※懲りずに夜のテンションです。カンクロウ誕と鹿の午後と若干のリンク有り。




薄暗い中、ぼんやりと浮かび上がる短針と長針が同時に重なり0時を指す。
その時をぼんやりと眺めていたシカマルは、徐に首を傾げた。
「シノ…」
小さく呼べば、疲労と余韻にぐったりとして肩口に凭れていた頭が持ち上がり、夢現を彷徨う瞳が向けられる。
その視線をひたと受け止めたシカマルは、そっと手を伸ばしてシノの乱れた髪を掬い上げ、ほんのりと熱を帯びた柔らかな耳と頬を包み込んだ。
シノがゆっくりと目を閉じる。
何も、告げる必要はない。
触れ合い、重なる唇に、言葉は要らなかった。



砂漠のバラと白いシカ



カーテンの隙間から射し込んできた朝陽が、シカマルの顔を細長く照らす。
シカマルは、その眩しい光に顔を顰めた。
のそりと起き上がると半眼のまま暫くぼ~っとし、隣の人物がもぞもぞと起き出して漸く頭も覚醒を始める。
起き出した隣の人物は数度目を擦っただけで完全に目覚めたらしく、先に起きたシカマルよりも早く着替えだした。
「…………」
そんな様子を横目に見て、シカマルもベッドから起き出して机の方へ向かう。
「シノ」
「ん?」
ベッドの上にぺたんと座り袖に腕を通していたシノが、着ながらシカマルを見遣る。
シカマルは、机上に置いていた包みを手に取って、再びシノの下へ戻った。
「これ、いのとチョウジから」
無造作に差し出された包みを、シノは小首を傾げてそれを受け取った。
開けてみれば、蝶の刺繍が施されたヘアーバンド。
実はリバーシブルになっており、裏返すと此方側には蜘蛛の巣のような模様が刺繍されていた。
「お前に直接渡すより、俺に渡した方が速いってよ」
しげしげと物珍しげにいのとチョウジからのプレゼントを眺めるシノに、シカマルがめんどくさそうに言う。
「……なるほど」
シカマルの説明に、何故か妙に納得した感じでシノが顔を上げた。
そんなシノに小さく溜め息を吐き、シカマルはもう一つ、小さなプレゼントを渡すか渡すまいか思案した後仕方ないとそれも差し出す。
「あとこれ。カンクロウから」
「カンクロウ……?」
「この前砂に行った時、お前の誕生日聞かれて答えたら、これ渡してくれって。カーネーションの礼だろ、多分」
「…ああ……」
もう一つ得心したシノは、両手で包んで隠せる程小さな正方形のそれを受け取って、包みを開ける。
すると、出てきたのはプラスチックのケースに収まった、小さな白いバラが現れた。
「なんだ、それ」
「砂漠のバラだ」
覗き込んだシカマルが訝しげに問うと、シノがシカマルの方から見える様に、持ち直しながら答える。
確かに、その小さなバラの前にちょこんと付いているちっちゃいネームプレートには、そう書いてあった。
「砂漠のバラ…? 花なのか?」
「否。鉱石だ」
「お前知ってんの?」
「少しな。硫酸塩鉱物だ。水に溶けていた化合物が蒸発の際に析出し、結晶となる。
ざらざらしているのは、砂が取り込まれているから。現物を見るのは初めてだが…」
再び自分の方に向けよくよく見入るシノを見て、やけに食い付きがいいじゃねぇかと、シカマルは口をへの字に曲げた。
やはり渡さなければ良かったと後悔したのだが、それも束の間ふとシノが
「それにしても、彼奴は意外とマメなのだな」
とカンクロウに対する感想を心底から呟いたため、思わず吹き出してしまった。
「確かに」
クックと苦笑しながら強く賛同する。
シノはそんなシカマルを平素の顔で、だが何気に砂漠のバラ以上に食い入って、じっと眺めていた。
そんな視線に気付いてはたと苦笑を収めたシカマルは、気まずそうな顔をシノに向けた。

「……なんだよ…」
「………否。楽しそうだなと思って」
「…………」
「…………」
なんとも奇妙な空気が二人の間に流れ、沈黙する。だが、こんな風な事は偶にあるのだ。
シカマルはかしかしと頭を掻いてから、ああそうか、とてきとうに流して
「それはそうと…」
と話題を切り替えた。
「俺からのプレゼントなんだけど」
「……お前からもあるのか?」
「何意外そうな顔してんだよ」
「………いや…」
本当に予期していなかったらしいシノの様子に、自分はそんなに薄情な奴だと思われているのかと、シカマルは眉を寄せた。
だが、それにしてもシノの様子はおかしい。
恥じ入っているというか、何考えてたんだ自分は…というような……。
そんな様子を今度はシカマルが無遠慮にじっと眺めていると、突然ピンときた。

「お前、まさか……」
ぐっと顔を寄せるシカマルに、シノがビクリとして逃げる様に上体を反らす。
シカマルはそれを逃がすまいと更に身を乗り出し、そのままシノを押し倒して覆い被さった。
そして珍しく動揺した様子のシノを見下ろしながら、口の端を上げる。

「『俺』がプレゼントだとでも、思ってたのか?」
「っ――――」
ん?と不敵な笑みを浮かべ、悪戯に顎を下からなぞり上げれば、シノは顔を真っ赤にして息を詰めた。
「そ……そんなことは…!」
「別に、俺はそれでもいいんだけど…?」
なんとか言い返そうとしたシノだったが、ペースは完全にシカマルのもので、再び口を噤む。
恨めしげなシノの眼差しに笑みを深めつつも、これ以上遊ぶとこっちの身が危ないなと考えて、シカマルは早々に身を退いた。
上から退いたシカマルを、睨み付けたままシノも起き上がって座り直す。
「ま、ともかく、それはそれ。これはこれ。プレゼントは別にあんだ」
「…………」
ぶすっとしてまだ機嫌を損ねているシノにかまわず、シカマルは話の路線をさらりと戻して言った。
「お前昔、鹿見せろっつってたろ」
「………それはもう、見せて貰った」
「普通の鹿はな。実は、別のとこに白い鹿がいるんだ」
「白い鹿……?」
「おぅ。ちょっと体が弱くて、今まで見せられなかったんだが、もう大丈夫になったらしいから」
どうやら上手い事興味を引けたようで、シノは不機嫌を忘れて「しろいしか………」と考え込んでいる。
「データも見せてやるよ。行くだろ?」
「うむ」
シカマルが追加して言えば、即答が返される。
シカマルは苦笑を浮かべて、念のために言った。
「でも、まずは朝飯な」








おまけ

朝食を終え、早速出掛けようとするシノを捕まえたのは、シカクであった。
一足先に玄関へ向かったシカマルの姿が見えなくなるのを見計らって、シノがこっそり渡されたのは、
ピンクのフリフリリボンで髪を結われた、シカマルの幼い頃の写真。
幼いいのも一緒に映っていることから、どうやらいのの仕業らしいことが判る。
「シカマルには、秘密だぞ」
囁かれた言葉に、シノは一度シカクの顔を見たが、何も言わずにこくりと頷いた。
それを見て、上出来だとシカクがシノの頭をくしゃりと撫でる。
「おいシノ、何やってんだぁ。行くぞ~」

玄関から、何も知らないシカマルの声が聞こえてきた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき
シノ誕シカシノヴァージョン! 相も変わらずバカップルです(笑)
何気にカンシノも挿入。「砂漠のバラ」の宝石言葉は『愛と知性』だったり。
しかし、カンクロウも知らずに用意したのでしょう。シノも流石に知らないはず。
まあ何にせよ。
薔薇にしても写真にしても、シカマルにとっては知らぬが仏です(鬼)
裏を読まれた方でも多分気付かれなかったと思いますが、いの作リボン付シカマルは、姫始め2に出て参ります。
……細々つなげてしまって申し訳ないですが、一貫した関係性を持たせたがる性分なもので…。
さて、それはそれとして。
シカマルとシノには、最早言葉は必要ありません……!
「誕生日おめでとう」なんて言わずとも、心で通じ合うのです!












(08/1/23)