imaging moon


ガサリという音と気配に振り向いてみれば、そこにいたのはサスケだった。
息を切らしている…と言うほどでもないが、少々焦ったような様子に、しかし慌てることはない。
サスケの様子の原因は、容易に想像が付く。
「………撒いたのか」
問えば、きょろきょろと辺りを確認してから、まあな、と言うようにフッと笑った。
今日は中秋の名月、十五夜であり、そのお月見をしようということで7班、8班、10班、ついでにガイ班が、西の森に集まっていた。
十何人も一堂に会せば騒がしく…もとい、賑やかになるのは当然で、お月見場所はとても盛り上がっている。
少し離れたこの場所に居ても、時折笑い声が聞こえてきていた。
「……で、お前はこんなトコで何してんだ。シノ」
いのとサクラを撒いてきたのであろうサスケが、自分を振り返っている人物の下に歩み寄りながら言った。
会場から少し離れた場所で一人腰を落ち着けていたシノは、サスケが横に座るのを見届けてから答えた。
「月を観ている」
指した先に、煌々と輝く十五夜の満月。
「………そりゃあ見れば判る。今日はそのために来たんだろうしな。俺が言ってんのは、それなら向こうでも良いんじゃねーかって事だ」
サスケが指したのは、後ろの、少し離れた、皆の居る方向だった。
シノは指し示された後ろを僅かに振り向くと、ああそうかと言うように言い直した。
「俺だけ、『月』だそうだ」
「…………」
意味がわからない。
それがサスケの表情から伝わったのか、シノは続けて説明した。
「……昼間、月見の話をした時にキバに言われた。キバと赤丸は性格的に『太陽』で、ヒナタは『日向』。紅先生は『夕日』だ。それで、俺だけ『月』だそうだ」
まあ、言われれば納得できなくも無い話である。
確かにシノは、月か太陽かと言われれば『月』のイメージだろう。
が。
問題は、その話が昼間出たからと言って何故一人離れてココに居るのか、という事だ。
要するに…………拗ねているんだろう。
サスケは思い至って、呆れたというか、どうでもいいと言うか…何とも言えない顔をした。
「……くだらない…」
結局、そう呟く。
「そもそも、どうしてキバが『太陽』なんだ。イメージの話なら、俺からすればアイツだって『月』だろう」
「……?」
何故だと無言で問うてくるシノに、サスケは視線を上げて月を見てみせた。
「犬は、月に向かって吼えるモンだろ」
同じように月を見上げたシノが、なるほど…と呟く。
そして再びサスケの方を見ると、
「お前はどっちだろうな…」
と言った。
「イメージ的には『月』だが……火を使うなら『太陽』か」
「フン、」
くだらねぇ話だ、と、サスケは再度漏らした。
そう言ってしまえば、それまでの話である。
月は月だし太陽は太陽。人を月や太陽に見立てたところでどうにもならない。
人は人で、自分は自分なのだ。
「………それはそうだが」
シノも、そんなことは解っているのだろうが、だが、と言った。
「自然のイメージと、人は無縁ではないだろう。人が、月でも太陽でも無いと言うのは当然だが、
人に月の要素や太陽の要素が見られるのもまた然り。人間は食物などを糧に自らエネルギーを生み出し、
そしてそのエネルギーを、光りのように他者に伝播することができる。そしてまた、己自身も、他者からの光りを受けて輝きを得る」
「………」
「そもそも自然の『イメージ』だからな。イメージは人の作るものであり、人が作ったから在るものだ。イメージは人に由来する。
ならば、そのイメージと人を合わせてみることは、その人物の人物像を考える上では役に立つ」
「……急に難しい話すんなよ」
サスケは思いのほか饒舌なシノを少し睨んだ。
するとシノはそうかと言うように、改めて言った。
「要するに……『温故知新』だ」
温故知新…古きをたずねて新しきを知る。昔の物事から、新しい知識や見解を得ることだ。
イメージとは、つまりは昔ながらの人の感性で、それと比べて見ることは仲間の理解を深め、新たな発見を生む……可能性がある。と、シノは言いたいのだ。
随分簡略化したものだと、サスケは思った。
最早『月』も『太陽』も無いではないか。
「…………」
「…………」
サスケもシノも、黙って月を見上げていた。
きれいだ。
と思うが、それも、言ってしまえば人が勝手に抱くイメージなのだろう。
目に映る世界は、人の、ひいては自分の作り出した世界観だ。
月は月で、太陽は太陽でしかないと言うのに。
そこには、どんなに引き剥がしても、何らかのイメージがつきまとう。
そもそも、『月』や『太陽』という名前すら、人の作りしモノなのだ。




と、言うか…。
サスケははたと気が付いて隣に居るシノを見た。
気付かない内にすっかりシノのペースにはまり、影響を受けていた。
それはまるで、太陽の光を受けて自らを輝かせる月のように…。
『人に月の要素や太陽の要素が見られるのもまた然り』という、シノの言葉を思い出す。
それならば…と、サスケは思った。

十分お前も『太陽』じゃねーか。


「……? 何だ」
シノがサスケの視線に気付いて顔を向ける。

「………」
綺麗だと、思った。
月の光を浴びて、白く浮かび上がったシノを目にして。
どうこがどう…と言うことはなく。
ただ、綺麗だという、イメージが生まれた。







長い沈黙。
静寂の中に、少し離れた場所から笑い声が聞こえてきた。
合わさった唇が離れる。
突然の口付けに、シノは呆然としたらしかった。


「……黙ってろ」


サスケは立ち上がって、言った。

「黙ってんのは、得意だろ」

そうして、風のように姿を消す。
皆の下へ戻ったのか、それともどこか別の場所へ行ったのか、残されたシノにはわからなかった。
ただ。
キスをされたことには気が付き。
そして、思った。




……と言うか、黙っていなければいのとサクラに俺が殺される




と。



秋一夜。綺麗な満月の下で生まれた、新たなimage… 。





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あとがき
新たな扉を開けました。
サスシノは以前からぼちぼち書いてはおりましたが、総受けとかに混ぜて…だったので。
今回は純粋な(?)サスシノですっ!
結局ギャグ風味にしてしまいましたが、サスシノは書いてみると、案外シリアスで行けそうな気がします!
ただ、サスケは本誌の時系列的にシノと絡め難いので、やるならそれを無視しないといけません。
………まあ、本編無視は常習犯なんですが…。
取り敢えず、懐にサスシノの卵抱いて温めておこうかと思います(笑)

一晩で書いたもので、しかも相変わらず理屈っぽい内容になってしまい、わかりにくかったことでしょう……。申し訳ない…。
それでも最後までお読みくださり、ありがとうございました!
早いものでもう10月! そして今宵は十五夜・満月!
皆々様、秋の夜の美しき月を、どうぞご堪能下さいませ!
ただし夢中になりすぎて、お風邪をめされませんよう、ご注意下さい(笑)

A happy full moon !












(09/10/3)