根 ヅク
「クソッ! しつこい連中だな!」
追っ手を撒くためにバラバラになったが…こっちに来たのは二人……
ってことは、シノとヒナタに一人ずつってことか……
誰もまだ追い付かれてはいねぇみてーだな 距離もある 追い付かれる心配はねぇ
一応 一番速い俺が囮になって できるだけ敵を引きつける作戦だから 成功ってとこか
……それにしても
一体連中は何だってそんなに あの手紙が欲しいんだ?
若様が姫に当てた ただのラブレターじゃねぇのかよ
なんか邪魔する意味があんのか?
そういうの……なんつったけ 夫婦喧嘩は犬も食わぬ? 違うな…
いや まあ いいや 取り敢えず気に入らねぇ連中だ
個人的な邪魔なのか 政治的な邪魔なのか知らねぇが そういうのは気に入らねぇ
ココは一発懲らしめておくか
どうせ手紙を持ってんのはシノだ
うまく撒けたとしても 今度はどんな手段で来るかわからねぇし
手紙ってことは返事もあんだろ
このまま野放しにしとくのは 良くねぇよな
待ち伏せすれば二人くらい…
『何を考えている。それはダメだ』
「!」
『リーダーだとしても勝手な行動は許されない。危険は極力回避しろ。そのための作戦だ』
チッ 何だってこんな時に奴の説教が…
『お前の好戦的な質は長所でもあるが短所でもある。攻撃に転ずる前に、考えることも必要だ』
わかってるよ んなこたぁ…!
『一時の思いつきで行動するな。その考えが本当に正しいのか見極めてから…』
だから! わかってるっつってんだろ! くどいんだよオメーは!
『………キバ』
ああああああああ!!! 俺の思考回路から出て行きやがれ! 考えるから! 考えりゃいいんだろっ!
――――――ったく…!
「! ……おい」
「ああ」
一人の下忍を追っていた二人は、その下忍が方向を転換した事に気が付くと、その後を追って一人が右へ逸れた。
残る一人はそこから更に直進した後、同じように右へ折れた。
これで挟み撃ちにすることができる。
後から曲がった忍は、その先に小さな一軒家と畑、そして馬小屋を発見した。
その馬小屋の前で、相棒がここだと合図を送る。
どうやら、馬小屋に逃げ込んだらしい。
袋の鼠とはこのことだと、忍は笑みを漏らした。
追いかけっこにも飽きてきたところだ。追い詰めた鼠をどうやっていたぶってやろうかと考えるだけで気持ちが昂る。
馬小屋に着くと、もう一人と共に警戒しながら中へと入った。
小屋の中には馬が数頭。そして―――いた。
しかし、姿を確認したその途端、その下忍は煙に消えてしまう。
そして、同時に爆発音がしたかと思うと、煙が広がり視界が奪われる。
と。馬達も異変に驚いたのか、視界の利かない煙の中で暴れ出した。
柵があるはずなのに、どうしたわけか小屋全体を駆け回り出す。
悪魔のような鳴き声を上げながらその剛健な脚で地を踏み荒らし、その場にいる忍をも容赦無く足蹴にし踏みつけた。
「「ぎゃああああああああ!!!!」」
今度は、悪魔を見た人間の叫び声が二つ、悲鳴となって上がった。
そんなどたばた騒動を木の上から眺めていたキバは、にやりと会心の笑みを浮かべた。
煙玉と、柵に取り付けるために出したが余った起爆札を、ポーチの中に仕舞い込む。
「二人の恋路を邪魔する野暮は、馬に蹴られて死んじまえ…ってな!」
そんな捨て台詞を吐いたキバは、笑みを浮かべたまま未だもうもうと灰色の煙が上がる小屋を一瞥した後、
音もなく、その場を後にした。
*