※下ネタ一直線。大丈夫な方のみスクロール願います。




呼び出され、何だと思って来てみれば…。
色取り取り色彩豊かなチョコレートと思われる箱の山を見て、シノは高い襟と丸いサングラスで隠した顔に物凄く厭そうな表情を表した。
今日はチョコとハートと、あるところにはブロークンハートの飛び交うバレンタインデー。
バレンタインと言えば、多くの女性達がチョコレートの用意と配布に忙しく、そして多くの男性達がチョコレートの色香にそわそわと忙しなくなる、一大イベントだ。
とは言え、シノにとってはそれ程一大イベントという感じはしない。
それは、義理チョコしか貰えないからだとか、片手に余る数しか貰えないからだとか、そういうことではなく、あまり興味が湧かないのである。
ホワイトデーに3倍返ししなければならないのなら貰わない方が経済的だし。
義理はともかく、もし万が一本命チョコなんて持ち出されでもしたら、困るだけだ。
そんなわけで。
ヒナタに貰ったチョコと、いのに投げて寄越されたチョコだけで、シノの中でのこのイベントはほぼ終了を迎えていた……のだが。
そこに、彼からの呼び出しだ。
「…………これは…」
机の上で小山を作るチョコの箱を見たシノは、重々しく口を開いた。
そして彼は、当然のように軽く応えたのである。
「いや、いっぱい貰ったからよ。一緒に食おうと思って」
シノは思った。
この人はバカだ―――と。



white- chocolate fool~白猪口齢糖ノ愚者~



不知火ゲンマは、多分、モテる。
男のシノでさえ普通に格好良いと思うのだ。
まあ男から見た格好良さと女から見た格好良さというのは違うのかも知れないが、一般的に考えて、ゲンマはまず不細工では無いだろう。
「ん?」
そんな、細工の良い顔をじっと見ていると、チョコを摘んでいたゲンマがこちらを振り向いた。
小さめのコタツの一辺にシノが座し、その左辺にゲンマが座っているため互いに見つめても真正面からではなく、斜に見ることとなる。
斜め45度が良い角度と聞くが、シノにその違いは分からない。
ただ、やはり、ゲンマは普通に格好良いと思うだけだ。
「何だ? 俺の顔にチョコでも付いてんのか?」
じっと見つめるシノにゲンマが訝しげな顔をして手の甲で口の端を拭う。
しかし付いていないものを拭えるはずもなく、再び顔を顰めてシノの方を向いた。
「……何だよ」
「………別に」
ふいと視線を逸らしてシノがチョコの小山から一箱取れば、ゲンマは不服そうに唇を尖らせた。
「…なんか怒ってるか?」
「…怒らせるような事をした、自覚があるのか?」
「………いや…?」
考えるように視線を上に上げたゲンマだったが、思い当たらなかったらしく首を捻る。
そんなゲンマに、今度はシノが不服そうな顔を向けた。
「………やはり、アナタはバカだ」
「はあ…?」
わけが分からないというようなゲンマに、シノは開けたチョコの箱をゲンマの方へ押し遣りながら言った。
「……普通、バレンタインの日に、好意の証として貰ったチョコレートを、恋人に食わせる奴があるか」
そう言えばゲンマは漸く得心したらしい。
「ああ…」と呟いて、そして――笑った。
「はは。なんだ、焼き餅焼いてたのか」
「――っ、何故そうな」
「心配すんなって。全部義理チョコだから」
「心配など、」
「本命は一人からしか貰わねーよ」
「人の話は最後まで――、………本命…?」
尽くシノの言葉を遮りながら、ゲンマが微笑む顔をシノに向ける。
その満面の無垢な笑顔に、シノは嫌な予感がして僅かに身を引いた。
「………お…俺はアナタにやるチョコなど持っていないぞ」
持っているのはヒナタといのから貰った義理チョコだけだ。
「そもそも、俺はチョコをやる側ではない」
女ではないのだから。
「でもヤる時は女役だろ?」
そう言うゲンマは一向に気にした様子もなく不敵な笑みを浮かべている。
そして。
シノは更に身を引こうとしたがゲンマに先手を取られ、あっと言う間に組み伏せられてしまった。
「…ん…っ」
チョコの味がするゲンマの口に口を塞がれ、口腔内を堪能するように舐められる。
「は…」
ちゅ、と離れたゲンマの口はやはり不敵な笑みを湛えていて、シノに囁いてきた。
「チョコなら、ここにあるだろ?」
そしてきゅっと握られた股間に、シノがぎゅっと眉を潜めた。
「ホワイトチョコがv」
「…………」
オヤジギャグのような下ネタに、呆れて物も言えないとはまさにこの事だなと思いながら、静かに長い溜め息を吐くシノ。
「……おい、やめろ」
しかしゴソゴソとそれを食すべく動き出したゲンマに、気を取り直して抵抗した。
「いいじゃねぇか。今日はバレンタインなんだからよ」
「バレンタインなら、大人しくチョコレートを食っていろ」
「だから食おうとしてんだろ」
「それはチョコではないし、菓子でもないし、甘くもない」
「大丈夫。俺、無糖派だから」
ああくそ、糠(ぬか)に釘だ…と額に手を置いたシノは、けれどその時、不意に先程のゲンマの科白を思い出す。

―――本命は一人からしか貰わねーよ

と、言うことは、中には本命チョコもあったが断った…ということなのだろうか。
それとも……。
シノは一瞬思考に耽りそうになったが、ゴソゴソと蠢くオヤジに邪魔されて、敢え無く中断した。
そして、沸々と沸いてきた怒りにチャクラをたぎらせ――。
「いい加減にしろ…!」
蟲を放った。
「――って、ぅお! ちょ…おいおいおいおい! 待て、おい、こら、ちょ、ま…痛って!!」
今マジで噛みやがったな!! と、襲いかかる蟲に抗議するゲンマ。
そんなゲンマを、脱出に成功したシノはソファーの横に立って見据えていた。
「………年下の下忍だからといって、あまり嘗めるな」
その顔はいつもの如く険しく、そしていつもより少し大人げない。
シノがゲンマ相手に蟲を使う事は多くはないが少なくもなく、特に力で跳ね返せないセックスの拒絶にはよく使う。
いやよいやよも好きのうち…なんて事は、100%無いとは言えないが十中八九まやかしだ。
そしてゲンマの方もシノが蟲を出せば本当に嫌なのだと理解して、諦めるのがいつものパターン……なのだが。
「……嘗めてるつもりは、無いんだがな」
「!」
突然後ろからした声に、はっとしてシノが振り返る。しかしその前に足を掬われ倒されて、背後から押さえ込まれてしまった。
瞬身で移動したらしくすぐに蟲が群がるもゲンマに動じる気配は無い。

「悪いなシノ…。でも今日はせっかくのバレンタインだぜ?」

蠢く蟲の気配の中、ゲンマの声は優しく、愛おしげな手が腰に回される。

「命賭けても好きな奴の、食いたいじゃねぇの」

「…………ゲンマ…」
耳元で囁かれた言葉に、シノが困ったような顔をしながらも頬を染める。
そして行為を進めようとするゲンマに、言った。
「……悪いが、今は無理だ」
「!?」
ぼろりと崩れぶわっと広がる蟲の塊。
それが蟲分身だったと気付くも遅く。
ゲンマは、まんまとシノに一杯食わされ、逃げられてしまったのだった。








「…………あ~あ…」
それから数時間後。漸く全ての蟲が捌(は)けた後。
ゲンマは床に転がってぼんやりとしていた。
シノを取り逃がした事も残念だが、ちょっとやり過ぎたかな…という後悔もあり、シノを怒らせてしまった事を少し反省していたのだ。
「………しっかし…」
それでもよっこらせと気怠げに身を起こし、コタツの上を見遣れば、そこには義理チョコレートの残骸が散らばっている。
「……蟲の連中、全部食っていきやがった…」
アイツらチャクラ以外のモンも食えるのか…と最早感慨も無く思う。
そしてコキコキ首を回してのらりくらりと立ち上がる。
どうやらチョコを食い逃げした蟲の連中は、しかしゲンマのチャクラはほとんど食っていかなかったようだ。
主の命ならそれで良いが、もし口に合わないとか不味いから…なんて理由だったら今度串刺しにしてやる、と秘かに思う。

「……………本気で噛みやがって…」

蟲に噛まれた小指には血が滲んでいた。
そしてその出血が飛んだのか、薬指の付け根にもうっすらと赤い線が付いている。
まるで赤い糸のようだと思い、ゲンマは自嘲気味にちょっと笑った。
シノは相当怒っていたようだが許してくれるだろうか。
謝罪にホワイトチョコでも持っていったら……また怒らせるだけかな。
等と考え始めたゲンマは、けれどピンポンと鳴ったチャイムに思考を中断せざるを得なかった。
「はいはい」
ガチャガチャと鍵を開け、チェーンを外してドアを開ける。
そう言やシノは玄関じゃなく窓から出ていったのか――とふと思ったゲンマだったが、開けたドアの向こうに立っていた少年にそんな思いは吹き飛んだ。
「シノ…!」
「お邪魔します」
驚くゲンマを尻目にさっさと擦り抜けて部屋の中へと入るシノ。
そんなシノに、唖然としていたゲンマもはたとして、慌てて戸を閉め後を追う。
「お前…あ、いやさっきは…」
再び戻ってきたシノにゲンマは動揺しながらもまず謝ろうと口を開いたが、その前にと、シノは袋から取り出した箱をゲンマに突き付けてきた。
それは、本当に飾り気のない、ただの白い箱。
ゲンマが何だと思っていると、シノがパカッと上蓋を開いた。
「!」
白い箱の中身は、なんと。
「……時間が無かったので不細工だが、取り敢えず望み通りのホワイトチョコだ」
「………シノ…」
「ただし毒入りだ」
だが喜びそうになったのも束の間、ゲンマを止めるようにシノは続けた。
「っ、……毒?」
「そうだ。先程アナタは言っていた。命を賭けても俺のチョコが食いたいと。だから、本当に食いたいなら命を懸けろ」
言った相手は分身だったが、蟲達はきちんと報告してくれたらしい。
そして「俺のチョコに命を懸けろ」と真顔で言い切ったシノに、ゲンマは暫し呆けてから――笑った。
「――っ! ――っ…お前…、ホントに面白い奴だなっ」
苦笑混じりに顔を歪め、更には可笑しすぎて涙目になった目をむうっと顔を顰めているシノに向ける。
「……言っておくが、ハッタリではない。本当に毒を」
「おう、分かった分かった。じゃ、いただきます」
シノの言葉を最後まで聞かない内にゲンマはひょいとチョコを取ると、難なく割ってその一欠片を口に放り込んだ。
「!?」
「うん、旨い旨い」
「おい!!」
二つ目の欠片も口に放り、そして三つ目の欠片まで口に持っていこうとするゲンマの腕をシノが勢い良く掴む。
その拍子にゲンマの手から残りのチョコが落ち、破片がバラバラと床に散らばった。
「あ~! 勿体ねぇ…」
「何が勿体ないだ。本当に分かっているのか。死んだらどうす」
「だから、分かってるって」
慌てるシノに笑いながら応えると、そのまま笑みを湛えてじっとシノを見つめたゲンマは言った。

「女は好きな相手にチョコを渡そうと懸命になるけどな。男だって、本命の相手にチョコ貰おうと必死になるんだぜ?」

「…………」

「お前は女じゃねぇけど俺の本命の相手だから」

「…………」

「……どうしても、欲しかっ、」
「………おい…」
呼吸を乱し膝を突いたゲンマを、シノが支える。
「……なんか、熱ぃ…。お前、何入れた……」
熱に浮かされたようなゲンマが譫言のようにシノを質す。
シノはそんなゲンマの問いに暫し黙していたが、徐に――答えた。

「………安心しろ、死にはしない。何故なら……………入れたのは毒ではなく薬だからだ」
「!」
驚いたようなゲンマが何事か言う前に。
シノはそのチョコレート味の口を、口で塞いだ。








「…シノ」

そして波乱に富んだバレンタインデーも終わる頃。
布団の中で情人の腕に抱かれていたシノは、ふと呼ばれて顔を上げた。
すると情人は愛おしそうにシノを見つめてから、素敵な笑みを湛えて言った。
「ホワイトデーは、期待してて良いぜ…?」
3倍と言わず何倍でも返してやるよ。
と言う情人に、言葉を失くすシノ。
しかし「楽しみだな~」とワクワクし出した情人に、シノは声を絞り出して言った。


「………前言を撤回する。アナタはバカではなく、大バカ者だ」






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 あとがき

こげ太様の「ゲンマさん、結構、痛い目にあったんだろうと思う(「特上御用達vol.1より」)」
というお言葉からゲンマさんと蟲の絡みを妄想してみました。
で、バレンタインということで、チョコレート→クリーミーなホワイトチョコ→下ネタ一直線。

大変…失礼致しました。。

ああしかし、それにしても、どうして私が書くとシノが強くなってしまうんだろう…。
一部分なんてまるでシノゲンじゃないですか。
(………シノゲンシノ…? まさかそんな)
ただ、ね。
ただ、ゲンマさんはシノが可愛くって可愛くって仕方ないけど、
シノだってゲンマさんのこと好きで好きで大好きなんですよ。
だから嫉妬だってするし場合によっちゃあ薬だって使いますとも!
ええ、蟲にゲンマが貰ったチョコレート食い尽くさせたりもしますともさ!
シノと付き合うのは命懸け―――!!
まあ、今回は、ゲンマさんも強行手段に出たのだし、フィフティフィフティってことで一つ…

どうか御容赦下さいませっっ!