この世に生を受けると同時に蟲を宿され
忍として生きる運命を与えられた
この 身体に…


シノは布団の上で体を起こすと、寝間着の胸倉を握り締めた。
蟲の気配がする。
油女の血を受け継ぎし巣の中で、蠢く蟲達。
シノは目を閉じると、静かに立ち上がった。
障子戸を開ければ冷たい空気に晒される。
陽はまだ昇っていないが、日は始まっているようだ。
「   」
シノは目覚めたばかりの朝の空気を吸い込んで、白い息を吐き出した。




       Loving life




「オレは、たんじょうびいわいのしなはもらわないしゅぎだ」
そう、シノが言い切ったのはかれこれ7,8年前。アカデミーに入学する前のことだった。
そんな年端もいかない少年に、そう言い切られたのは山中いのいち。
シノの同期、山中いのの父親で、子煩悩で有名だが何故か昔からシノの事も可愛がってくれている。
初対面の記憶は無いが、物心付いた頃にはいのいちは既にシノの中で『自分の次の日が誕生日の、面白くて優しいおじさん』と認識されていた。
そして毎年、いのいちはシノに誕生日プレゼントをくれた。
それはクマの縫いぐるみであったり蜂の着ぐるみだったり、この人は自分に何を求めているのだろうと思い悩んだこともあったが、
いのいちに悪い印象は無く、可愛がってくれ過ぎるところを除いては基本的には好きだった。
もらったサボテンもいまだ大事に育てているし、毎年シノからも誕生日プレゼントを渡している。
しかし。
いつも嬉しそうにプレゼントをくれるいのいちに申し訳なく、黙っていたのだが、シノは誕生日プレゼントはもらわない主義だった。
そしてある年、そのことを思い切って打ち明けたのである。
「…………え…?」
いのいちは驚いたようだった。驚いて、狼狽える。

何で? どうして? シノちゃん、ゴメンね、でもオジサン、30年生きてきてそんな主義主張は初めて聞いたよ……。

小さなシノの前に身を屈め、困ったように眉根を寄せて首を傾げる。
そんないのいちに、シノも寄った眉を更に寄せてちょっと俯いた。そうしてぎゅっ、と胸座を握り締める。
シノのそんな様子にいのいちは、ふっ、とシビと交わした会話を思い出した。
互いに子どもが生まれて間もなく。
ウチのいのがそれはそれはもう可愛くて…と、シビを掴まえて惚気話を延々聞かせていた時の事。
でも女の子だから忍はなぁ…と呟いたいのいちに、シビが「それは本人が決める事だ」と呟いた。
「……じゃあ…シノちゃんは」
返事を予想しながらも敢えて問えば、シビは「ちゃんは止せ」と言って眉間の皺を深めた。
そして「意地が悪い…」と悪態を吐く。
それから暫くいのいちもシビも黙ったが、不意に、シビは言った。


「……シノには、受け入れてもらわなければならない」


受け入れて――いるのかいないのか。
君は……


「………」
伏せていた顔をシノが上げる。
その眼差しは迷い無く、そして告げられた言葉も淀みなかった。


「…なぜなら、うまれたときにこれいじょうないおくりものをもらっているからだ」

忍として生きる運命と
忍として生きるための最高の 蟲(とも)を―――。



「………君は…」
いのいちは微笑った。微笑って、そっと、シノを抱き締めた。
「本当にいい子だな」
「………」
「でも、言葉くらいなら、いいだろう?」
いのいちはシノから体を離すと、その小さな眉の寄った顔を覗き込んだ。

「誕生日、おめでとう。シノちゃん――」

最後の言葉に眉間の皺がちょっと深められた事は、気付かなかった事にした。









―――でもね、シノちゃん


抱擁と祝いの言葉をくれたいのちは、最後に言った。


―――きっといつか、君はその主義を貫けなくなるよ


微笑って言われたいのいちの言葉は、その時のシノにはよく解らなかった。
だが。

冷たい朝の空気の中、感じる蟲の気配の中に、近しくなった者達の気が入り込んでくる。
震えながらも芯の強いもの。
動き回る忙しのないもの。
そしてその動に付き従う人ではない、仲間―――。


命と共に与えられた、これ以上ない贈り物。
けれどきっと、いつか。
それ以上の贈り物を、この手に受け入れる日がくるのだろうか―――。






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あとがき
シノ!! ハッピーバースデーっ!!!
今回は絵に四苦八苦しすぎて文章が短くなってしまったけれど、愛の深さは進行形!
蟲使い油女一族の末裔、そして跡継ぎとして生まれた油女シノ。
その生い立ちの中で迷い悩み……というのもそれはそれで好きですが、
幼い頃、物心ついた頃から既に心構えができてる…ってのもシノらしいと思います。。
なので今回、シノは本当に良い子。良くできた子ですvv

そして、いのいちさんも誕生日おめでとう!!
いのいちさんのシノ贔屓。この理由を妄想した結果、私の中にはうっすらと「いのいちはシノの叔父or伯父
という裏設定…というより陰設定があったりします。つまり、シノといのはいとこ同士。
いのいちさんの姉か妹がシノの母親で、しかも既に他界していて、シノはその忘れ形見……とか。
いや、これはオリジナル設定とまでもいかないただの妄想なんですが。
取り敢えず私的にいのいちさんがシノを見る目は、親のそれに近いものと考えて楽しんでおりますw

では、お読み下さりありがとうございました!
今あるものは大事です。
けれどこれから出会い、触れ、贈り贈られるものもきっと大切なもの。
だから一つのものに固執せず、色々なものをその手いっぱいにあふれさせてほしいです…!












(10/1/23)