
「……」
「でも、ちょっと不公平だな」
「?……ああ、蟲か」
「それもあるが…」
自分には蟲がいるということで条件が違うと言いたいのか…と思ったシノだったが、ゲンマはシノの頬を愛おしげに撫でながら予想外の事を言った。
「お前が一番毒を持ってるから…俺はやられてばっかりだ」
「………」
シノはその言葉に驚いたように目を瞠った。
しかし、ふ、と薄く笑うと、ちゅっとゲンマに口付けて。
「毒を食らわば皿まで、だろう?」
妖艶な笑みを浮かべる。
「シノ…」
「ただし」
だがその気にさせておいてそう続けるのがまた憎く。
「毒でも薬でも、扱い方を間違えれば命取りになる。気を付けた方が良いな」
そう言ってなに食わぬ顔で、はい、と再びフォークを突き付けてきたシノに、ゲンマは困ったような苦笑を浮かべた。
まったくコイツには参っちまう―――
パクッと口に銜えればケーキの甘さが口に広がり、滑らかに生クリームが溶けていく。
「……前言撤回。毒じゃなくて、猛毒だ」
こんなに甘い毒なら、喜んで皿までいただくが。
「でも今日はホワイトデーなんだから、お前が俺の」
「ああ」
卑俗なゲンマの言葉を遮って、シノは言った。
「白い生クリームを、食わなければな」
そしてゲンマの鼻の頭に口付けると、ペロッと付いていた生クリームを舌先で舐め取り、気を持たせたまま
せっかくゲンマが作ってくれたケーキを食べ始めたのだった。
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あとがき
バレンタインに引き続きホワイトデーも、オブラートにオブラートに…下ネタでした。ホワイトチョコの次は生クリーム!
……失礼致しました。。
っていうかもうフィフティフィフティじゃないよ。
これはもう明らかにシノに軍配が上がってるよ。
特上尻に敷くって、シノどんだけ強いんだよ(笑)
でも仕方ないんだ。
奇麗な花には棘がある。
蟲惑なシノには毒がある…!
ゲンマさんはその毒にやられてシノにメロメロなのさ!
ちなみに寄壊虫は毒(薬)を分解しなかったと思います。もちろん、シノの命令でv