はらはらと舞い落ちるイチョウの葉。
星が降るようだと、カカシは心の中で呟いた。


星の王子さま


「…………」
シノはイチョウの木にもたれて虫の生態について書かれた本を開いていたのだが、ずっと感じる視線が気になって最早読んではいなかった。
あちらはただ少し離れた所からこちらを見ているだけなので、気にしないようにしようともしたが、遠慮無く注がれる視線に落ち着かない。
このままでは、いつまで経っても集中して本が読めない。
それでついに、シノは顔を上げて言った。
「………先程から、何をしているんですか。カカシ先生」
少し離れているので、少しだけ声を大きくして問う。
するとカカシは、一瞬間をおいた後、にこりとして応えた。
「シノ君を眺めてるんだよ」
「………それは、判っています。何故、俺なんかを眺めているんですか」
「ん~…」
明白なカカシの応えにシノが問い直すと、カカシはゆっくりとした動作で顎に手を当てて首を傾げる。
そしてふと姿を消したかと思えば、シノの眼前に屈み込んでいた。
「正確にはね、見取れてたんだ」
眉を寄せるシノの顔を覗き込みながら、微笑み、続ける。
「イチョウの黄色い落葉が、星が降る様で。そしてその下に、星の王子さまがいたものだから」
「…………」
シノは、どう返事をしたものか、平素の顔の下で悩んだ。
カカシの言う「星の王子様」とは自分のことであろうが、ここはしっかり否定しておくべきなのか、
それともそのメルヘンチックで幸せなイメージをそっとしておいてあげるべきなのか…。
「……………随分と、詩的な事を言うんですね……意外です」
なんとか均衡を保つ言葉を掘り出して、シノは慎重に言った。
するとカカシは、そう?と嬉しそうにして、
「俺はいつも文学作品を読んでいるからね」
と自慢げに言う。
「文学作品………」
シノは、それがカカシがいつも所持している本のことだと気付いたが、あれは『文学作品』と言えるのだろうかと思った。
勿論読んだ事はないのだが、その装丁や、失礼ながら著者を見たところに拠ると、『文学作品』とは到底思えない。
そもそも、題名からしていかがわしい。
しかし聞くところ評判は良いし人気も高いらしいので、まあ読んだ事もないのに評価するのは控えておこうという結論に達した。
シノがそんな事を考えていると、カカシがシノの持つ本を覗き込んで、苦笑を浮かべる。
「またこんな真面目なもの読んじゃって。読書の秋って言うでしょ? もっと文学的なものも読まなくちゃ」
そう言いながら、カカシはひらひらと落ちてきた黄色い星を空中でひょいと掴み、それを栞代わりにシノの持つ本に挟んで勝手にパタンと閉じてしまった。
サングラスの奥から睨むシノに笑顔を返す。
「学術書じゃない読書も大事だよ? 一番肝心なことは、目では見えない。心で見るものだから。
その訓練の為にも、読書は必要だよ。……特に君の場合、もっと想像力をもたなくちゃ」
「…………」
カカシの言う事もあながち間違ってはいない。そのくらい、シノにも判る。
けれど何か納得いかなくて、少し考えてからシノはカカシに尋ねた。
「………『目は心の窓』という表現があります。この場合、『目で見ること』と『心で見ること』は同じことではありませんか?」

「……………」
「……………」

カカシは微笑みを顔に貼り付けたまま暫く沈黙し、そして、徐に言った。
「………君は、文学少年にはなれなそうだね…」





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あとがき
の秋企画第4弾、カカシノでした。
テーマは「読書の秋」。
イチョウの葉の落ちる様は、本当に星が降るみたいで綺麗ですよね。
振ってくる葉をキャッチしようと試みるもなかなか難しくて、きっとカカシ先生なら(忍なら)
簡単に掴まえられるんだろうなぁ…としみじみ思ったり…。
そして、シノはきっと文学少年ではないだろうと。理系っぽいし。
国語も英語も得意そうではあるけれど、理屈の無い詩とかは理解できなそう…。
逆にウチのカカシ先生は、ロマンチストでメルヘン思考です(笑)












(07/12/5)