ひらり
舞い落ちてきた黄色い葉に、足を止める。
さわりと吹いた風が、葉と同じ色の髪を微かに揺らした。


木の葉と砂時計


風に吹かれたイチョウの葉を目で追ったナルトは、その先に見知った人物を見つけた。
にっ、と口角を上げると、足下を彩る紅葉落ち葉の上を、久しぶりのその人物目掛けて駆け出した。
「シノ!」
名を叫べば、その人物…油女シノは相変わらずの無表情でナルトを振り向いた。
「シノってばシノってばシノってばシノ!!」
「…………名を呼ぶなら一度でいい。なぜなら、それほど連呼しなくとも、ちゃんと一度で聞こえているからだ」
「あ~もう、いちいちうるせーんだってばよ! いいんだって、んなこたぁ!」
「良くはない。なぜなら…」
「だ~! もう! わかったから! さっさと…」
ナルト
有無を言わさぬ威圧感でずいと顔を寄せてきたシノに、ナルトはぐっと言葉を押し戻された。
ようやく大人しくなったナルトに、シノはそのまま、無言で封筒を差し出した。
白い蝶々が舞う、菜の花色の封筒。
ナルトはぱっと顔を輝かせて飛びつくようにそれを受け取ると、できるだけ慎重に封を開けた。
『ナルトへ』と始まる中身は、女優・富士風雪絵にして雪の国の君主、風花小雪からの手紙だ。
今回、特別任務を受けて、シノは雪の国へ行っていたのである。
「……姉ちゃん、元気そーだな」
手紙を読み、へへ、とナルトが笑う。
そんなナルトに、シノは「それから…」と言って他にも手紙やら何やらをゴソリと取り出した。
「なに…?」と受け取ったナルトは、それらを見て破願する。
「はは、すっげー! タズナのおっちゃんにイナリ、ヒカルに…イダテ、次郎長親分まで…!?
何だってばよこれ! お前雪の国行ってたんじゃねーの?!」
「他にも色々回らなければならなかったのだ。……そうしたら、波の国、月の国、茶の国…行く先々で木ノ葉と言ったら
『お前に渡してほしい』と託された。一体、お前は他国で何をしてきたんだ」
「そりゃこっちのセリフだってば。お前こそ、どこまで行ってんだよ」
喜々として手紙や土産物を開けながらも、ナルトが言う。
それもそうだ。
シノは確かに半年近く里に居なかったが、それでもそんな諸国を回るとなるとかなりのハードスケジュールに違いない。
しかしシノは「任務に関する事は話せない」とだけ言い、更に「砂の国の近くで、キャラバンにも遭った」と告げた。
テムジンに愛しいフェレット、ネルグイちゃんを連れて行かれてしまった、カヒコ老人のキャラバンである。
「マジで!? じーさん、元気だったか!?」
「ああ……些か、元気すぎる程」
そのシノの応えに、ナルトが爆笑する。
「それから…」
「まだ何かあんのか?」
「これで最後だ」
そう言って、シノが差し出したのは茶色い紙袋だった。

「風影からだ」

風が吹き、足下の砂塵と木の葉を舞い上げた。
「……我愛羅…」
ナルトは、噛み締めるように風影の名を呟いた。
目を細め、感慨に耽るように、静かに微笑む。
うん、と気合いを入れ直して開けた紙袋の中には、手紙と、箱が入っていた。
手紙を読む限り、我愛羅も元気でやっているらしい。
そのことに益々目を細めつつ、ナルトは箱の方も取りだした。
片手に乗る程度の、長方形の箱。
「それは…」
ナルトが箱を開けるのと同時に、シノが言った。
「お前への、誕生日プレゼントだそうだ」
中から出てきたのは―――砂時計だった。
さらさらとした砂が、ガラス細工の中で零れる。

ナルトが視線を上げると、シノは相変わらずの無表情でナルトを見ていた。
そんなシノに、ナルトは笑ってみせた。
笑って、心の底からの言葉を。
「シノ。サンキューな!」
言うと、シノはやっぱり表情を変えないまま、「礼には及ばない。……ついでだ」と言って踵を返した。
昔なら、愛想の無い奴だとムカついたかもしれない態度だが、今ならわかる。
照れているのだ。
笑顔を苦笑に変え、ナルトは「シノ!」と一度呼んだ。
一度呼べば、聞こえる。
ナルトは、溢れる友人たちからの贈り物を落とさぬようにしながら、雪絵からの封筒を取り出し、わたわたと二枚の紙を抜き出した。
そしてそれを頭上に掲げ、叫ぶ。
「今度、一緒に観にいこーぜ!!」
それは、富士風雪絵最新作、映画『風雲姫~疾風ノ巻~』の観覧券だった。


風に舞う木の葉がひらひらと土に還り
砂時計の時がゆっくりと紡がれてゆく


シノは、やっぱり無表情のまま、それでも一つ頷きを残して、消えていった。






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あとがき
ナルト、誕生日おめでとうっ!
それから……映画やアニメを見ていない方、ごめんなさい。
ナルトへのプレゼントって考えたら、ラーメンと、こういった『人とのつながり』しか思い付かなかったのです……。
そして、『者の書』でシノの任務回数が何気キバより少ない事を知って
「……きっと特別任務が多いんだ」と自分を納得させるような私にかかったら、こんな感じになってしまいました(笑)
私の中で、特別任務=長期・遠征任務なので。
他にも、ナルトには取り敢えず「シノ」と連呼してもらいたかったり。
アニメで木の葉11人が全員集合したゲンノウの事件の時、一楽で愚痴るナルトが
「他にもいっぱいうるさい奴いるからな……シノだろ、いのだろ、キバにカカシ先生……」と言うのを聞いて
(シノが最初に出てくるんだ…)と思ったもので。
ナルトにとってうるさいシノってのをちょっと書いてみたり。
(彼の場合、「うるさい」というより「しつこい」とか「くどい」って感じでしょうね(笑))
この話の時期がいつかと問われると困りもので……まあ一応中忍設定です。
トップ絵のせいで下忍と思われたかもしれませんが。
キバは夏のイメージですが、ナルトは秋っぽいです。
それはもちろん……紅葉色だから!
と、鮮やかな中にそこはかとなく寂しさが感じられるからでしょうか。
まあ、それはともかく。
うずまきナルトの誕生を祝して。
HAPPY BIRTHDAY! NARUTO!!


ちなみに、『者の書』の感想的何かはいずれ書く予定です。
タイミングをハズすのは……十八番ですから(爽笑)












(08/10/10)