※アニメのパックン初登場シーンを拝借しております。御了承ください。そして被害者はシカマル。





     福笑い



ぶらぶら散歩している最中、昔ながらの玩具屋の前にいる人物を見つけて、シカマルは足を止めた。
玩具屋にはいまだにカルタや双六、独楽や羽子板など正月気分の物が店頭に並べられており、シノは小さな凧を手に眺めていた。
「よぉ、シノ。………何やってんだ?」
「…………凧を見ている…」
「………そりゃあ、見ればわかんだけど……。お前、凧なんて興味あんのか?」
シノの珍回答に、シカマルが質問の仕方を変えて問い直せば、シノは漸くシカマルの意図を解したらしい。
「ああ…。誕生日の贈物を探していてな」
「誕生日? そういや、今日お前の誕生日だったな……って、ん…? お前、自分の誕生日に誕生日プレゼント探してんのか?……まさか自分の…」
「違う」
シカマルの言葉を先読みし、シノが僅かに語調を強めて否定した。
そうだよな…とシカマルが曖昧に笑って誤魔化すと、シノはミニ凧を元有った場所に戻して事情を語った。
それにより、シノが探しているのは山中いのいちへの贈り物だということが判明した。
いのの父親いのいちは、どういうわけか知らないが幼い頃からシノに良くしてくれるらしい。
そして誕生日が、シノが1月23日、いのいちが24日と一日違いなため、いつ頃からか互いにプレゼントを用意して交換するようになったのだと言う。
「昨年は、植物様の防虫剤を贈ったのだが」
「防虫剤…? 殺虫剤じゃなくて?」
「…………俺は、殺虫剤は好かん……」
「………あぁ、そうか…」
思わず口をついて出てしまった問いに、シカマルは失言だったなとまた曖昧な笑みを浮かべた。
一瞬感じた殺気は……まあ…気付かなかったことにしようと、冷や汗を拭う。
「………で、いのの親父さんへのプレゼントを探してたってわけだよな」
「ああ……矢張り、もっと実用的な物が良いと思うのだが…」
話題を戻すと、シノは何事もなかったかのように焼き物の方へと目を移した。
シカマルが密かにほっと息をついた、ちょうどその時。
「ぅおっ?!?」
突然、頭に何かが突っ込んで来た。
何だと思えば、「ん」という声らしき音が聞こえてきた。
「???」
頭の上の出来事で、一体何がどうなっているのか確認したくともできないシカマルは、とにかくシノの対応を期待して見た。
シノは、ちょっと驚いたようにシカマルの頭を見ていたが、再び「ん」という音がしたかと思うと不意にシカマルの頭上へ手を伸ばす。
シカマルの視界から一度はみだし、再び見えた時には、なんと真っ赤な薔薇を一本手に持っていた。
「ふぅ。これでようやくしゃべれるわい……」
次に聞こえてきたのは、シカマルも聞き覚えのある、渋い声。
特有の熱と柔らかな感触は心地悪くはないが、髪に引っ掛かる爪とズシッと頭にのし掛かる重さ、そして人の頭を足蹴にする態度のデカさは不愉快極まりない。
シカマルは、頭上に乗っかるものの正体を確信した。
「あ、はっぴーにゅーいやー。だな」
今更ながら新年の挨拶をされたシノが、薔薇を手にしたまま丁寧に挨拶を返す。
「ああ…あけましておめでとう。パックン」
その決め手の一言に、シカマルは脱力感を思えずにはいられなかった。
「今日はどうした」
「任務に行ったカカシの代わりだ。それを預かって来た。ほれ、その薔薇。誕生日プレゼントだそうだ」
「…………」
「それから、文も預かって来ておる。これだ」
シノはシカマルの死角から手紙を受け取ると、数秒眺めた後、読まずにさっさと折り畳んでポケットに仕舞ってしまった。
くしゃくしゃと丸めなかったのはせめてもの礼儀かと、シカマルは思う。
「それからこれは、拙者からの誕生日祝いだ」
「………?」
何を差し出されたのか、シノが首を傾げた。
「特別に、拙者の肉球を触らせてやると言っておるのだ」
パックンの言葉に、シノは首を傾げる代わりに今度は困惑した表情を浮かべる。
そりゃそうだ、と体験上その有り難迷惑さを知っているシカマルは思った。
「…………」
「遠慮はいらんぞ? 拙者からの誕生日祝いだ。ほぅれ」
ぷにぷにだぞぉ?とは言わなかったが、シカマルの頭には鮮明に甦る声。
シノはどうするのかと窺えば、ちょっと躊躇っていたが、好奇心に負けたのかシカマルの頭上へ手を伸ばした。

「…………」
「…………」
「…………」
「………どうだ? ぷにぷにだろぅ?」
「…………うむ」
手を引き戻したシノに、パックンが問えば、僅か嬉しそうな響きをもって頷くシノ。
シカマルは、頭に掛かる重さが増したように感じた。
「………つーか、てめぇ、いつまで人の頭に乗ってるつもりだ?」
もうこの面倒臭い空気に堪えられないと、シカマルが眉間に皺を寄せて頭上のパックンを睨む。
するとパックンはひょいと頭を下げてシカマルを覗き込んできた。そして
「なんだ。もうへこたれたのか? 鍛錬が足らんぞ、小僧」
と言ってぺしぺしとシカマルのおでこを犬手で叩く。
「……うるせぇ…」
シカマルは、頭にきて拳を握り締めた。
こうなったら力ずくで引っ剥がしてやる。
と掴みに掛かれば、その手をガブリと噛まれて悲鳴を上げた。
そんなシカマルを尻目に、パックンは漸くシカマルの頭から飛び降りると、ふんと鼻を鳴らして
「まだまだだな、小僧」
と小馬鹿にしたように言う。
「――っ、の…!」
一瞬挑発に乗ったシカマルだったが、そこは何とか冷静になってパックンを見下ろしながら言い返す。
「てか、用が済んだなら、とっとと飼い主のとこに帰りやがれ」
追い払うには最適な台詞である。
だが、パックンは首をふりふり、
「それはできんな」
と応えた。
「ぁあ…?」
「今日は一日、シノに付いているよう言われて来たのだ。ま、要するにお目付役よ。お前さんみたいな、不貞な輩が近付かんようにな」
だからさっさと帰れと言うように、わざわざ後ろを向き、足で砂をかける仕草をしてみせるパックン。
流石のシカマルも、これにはカチンときた。
パックンの首根っこをひっつかまえて、顔を押し付け睨み付ける。
「………てめーが帰らねぇなら、俺もだ。今日一日、シノにべったりくっついてってやらぁ…!」
シカマルの任務妨害宣言に、パックンはむむむと唸った。



一方、シノは。
そんな風にシカマルとパックンが仲良くやっている間に、カカシからの手紙をこっそり読んでいた。
かさりと開いた手紙の文面はいたって簡潔。


親愛なるシノくんへ

      お誕生日おめでとう。薔薇は気に入ってもらえたかな?
      今日祝ってあげられないのは残念だけど、代わりにパックンを一日貸してあげる。
      俺からのお祝いはまた後日、時間のある時にゆっくりと…ねv

                                                 畑カカシより


「……………」
シノは、無言のまま再び、だが更に小さく折り畳んで手紙をポケットに仕舞った。
パックンが付き合ってくれるなら、もっと良い贈り物が見つかるかもしれないな、と思い、凧に描かれた厳つい顔の武将にすまないと心の中で謝罪する。
それへの返答か否か。
シカマルの「いでえぇ!!」という叫び声と共に、福笑いのおかめが微笑んだ気がした。









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あとがき
カカシノ…というより、シノとシカマルとパックンといった感じになりました。
シカマルが珍しく(?)三枚目役ですが、まあ、偶にはいいかと。
パックンとシカマルの組合せも、なかなか面白いですよね?
木ノ葉崩しの際の掛け合いがとても良かった。しかもその時、シノも聞いていたので。
あの時は非常事態で、思いもしなかっただろうけど、きっと後になってパックンの肉球に触ってみたいなぁと思ったに違いない…!(笑)
そして、いのいちさんの誕生日を何気にだしてみましたが、その話を書くには時間と能力が足りませんでした…。
そしてそして。
どんどん手抜きが明らかになってきて…。
申し訳ありませんでした………!!
相変わらずカカシノは苦手ですが…頑張ろうと思います。。












(08/1/23)