9月の花畑より


さわさわと、花々がそよぐ。
陽気はぽかぽかとしているが、風は僅か冷たさをはらんでいる。
そんな9月の花畑で、いのは花に囲まれていた。
「いの…」
「ん? なぁに、シノ」
何故こんなところにいるのかと言えば、誰あろう、シノに誘われたからだ。
どういうつもりか知らないが、なにか面白そうだったのでついてきたのだ。
呼ばれて、いのは華やかな表情で振り返った。
すると。

フワリ。

頭に、何かが乗せられた。
「何…?」
見れば、花冠。
「いの…誕生日おめでとう」
シノが、無表情で祝いの言葉を述べた。
いのはきょとんとした。
そして、シノが自分の誕生日を祝ってくれているのだとわかると、思わず笑い出してしまった。
「………何が可笑しい…」
ちょっと傷付いたようなシノの声に、いのはごめんごめん、と涙目を擦りながら謝る。
「でもさ。アンタがあんまり似合わない事するもんだから」
「…………似合わないか…」
「ってゆーか、アンタって見掛けに寄らず子どもっぽいのね~」
子どもっぽい…?と小首を傾げるシノ。
いのは花冠を被り、そんなシノに歩み寄ると、にやにやしながら言った。
「でもねぇシノ。おしいわ」
「おしい……とは」
「いい? ムードはまあまあとしても、その素っ気なさと無表情はNGよ。こう…もっと心を込めないと」
「心は込めているつもりだ」
「それが伝わらないのよ、勿体無い…。演技でもいいから、私をトキメかせるつもりできなさい!」
そう言うと、いのは再び背を向けてしゃがみこんだ。
とは言っても…と、シノはいのをじっと見つめる。
花冠は、いのの頭を飾っているのだ。
どうしたものかと考えた末、シノは足下にある小さな花を、摘ませてもらった。
そして……。
「いの…」
再チャレンジ。
シノは、振り返ったいのの、耳元の髪を片手ですくい上げ、摘んだ花を挿した。
そして、囁いた。
心を込めて。
それが伝わるように。


       *


これでどうだ、と顔を離すと、何故かいのの頬がほんのりと赤くなっていた。
しかし、何も言ってくれない。
「…………ダメか…?」
シノはダメだったのかと、眉を寄せて問うた。
いのははっとしたように目を見開いて、それから、くしゃりと笑ってみせ、
「ま…まあ、合格ってことにしといてあげるわ!」
と言った。

うららかな9月の花畑より、愛を込めて。

Happy Birthday…Ino.












(08/9/23)