キバシノの相関図


「んなぁ、シノ。俺の事、好きだよな?」
沈黙を破って唐突に尋ねられた断定的なキバの問いに、シノは手を止めた。
広げられた巻物に目を落としたまま、沈黙する。
「…………無視かよ」
「突然、何だ。暇なら散歩にでも行ってこい」
「いいじゃんか。なあ、俺のどこが好き?」
突っ慳貪なシノにかまわず、好きという前提のもと問いを発展させるキバ。
「…………」
「あんだよ。そんなに考えなきゃ出てこないのか?」
ぶうっと膨れたキバをシノはちらりと見てから、ボソリと言う。
「…………怒らないか」
「ぁあ?」
「言っても、怒らないなら、言う」
好きなところを言われるのに、なぜ怒らなければならないのか。
シノの言葉に、キバは首を傾げつつも頷いた。
「怒ったりしねーから、言えよ」
シノは、キバのその言葉に頷いて、一呼吸置いてから、言った。

「可愛いところ」

「…………は……?」
キバは、一瞬我が耳を疑った。
今…カワイイトコロ、と言ったか……?
「か…かわ、いい…?」
オレが……??
目を丸くして呆然とするキバに、シノはうむと頷いてキバの頭にぽんと手を置く。
なでなでと撫でられるのは気持ち良いが、爆発寸前の頭にそんな余裕はない。
だって…………可愛いって……。

「てめぇ! 俺を、何だとおもってんだあぁぁ!!!」
ついにリッミッターを越えて、キバは爆発した。



「…………まだ怒っているのか」
「当たり前だろ」
「怒らないと言った」
「可愛いなんて言われて、怒らずにいられるかってんだ」
ぶすっとふくれっ面で顔を背けるキバに、シノは溜め息を吐いた。
そういうところを、可愛いというのだがな…と心の中で思う。
しかし、可愛いというのは褒め言葉であって、なぜここまで気分を害するのか解らない。
「……可愛いということの、何が気に入らない?」
「あのなぁ!!」
シノの疑問に、キバが鋭い眼を向ける。
「言っとっけど! 俺は攻めなの!! 一応!! それを可愛いって……失礼にも程があんだろ!」
鋭い牙を剥き出しにして、唸る。
「もっと他に、カッコイイとか! せめて勇ましいとか……さあ!!」
キバの怒鳴りに、なんだそういう答えを期待していたのかと、シノは納得した。
しかし、ふと、思う。
「………では、お前は俺をどう思ってるんだ」
「え………俺…?」
唐突に切り替えされて、キバはたじろぎながらも頭を捻る。
カッコイイ?……いやいや、それでは立場が逆だ。
面白い…とは思うが、失礼か。
可愛い…とも思うが、同じ答えを返すのは嫌だ。
「ほ……ほっとけない…かな」
なんとか適当な言葉を選び出したキバだったが、その答えにシノが眉を寄せた。
「それも大概失礼だな。俺は、放っておいてもらっても何の問題もない」
つっと冷たくなった態度と言葉に、キバは選択を誤ったと悟った。
へそを曲げられてしまった。
「いや…べ…べつにお前が頼りないとか、そーゆーんじゃなくてだな…!!」
慌てて御機嫌を取ろうとするも、シノは再び巻物に視線を落として、何かをメモに取り始める。
「――――――ったく…!」
言葉で表しきれない感情を吐き捨て、キバはシノの背に己の背をぶつけて座り込む。
再び訪れた沈黙の中。
互いの体温が、背中を通じて伝わってきた。



「…………まだ拗ねてんのか」
「拗ねてなどいない」
沈黙を破ってキバがボソリと言えば、それでも気持ちは鎮まったのか、背中越しに返事が返る。
ちらとシノの様子を窺うと、間近に肌理の細かな白い肌が見えて、思わずドキリとした。
綺麗だと答えていたら、怒らなかったかな……と不意に思う。
「……なぁ…」
体を反転させて、キバはゆっくりと、背後からシノを抱き締めた。
「………俺が悪かった。どこが良いとか、好きとか、んなこたぁ、どーでもいーんだ」
そうして、そっと、耳元で囁く。

「愛してるぜ? シノ…」

出来うる限りの低く甘い声で囁けば、沈黙を守るシノの耳が赤く染まる。
うっすらと上気した頬を見ても、効果があったのは明らかだ。
キバは、にやりと笑みを零した。

「今。カッコイイって思ったろ」
「思ってない」
「思ったって」
「思ってない」
「思った」
「おもって…」
意地になって言い返そうとしたシノの声が、突然大きな咳払いによって遮られた。
「おまえらなぁ…」
ピタと動きを止め、二人同時に向けた視線の先で。


「イチャつくんなら、余所でやれ……!」


薬に関して調べにやってきたシノのために、新たな巻物を担いで戻ってきたシカマルが、パンッと部屋の戸を開け放った。





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あとがき
矢張り、キバシノで迷惑を被るのはこの人です(笑)
奈良家を訪問したシノと、それにくっついてきたキバ。
基本的に、管理人はキバを『可愛い』と思っております。
『恰好良い』はシカマルで、シノは『面白い』(ぇ)
ひたすらシノキバチックなキバシノを目指しつつ。
でも今回は珍しく、キバシノ甘甘SSでした。
こんなお礼しかできませんが…。

拍手を送って頂き、大変誠に、ありがとうございました!!!












(07/9/17-11/11)