ふとした拍子に、視界の下でぶつかった手。
驚いて思わず引こうとしたけれど。
指の先は、触れたまま……。
掌
「…………」
さわりと、最近急に冷たくなった風が吹く。
懐の赤丸がふるりと震えて顎の下をくすぐった。
赤丸の体温がじんわりと胸に染みて、頬も冷たい風に対抗してか仄かな熱を持つ。
冷たいのは、シノの指の先に触れた、俺の指先だけ。
どうしてこんなに冷たいのか。
手が冷たい奴は心があったかいとか言うが、俺は基本的に手は温かい方だから信じていない。
俺の心は冷たくなんてないから。
理由は知らないが、とにかく冷たいシノの指先。
握り締めてやろうかと、思う。
………でもそんなことはできなくて。
だから、ただ。
ただ、この触れた指先から俺の熱が伝わればいいなと…。
そんな小心な自分が口惜しくて、腹が立つ。
なのに、指の先っぽに触れる冷たいシノの温もりに幸せを感じてる俺はバカか……。
「…………」
かさりと、風に吹かれた落ち葉が鳴る。
冷たい秋風に身体の中の蟲達がざわりとうねり、奥へ引っ込んだ。
変温動物の蟲達に熱を譲るため、微かに宿った熱もすぐに失う。
温かいのは、キバの指先に触れた、指先だけ。
どうしてこんなに温かいのか。
恒温動物は温かいものだが、此奴の手は火傷するかと思う程熱い。
それなのに離さない俺も俺だが。
ともかく、温かなキバの指先。
熱を奪ってしまう前に離さなければと、思う。
………だがそれができない。
そんな愚かしい自分が虚しい。
それでも、指の先端に触れる温かなキバの温もりに幸福を感じているのは、
蟲達なのか、自分なのか……。
「………」
「………」
いつしか温度差がなくなって、接点が一体化し繋がっていく。
二人は互いの熱を求め合うように。
そっぽを向いたまま、どちらともなくゆっくり、そっと。
掌を合わせていた…。
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あとがき
11月も終わり冬寸前の秋企画。
夏の時もそうでしたが、色々出遅れ後出しで申し訳ない…。
しかし、強引に強行致します(笑)
第一弾は、一応「ロマンスの秋」…っぽいものを……。
ロマンスとは、恋愛物語・恋愛譚のことらしいので、ロマンチックでなくても大丈夫ですよね…? 多分…。
これは、新たにリンクを貼らせていただいたシノキバサイト様に触発され、書かせてもらったものです。
基本的に、私の中のキバのイメージは『夏男』。
とにかく明るく煩い(元気)なイメージしかなかったのですが、そこで見たキバに衝撃を受けました。
静かな葛藤を抱く切ない恋心。
なんというか、ガイリー師弟のような爆発する青春ではない、『青春』をするキバとシノが居て……。
奥手なキバも素敵だ…!と一目惚れです。新天地でした。
そんなわけで、掌。
握ったり、絡めたり、そこまではできなくて。
ただ、掌と掌を合わせるだけ…。
…………いかがでしたでしょうか……?(汗)
話は変わりますが、虫って冬眠するんですよね。
犬は恒温動物。虫は変温動物。
……寄壊虫、冬は活動出来るんだろうかと、そんな事を考えた私。
そして。
大蛇丸は冬眠しないのだろうかと、そんな事を考えた私…。
…………私も冬眠したいです……。
(07/12/1)