十五夜タクティクス
十五夜。
中秋の名月が煌々粛々と輝く、その夜。
アカデミーのテラスでは、7,8,10班が会していた。
お月見である。
親睦会も兼ねて各班の担当上忍が企画した…ことになってはいるが、実質上の主催者は畑カカシだ。
このお月見、親睦会の意味合いも勿論あるのだが、カカシの謀はそれに留まらない。
まず、アスマと紅の接近。そしてサスケを巡るいのとサクラの接触と、ナルトとヒナタの交流を目論んだ。
要するに、要らぬお節介である。
その他のシカマル、チョウジ、キバ赤丸は、まあ純粋にお月見を楽しんでもらう計画だ。
シカマルは兎も角、チョウジは月見の団子で満足だし、キバと赤丸もまん丸の満月にご満悦で、お月見は大方カカシの目論見通りに進んでいた。
しかし。
これ等とて、カカシの謀略の中では極一部、目的のために用意した下地・装飾に過ぎない。
カカシの目的。それは―――。
「おい」
テラスの縁に腰掛け呆と一点を見つめていたカカシに後ろから声が掛かる。
見れば、サスケが縁に手を掛け、上がろうとしているところだった。
サスケはいのとサクラの抗争から逃れるため、一旦テラスから姿を消していたのである。
「おぉ、おかえりサスケ」
そう言うカカシを、横に降り立ったサスケはあからさまに睨み付けた。
「のうのうと…。よく言えたもんだな」
「何…?」
「アンタの策略なんて、俺にはお見通しだ。下らない計画に俺を巻き込むな」
不機嫌そうに言うサスケに、カカシはあら…と気の抜けた声を出した。
「バレてたのね」
「…バレバレだ」
「ん~。でもね……良い考えだろ?」
サスケを横目で見ていたカカシは、徐に視線を移し、元々見つめていた所へ戻した。
その視線の先には―――油女シノが居た。
「だって俺が個人的に誘っても来てくれないでしょ。だからみんな誘ったんだ。みんなと一緒なら来るから、彼」
「だから」
カカシの途方もなく私的な目的に、サスケは語調を強めた。
「そんなことに俺を使うな。不愉快だ」
しかしカカシも然る者。
「まあ、そう言うなって。おまえだって楽しいだろ、お月見」
「フン、下らない。そもそも、月見る隙もねぇじゃねーか」
いのとサクラのお陰である。
「そうか? なら見ろ、サスケ」
カカシが振り返り、空を指差す。
つられてサスケが仰くと、ぽっかりと満月が浮かんでいた。
「できたろ、月見」
「な――」
「でだ、頼みがあるんだが」
あまりにもあっけない月見をさせられ、サスケは反論しようとしたが、カカシに阻まれた。
真剣なのか巫山戯ているのか判らない表情のカカシに見つめられ、嫌な予感がして頬を硬直させる。
にっこりと笑った片目が、サスケに予感の的中を確信させた。
「おいシノ、いつまで月見てんだよ」
「ゥワンッ」
突っ立ったまま夜空を見上げ続けるシノに、キバが振り返って言った。
胡座を掻いたその間から赤丸も顔を出して吠える。
その声掛けに、シノもゆっくりと振り向いた。
敷物が敷かれたテラスの地面には、供えられた団子を中心に、キバ、赤丸、ヒナタ、ナルト、サクラ、
いの、チョウジ、シカマルが車座になって座っている。シカマルとキバとの間に空いた空間は、シノの席だ。
しかしその空席には、シノの代わりに紙皿に置かれた団子が鎮座していた。
「ほら、ヒナタの作ってきた団子。お前の分だぜ? 早くしねーと、俺が食っちまうぞ」
と、シノの席に置かれた団子を指しながらキバが言う。
お月見の宴もたけなわで、シノが目を逸らした今となっては、最早月を見ている者は誰もいない。
花より団子ならぬ、月より団子といった雰囲気だ。
ただし一部は花より男子(極めて限定的な)だが。
「そーだぞシノ! ヒナタの団子すっげーうめぇのに! 食わねぇんだったら俺に寄越せ!」
シノからすると右斜め向かいに位置するナルトが、キバの言葉が聞こえたのか、いきなり声を張り上げる。
その隣では、ヒナタが「ナ…ナルトくん…」と蚊の鳴くような声で言い、顔を真っ赤にした。
そしてまたまた、ナルトの言葉を受けて、今度はチョウジが「いや、ボクが食う!!」と名乗りを上げる。
その声明に、キバが牙を剥いた。
「おめーは食い過ぎなんだよ! あんなにあった団子、食ったのほとんどおめーじゃねぇかっ!
だからせめてヒナタの作った分は…って俺が確保したんだろーが!!」
「そんなことは関係ない。シノが食べないならそれはボクが食う。なぜなら…」
怒鳴るキバに対し、まるでシノのような口調と言い回しで応えるチョウジ。
一旦言葉を切り、あんぐと団子を一つ頬張ってごくりと呑み込むと、チョウジは言い放った。
「それが残った、最後の団子だからだ!!!」
いつの間にか中央に供えられていた団子は無くなり、空っぽの大皿だけが残されていた。
つまり、シノの席に鎮座した団子が、この日最後のお月見団子となるのである。そしてそれは正しく『最後の一口』なのだ。
「あ、てめ、いつの間に―――!」
団子を食い尽くしたのかと、憤るキバ。
キバは、始めの方は赤丸と共に満月にはしゃいでいたため、団子への着手は出遅れていた。
「あ~……」
そんなキバとチョウジの言い合いに挟まれ、心底呆れ顔を呈しているのは、シカマルに他ならない。
メンドクセェ連中だな、とぼやいたシカマルは、頭を反らしてシノを振り仰ぐと、
「つーわけで、さっさと食っちまえ」
と言った。
それもそうだ。
キバ、ナルト、チョウジの団子争奪戦は、シノが食べない事を前提としている。
しかしシノは、まだ食べるとも食べないとも口にしてはいないのだ。
シノが食べてしまえばそれまでである。
「……ああ…」
シカマルの振りに、シノは漸く返事を返すことができた。
キバの脅迫にも、ナルトの強要にも、チョウジの声明にも、応える間が尽く無かったからだ。
だが。
席に着こうと体の向きを変えたシノを、拘束する者がいた。
瞬時に現れたその気配は、まるで身を隠すかのようにシノの背後に潜み、シノ以外には聞こえない音量で
「ちょっと来い。話がある」と告げた。
そしてふっと消える。
シノは振り返りもせず、キバ達に団子は後で食べると告げて、テラスを後にした。
月光も遮られた薄暗い廊下に入ると、凛々と響いていた虫の音もほとんど聞こえなくなった。
「何の用だ……サスケ」
シノが僅かに顔を向ける。
と、壁にもたれかかったサスケが闇の中にぼんやりと浮かんでいた。
サスケは応えず、シノの後を確認している。
「心配は要らない。いのとサクラは、気が付いていない」
そう。
まるで身を隠すようにしてシノの背後に現れたのは、本当に身を隠していたのだ。
シノの言葉を聞くと、サスケは一つ息を吐いて、漸くシノの方を向いた。
「――で」
これ以上省略しようがない程省略したシノの追求に、サスケが切り出す。
「ああ、」
切り出したは良いがどうにも気まずくて、サスケは言葉を切り、僅かに視線を泳がせた。
緊張している。
緊張する理由も、意味も無いというのに。
バカな、と自分を叱咤して、サスケは再びシノに視線をぶつけると、単刀直入に言った。
「カカシからの伝言だ。西の貯水場に来い――だとよ」
言い切った。
これで、自分の役目は終わりだと、安堵ともなんともつかないような気持ちで、サスケは溜め息を吐いた。
端から見れば、カカシの我が侭に付き合わされてヤレヤレ…という風に見えたかもしれない。
何にせよこれで終わりだと、サスケは「それだけだ」と言って踵を返そうとした。
が。
「………何故」
という声に、ピタリと動きを止める。
見れば、シノがサスケをじっと見据えていた。
―――――何故?
「そんなこと、俺が知るかよ」
知るわけがない。
知りたくもない。
だがシノはサスケの返事に「いやそうではなく…」と言って訝しそうに小首を傾げ、
「何故、お前はカカシ先生からの伝言を引き受けたのだ…?」
と訊いた。
「…………は…?」
サスケは、その質問の意味がすぐに解らなかった。解らないことが解ったのだろう。シノは間を置かず続けた。
「カカシ先生に頼まれても、お前なら断るだろう」
と。
その通りだ。
実際、サスケは断った。
では、何故、断ったにも関わらずこうしているのかと言うと―――。
サスケの脳裏に、カカシと交わした会話が甦る。
『断る。何で俺がそんなこと』
『何でって、お前にとっても悪い話じゃないだろう?』
『何…?』
『だって、こんな機会でもなきゃあ、お前、シノと話す事なんてないだろ?』
『……………』
そうなのだ。
サスケが結局カカシの頼みを聞いたのは、『シノと話すチャンス』だったからだ。
しかし、そんなこと言えるはずもない。
何故?どうして?とじいっと窺ってくるシノに、サスケは顔が熱くなるのを感じた。
「っ、ど…どうでもいいだろ! そんなこと!」
思わず声が大きくなる。
声は夜のアカデミーの中を駆け抜け、そのまま闇に消えた。
しん、と静まり返る。
「あ……」
何ムキになってんだ、とサスケは我に戻って、言い訳するように続けた。
「あれでも……一応、上司…だからな……」
上司命令は絶対。
この手の理屈は、シノのような人間には有効だ。
多少サスケの態度を不審に思っているようだが、「成る程」と一応納得したらしい。
ほっとした。
そしてほっとすると、このままではあまりに自分がバカみたいだと思う。
これもどれも全てカカシのせいだ。と考えて、サスケは一矢報いてやることにした。
「それで……お前、行くのか」
シノは僅かに小首を傾げたが、すぐに貯水場へ行くのか訊いているのだと思い至り「ああ」と言った。
思い至った「ああ」なのか、行くと言う肯定の意味での「ああ」なのか判らなかったが、サスケはかまわずに続けた。
「別に、行かなくてもいいんだぜ。つーか行くな。どうせろくな事考えてやしねーんだ。いつも人を待たせてんだから、ずっと待たせてやればいい」
そう言うと少し、すっとした。
きっとシノは行かないだろうという、根も葉もない考えに、何故か自信が芽生える。
否。根も葉もあるのだ。
どう考えたってシノがカカシに呼び出されて、行かなければならない理由など無いのだから。
逆に、行かない理由の方が容易に想像がつく。そう、どうせろくな事はないのだから。
しかし、シノはサスケの予想に反して「否」と言った。
確信が一瞬にして泡と消え、僅かに動揺する。
対してシノは相変わらず淡々としていた。
「お前の言う事ももっともだ。だが、俺は行く。今回は、俺も個人的にカカシ先生に用があるからな」
シノの言葉に、サスケは更に動揺した。
用…?シノがカカシに…?
しかも個人的にって………?
「お…」
「伝言役、御苦労だった」
何を言おうとしたのか自分でもわからなかったが、サスケはとにかく何かを言おうとした。
だがその声は尊大な態度と言葉に容赦なく掻き消され、そしてシノもまた、ふっと姿を消してしまった。
サスケはただただ呆然と、佇むしかなかった。
貯水場と言っても、西にあるのは昔のもので、今では古池と化している。
濁っている上に夜の闇に侵食された水は、月明かりを鈍く反射してぬるぬるとしていた。
「やあ、来たね」
貯水場へ赴いたシノに、声が掛けられる。
カカシは屋根の上に立っていた。
カカシがおいでおいでと呼ぶので上ると、上空に満月がぽっかりと浮かんでいた。
テラスからよりもよく見える。
「ご用件は」
一通り辺りを眺めてから、シノは単刀直入に尋ねた。
カカシはんふふと笑い、シノの目線に合わせてしゃがむと、にっこりとして言った。
「一緒にお月見しよう」
「…………」
まあ…そんなことではないかと思っていたのだ。
シノは答える代わりに黙って月を見上げた。
カカシが隣で腰を下ろし、シノにも促したので、シノも座った。
深夜の月は本当に綺麗だ。
冷えた空気の中で凛と輝き、通り過ぎる雲に月影がかかれば幻影的なシルエットが生まれる。
月の光は、死んだ光りだと聞く。
太陽から発せられた光が月に反射する際、それは太陽の光でなくなるのだ、と考えれば間違った解釈ではないだろう。
月の光が綺麗なのは、太陽の光りから騒々しい部分を削ぎ落としているからだとも考えられる。
だが、そういう意味合いでなくとも、月の光りは死を連想させる。
多くの動植物が眠りに就く夜は、生命が希薄だ。
そして月は、その夜を支配する。
月明かりはまるで安らかな死を表し、時には誘うかのように思われるのだ。
だから――。
だから、獣は月に向かって咆吼し死に抗い、またその光に安堵するのかもしれない。
しかしシノは知っている。
夜もまた生命に満ちていることを。
夜行性の動物、そして虫達は、月の光に導かれて生きている。
音もなく繰り広げられる生命の営みは、陽の下のそれに負けず劣らず壮絶で活発。
詰まるところ、昼夜問わず、生と死は常に繰り返されているのだ。
ただ昼行性の人間の目から見れば、月は安らかな眠りを暗示するものだ、というだけだろう。
静けさに埋もれるように。
シノは沈黙に身を浸した。
浸しながら、そろそろ日付が変わる頃かと暗黙に思う。
蟲達に時間の感覚は無いが、大地と宇宙の間で刻々と変化する物理学的な動きを、本能的に感知する彼等は、
シノにとってはこの上なく正確な体内時計だ。
しかしより正確を期するため。……と、月を直に見たいがため。
シノはサングラスに手を掛け、そっと外した。
目を細め、月に目を向ける。
眩しかった。
だが。
矢張り、綺麗だ。
ざわざわと蟲達が変化を察知して蠢く。
ああ、もうそろそろ―――。
カカシは、驚いていた。
一緒に月見をしようと言ったにも関わらず、カカシの目は月ではなくシノに、ずっと向けられていたのだ。
変化があるわけでもなく、こちらを向くわけでもなく、しゃべるわけでもない少年を、じいっと見つめていた。
見ているだけで幸せだった。
それがどうしたわけか、シノが自分でサングラスを外したものだから、驚いたのだ。
どういうつもりか、カカシには全く解らなかった。
カカシの視線の先で、細められた目が眩しそうに月を見上げる。
月夜に晒されたその目は、綺麗だった。
とても綺麗で、もっと見惚れたいと、自然と手が伸びた。
月光に透いた頬に触れれば、向かせずとも驚いたように僅か見開かれた目がこちらを向く。
このままキスしてもいいかな……とカカシは思った。
ロマンチックというにはお月見という点で些か渋いが、ロケーションもシチュエーションもバッチリだ。
カカシは自然な流れに任せ、きょとんとしているシノの素顔に顔を寄せた。
そして―――。
ペチャ。
「………」
顔に当たったのは期待した柔らかな感触ではなく、ある程度の硬度を持った、紙のようなものだった。
「??」
何だと顔を離すと、目の前にあったのはシノの顔ではなく、小さめのノートを入れるような、紙袋だった。
その包装には見覚えがある。木ノ葉の文房具屋の紙袋だ。
よく見れば、シノがそれを盾にするように立てていた。
「なに……それ」
唖然として問うカカシに、シノは既に掛け直したサングラスを押し上げ、答えた。
「日付が変わりました。誕生日、おめでとうございます」
と。
「……お」
カカシはまだ呆然とし、ぱちくりと目を瞬かせながら、漸くシノの意図を解した。
「憶えてくれてたの……」
頷いたのか、それともそんなに驚く事だろうかと思ったのか、シノの首が僅かに傾ぐ。
「以前聞きましたから」
聞いただけで、憶えていてくれるものだろうか。
とは思うものの、目の前に差し出されているのは紛うこと無きシノからの誕生日プレゼント。
これは、受け取るしかないだろう。
「あ…ありがとう」
カカシは素直に、有り難く受け取った。
中を開けて見ると、栞となる紐の付いた革製のブックカバー。
嬉しいのは嬉しいが、何故ブックカバーなんだろうと思っていると、見透かしたようにシノが言った。
「前々から気になっていたのですが、18禁の書籍を未成年の前に堂々と晒して読むのは少々問題があるかと」
「………あ…」
要するに、イチャパラシリーズ用のカバーなわけだ。
あはは、そうだねぇ…と、カカシは乾いた笑いを零すしかなかった。
黒い革製のブックカバーは、月明かりを受けて光沢を帯びている。
上品なそれは、しかしどこか貯水場と同じように鈍く、ぬるぬるとしているようにも見える。
ある意味、目の前に堂々と晒すより隠した方が厭らしくなるかもしれないと、カカシは思ったが黙っていた。
何にせよ、嬉しいのに違いはない。
「……なあシノ。話は変わるが」
カカシはブックカバーをイチャパラシリーズの入ったウエストポーチに仕舞いながらシノに尋ねた。
「片見月…ってしってるか?」
「カタミツキ…? 十五夜と十三夜のどちらか片方しか見ないことですか」
「あはは、流石。よく知ってる」
カカシは笑いながら、それなら話は早いと言って続けた。
「片見月は縁起が悪い。ってことで、十三夜も一緒にしような、お月見」
言いたい事はつまりそういうことだったわけだ。
そして今回の謀の最大にして最終目的も、何を隠そう、それだったのである。
題して『十五夜十三夜お月見デート大作戦!』。
馬鹿馬鹿しいにも程があるが、本人は至って大真面目だ。
ちなみに計画では、十五夜は皆を誘うことでシノを呼び出し、十三夜の二人っきりのデートにこぎつけることになっている。
シノが受けるとは到底思えないが、そこはそれ。口の上手さと実力で何とかする。
きっと難色を示してくるであろうシノの返事を待ち構えるカカシ。
だが。
「そうですね。いいですよ」
と、なんともあっさりとした返答が返ってきた。
「え…い…いいの?」
「ええ」
シノの即答に、カカシは歓喜する前に戸惑った。
どういうことだろう。これは夢?それとも天変地異の前触れか?
しかし次の瞬間、ぼそりと付け加えられたシノの言葉を聞いてはっとした。
「勿論、皆の都合が合えばですが」
「………み…みんな、って……?」
シノが不思議そうに小首を傾げる。
「皆は皆です。皆で十五夜の月見をしたのだから、十三夜の月見も皆でしなければ意味が無いでしょう」
「…………」
カカシの十五夜にかけた戦略は、こうして物の見事に崩れ去ったのであった。
「……………なんか、予想外に良いムードだってばよ…」
「……そ~かぁ?」
林の茂みから顔を覗かせたナルトが、むう、と顔を顰めながら言うと、シカマルが同じく顔を覗かせて首を捻った。
この場にいるのは、ナルト、シカマル、チョウジ、キバ、赤丸にヒナタだ。
赤丸の先導の下シノとカカシの居所を突き止めた彼等は、出歯亀をしているのである。
より詳しく述べれば、キバとナルトの出歯亀にシカマルも何だかんだ言いながら同行し、
そのシカマルが、シノの団子を前におあずけ状態になったチョウジをそのままにしておくわけにいかずに連れて来た。
ヒナタは、ナルトを止めるに止められず、反対に一緒に行こうと誘われて思わず付いてきてしまったのだ。
「ナ…ナルトくん……、や…やっぱり善くないんじゃ…」
ヒナタが、おろおろとしながらも再び止めようと試みる。だが。
「そうだぜナルト! つーか、良いムードであってたまるかっ!! さっさとぶち壊しに行こうぜ!!」
血気盛んなキバの雄叫びに、ヒナタの健気な試みも敢え無く掻き消されてしまった。
その上、何やら誤解されてしまったらしい。
勿論ヒナタはムードの善し悪しを言ったのではない。
「静かにしろよキバ! 二人に聞こえっちまうだろ!!」
「ナルトもね」
ぎゃーぎゃーと叫き返すナルトに、チョウジが言った。
「とにかく」
加えてシカマルが語気を強め、二人を黙らせる。
シカマルは二人が黙ったのを確認すると、怠いのか真剣なのか判らない顔で、極めて真面目な意見を述べた。
「邪魔するなら、相手はあのカカシ先生だ。一筋縄じゃいかねぇ。ここはしっかり作戦練って団結してかねーと、まず無理だ」
シカマルの意見に、キバとナルト、チョウジやヒナタまで真剣な面持ちになって頷く。
阿呆らしいが、当人達は至って真剣だ。
作戦を立て始めるナルトたち。
だが、作戦がまとまり役割分担も済み、いざ、というところへ、予想外の刺客が降って来た。
それはナルトの頭に着地し、「よう」と愛らしい肉球が見える手を挙げる。
「パ…パックン!」
「ワシだけじゃないぞ」
そう言われて気が付けば、ナルト達はカカシの忍犬達にいつの間にか囲まれていた。
「悪いな小僧ども。だが、お前等をこれ以上近付かせるわけにゃあいかんのだ」
「番犬ってわけか」
シカマルが苦々しげに呟く。
「カカシ先生も大人げないね」
チョウジが素朴な感想を漏らし、
「へっ! この方が燃えるっばよ!!」
パン、とナルトが拳を掌にぶつける。
そしてキバが戦闘態勢に入り、赤丸に向かって言った。
「今日は満月だ…思う存分暴れようぜ! 赤丸!」
赤丸の咆吼と共に、月影の下、深夜の攻防が開始された。
「………?」
何だか騒がしくなった気配に、シノは立ち上がった。
何が起きているのか察しがついているカカシは「何でもないよ」と言ったが、騒々しくなったのは明らかだ。
シノが貯水場を見下ろすと、林の中から何かが飛び出してきた。
「し…シノくん!」
ヒナタだ。
何かあったのだと確信するシノ。
と。
「シノ!」
唐突に声が掛かった。
顔を上げれば、木の天辺にサスケが月を背にして立っていた。
そのシルエットは、まるで絵の様に決まっている。
サスケは騒がしくなった方向を顎で示し、
「止めるぞ」
と言って消えた。
そしてシノもまた、
「わかった」
と言って消える。
「あ…え…ちょ…!」
取り残されたのはカカシだ。
サスケにシノを、実に鮮やかに、かっさらわれてしまった事になる。
情け無い。
しかもそんなカカシに、下から見上げていたヒナタが
「あ…あの、ご、ごめんなさい……」
とおろおろするものだから、余計情け無くなった。
その上騒ぎを聞きつけてやって来た紅とアスマには、怒られ呆れられ散々である。
カカシは救いを求めるような眼差しで十五夜の月を見上げて思う。
十三夜こそは―――。
全く、懲りていなかった。
一方、テラスに残ったサクラといのは、手摺りに寄り掛かりながら月を眺め、
「サスケくん、どこいったんだろー」
とぼやいていた。
微かな風が二人の髪をなびいていく。
「どころでさ、いの」
「ん? 何?」
突然話を振ってきたサクラに、いのが顔を向ける。
サクラは月を眺めたまま言った。
「月の模様って、ウサギがお餅ついてるように見えるじゃない?」
「まあ…そう言われてるわね」
見える、というか、見ようと思えば見えなくもない。
「で、それがどうしたのよ」
「ウサギで思ったんだけど、カカシ先生ってウサギっぽくない?」
「はあ…? 急に何言い出すのよ」
「だから、月のウサギで急に思ったのよ」
サクラも視線を下ろし、いのの方を向いた。
「え~、でも、カカシ先生は犬でしょう? 忍犬使いだし」
「そうだけど。でも、髪白いし」
それに…と、考え込んだサクラが、何か思い付いたらしくぽんと手を打つ。
「そうよ! ガイ先生! ほら、ガイ先生の口寄せ動物ってカメじゃない? だからカカシ先生をウサギっぽいって思ったのよ!」
ウサギとカメよ!
と、得心するサクラ。
「そうねぇ…まあ、言われてみればそうかも。でも、月のウサギはメルヘンすぎよ」
「あはは、そうね~。カカシ先生には可愛すぎか」
いのの指摘にサクラは笑うと、続けて言った。
「どっちかって言うとカカシ先生は、『屋根の上で絵に描いた餅をついてるウサギ』…って感じよね」
「あははは、何よそれ~!」
サクラの科白にいのが笑う。そして、二人の笑い声が月夜に響いた。
そよそよと吹く秋の風が、誰が持ってきたのか、敷物の上に無造作に置かれたススキを揺らす。
一粒だけ残った最後の団子が、お月様のように、その光景を見守っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
遅くなってしまいましたが、十五夜&カカシ先生誕生日企画でした!
今年の十五夜は9月14日、カカシ先生の誕生日は9月15日…これはイイ!
と、一緒くたにしてしまいました。。
カカシノ、サスシノ、そして総受け!
カカシとかサスケとか、クール系のカッコイイ人って難しいです。
で、結局クールにならないと(苦笑)
カカシ先生なんか、クールどころか惨めキャラですよ……好きなんだけどなぁ…。
サスケが良いとこ取り。
ナルト達もカカシの策略を妨害しようと奮闘しますが、何気、一番邪魔する気まんまんなのはシカマルだったりします(笑)
題名の『十五夜タクティクス』は、第2部方の『イチャイチャタクティクス』より(しかし下忍時代のお話です)。
題名がコレなので、行事企画の方に置かせてもらいました。
と、いうわけで。
夏だ夏だと浮かれはしゃいでいたら、あっという間にもう秋です。
寂しいけれど…夏の終わりは秋の始まり!
先日久々にラジオCDを聴いていましたら、竹内さんが「夏休みは終わったけど、ナルトはまだまだ熱いぜ!」
とおっしゃっていて、「そうだ!」と思わず拳を握ってしまいました(照)
でも、そうですよ。夏が終わっても、まだまだ、これからなんだ!
と自分で自分を盛り上げつつ。
なかなかアップできませんが、書きたいものはいっぱいあるので。
これからも妄想突っ走っていきたいと思います!
皆様、季節の変わり目、風邪などひかぬよう気を付けて、来る秋を満喫しましょう!
それでは最後に。
カカシ先生、ハッピーバースディ!!!
(08/9/20)