「シノ! キャッチボールすんぞ!!」
門の前に準備万端、気合充分で待っていたのは、ナルトだった。
「……………キャッチ…ボール?」
シノはあまりの唐突さに、唖然とした。



キャッチボール



陽は傾き、寒さが身に染みる時間帯。
ナルトに引っ張り出された先は河川敷だった。
「……なぜ、突然キャッチボールなのだ…」
押し付けられたグローブをしげしげと眺め遣りながら、シノは真底不思議そうに呟いた。
その呟きに、若干距離を取った所でウキウキとグローブをはめ、ボールを弄っていたナルトが、意気揚々と応える。
「さっきキャッチボールしてるゲジマユとガイ先生に会ってさ! そんでなんか良いなぁ、と思って。俺もやりたくなったんだ!」
「………それで、なぜ俺が駆り出される……」
「キャッチボールすると、絆が深まるんだってよ。友達とか、父ちゃんとかとやるんだろ? だからだってばよ!」
シノはその答えに口を噤んだ。
友達だと思ってもらえるのは嬉しいが、それで自分が熱血青春物語に巻き込まれるのは些か腑に落ちない。
「…………イルカ先生とすればいいだろう」
あの先生ならばナルトにとっては父親に近い存在であろうし、キャッチボールをするのも似合っている。
そう思いながらシノが言えば、ナルトは口を尖らせて、
「忙しいみたいで、また今度って追い返された……」
と不満そうに応えた。
どうやら、シノに当たる前に掛け合っていたらしい。
その返答に、成る程自分はイルカ先生の次だったかと納得したシノだったが、また別の事にわだかまりを覚えた。
しかし、今度はそれがなんなのかよく分からない。
ふと、それにしてもあの熱血師弟は、あれ以上絆を深めてどうするつもりなのか。
と言う素朴な疑問が浮かぶと、そのわだかまりはすぐ消えてしまった。
「あ~!! もう、いいから! 大人しく相手しろってばよ!」
難色を示すシノに、ナルトがしびれを切らせてビシッと指を指し、怒鳴る。
「…………仕方ない…」
シノはナルトの台詞に小さく溜め息を吐き、呟いて、大人しくグローブをはめた。
その様子にナルトは満足げな表情を浮かべると、自分もボールを放って軽く慣らす。
そして、「んじゃ、いっくぞぉ~!!!」と高らかに宣言してから、大きく振りかぶり、オリャアァァ!! という気合いを込めて全力投球を放った。
「!?」
いきなりの剛速球に、流石のシノも対処しきれず、ボールはバシッという音と共にグローブを弾いて後ろへと流れる。
「………」
放物線を描いて河川へと落ちていくボール。
シノは振り返りその軌道を追いながら、水の中に落ちる前に蟲を放ってボールを回収した。
「ヘッタクソだなぁ!! ちゃんと取れってばよ!」
そうゲラゲラと笑うナルトにムッとして、シノが振り向き様に言い返す。
「…………お前、本当にキャッチボールをする気があるのか?」
その声にナルトはピタリと笑うのを止めて、今度はきょとんとして不思議そうに言った。
「何言ってんだよ。あるに決まってんだろ?」
「…………」
シノは、一瞬身動きを止めて、ナルトを凝視した。
そして考えを巡らせてから、落ち着いて、静かに、説く。
「ナルト……。キャッチボールというものは、相手が取りやすく投げるものだ。相手を思い遣る…だからキャッチボールは絆を深めると言われる」
「へ? そうなのか? でもさっき、ガイ先生とゲジマユはこんな感じでやってたぞ??」
「………」
ナルトの言葉に、シノは目眩を覚えた。
「たぶん…………それは、例外だ。参考にはならない」
「…ふ~ん……?」
「…………ナルト」
まだ不思議そうに首を捻るナルトを見て、シノは、これは実際にやって教えるしかないと、ナルトを呼んで自分に意識を向けさせた。
そうしてから、軽くパスをする感じでナルトの方へボールを放ると、ナルトがその緩やかなボールを胸元で難なくキャッチする。
「……この程度でいい」
「え…? 今みたいなのでいいのか!?」
「そうだ」
頷くシノにビックリしたように目を瞠り、グローブに吸い込まれたボールを見つめるナルト。
暫く、そうしてボールを凝視していたナルトだったが、不意にう~んと唸った。
「…………なんか、つまんなそうだってばよ…」
「……それは……」
ナルトのぼやきにシノは言い掛けたが、すぐに噤み、言葉を選んでから、再び口を開いた。
「やってみれば解る」
「ん~………。ま、そうだな!」
まだよくわからないが、シノの言葉にやる気を取り戻して、ナルトはボールを手に握った。
そして、今度はそう気張らずに軽く投げてみると、ボールは簡単にシノのグローブに収まる。
そんなこんなで、漸く落ち着いたキャッチボールが開始された。


投げられ、取り、投げる。
ただ、それを繰り返す。


「お前、キャッチボール詳しいみたいだけど、したことあんのか?」
投げる時に、なんとなく、他愛もない事が口から漏れた。
「…否……。知ってはいたが、やるのは、初めてだ」
こちらも、投げ返す際に答えた。
「そっか」
ボールを受け取り、手に持ち直して、投げる時に言う。
今度はシノは何も言わずに返してきたが、手元にボールが戻ってきた時、またナルトは言った。
「俺も、初めてだってばよ」


パンッ。


「……そうか」


パンッ。


「おんなじだな!」


パンッ。


「……ああ」


パンッ。


「なんか、楽しくなってきたっ」


パンッ。


「ああ」


パンッ。


「お前も?」


パンッ。


「………ああ…」


パンッと、シノからのボールをグローブで受け止めると、ナルトは嬉しそうににかっと笑った。


「おんなじだなっ!」


既に陽は暮れ、河川敷は早くも夕陽に染まっている。
笑ったナルトの顔も、茜色に染まってた。






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あとがき
の秋企画第5弾は、ナルシノ青春物語になりました…。
思った以上の青臭さに、正直ビックリです(笑)
テーマは「スポーツの秋」。
ナルトは、きっとこういうガイやリーみたいなのに憧れを持っていそうな…。
そしてシノは、行き過ぎだとは思いつつも良い事だと思っていて、
実際やるには若干の抵抗を持ちつつも、嫌いじゃないんだろうな…。
という考察をしてみました。
シノ→ナルトのようですが、ナルシノです! ナルシノと言い張ります!
だってここはシノ受けサイト♪

キャッチボールは、ただボールの往復ではなくて、言葉のキャッチボール。
そして心のキャッチボールです。
このサイトも、皆様とのキャッチボールにればいいな…
等と思ってみたりしております……です。












(07/12/6)