「………何だこりゃ…」
オーブンの扉を開けた先に真っ黒い物体を見て、アスマは絶句した。
人間、柄にもない事はするもんじゃないなと痛感したものの、このまま引き下がるのは納得いかないという気持ちも湧き起こる。
「こうなりゃ、とことこんやってたろうじゃねーか」
にやりと挑戦的な笑みを浮かべて、宣戦布告を掲げたのである。
バースデーケーキはほろ苦く
「…………………それで、出来たのが、コレですか……」
「…………………そーだ。ソレだ」
「……………」
シノがアスマに招かれたのはおやつの時刻。
招かれたというより、実は来させられたのだ。
なぜなら、油女邸はその敷地内全てが禁煙であり、アスマはシノの家に上がりたがらないため、シノがアスマの家に来るしかなかったのである。
そして手渡されたのは、ケーキボックスだった。
そのケーキボックスの中に見えるのは、努力の跡が見られるデコレーションの施された、小さめのホールケーキ。
生クリームの塗りムラや歪みは目に付くものの、苺は美味しそうなので、なんとか様に見えた。
その他に見た感じから言える事は、膨らみが足りないということだ。
足りないというか、平たいというか、ぺしゃんこというか……。
まあ、見かけは飽くまでも見かけである。
大事なのは、味。
「食べていいんですか?」
窓辺で煙草を噴かしているアスマの背中に、シノは問いかけた。
「……腹は壊さねぇはずだ」
アスマの投げやりな返答にシノは眉を寄せたが、折角作ってくれたのだからと、フォークを手にした。
一口大にするべくフォークを刺せば、普通のケーキには有り得ないパリッという乾いた音がする。
「……………」
「……………」
口に入れ、もぐもぐと咀嚼すれば、シャクシャクという音がした。
「……………。焦げてますね…」
「…………」
「…………」
「…………」
黙ったまま、新しい一切れを口に運ぶ。
焦げ目の付いたバースデーケーキはほろ苦く、そして少しだけ、甘かった…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
今回はアスマ先生がケーキ作りに挑戦です☆
結局うまくはいかなかったようですが、気持ちはちゃんと伝わりました。
あなたの頑張りに、シノは努力賞をあげるでしょう『よく頑張りました』と(笑)
アスマ先生は、一人暮らしが長そうなので料理は程々にできそうですが、お菓子作りは苦手そうです。
分量なんていちいち計るの面倒臭ぇ。目分量でやっちゃえ!って感じで。
余談として、アスシノではありませんが。
先日、地域限定で『紅アズマデニッシュ』なるものが発売されました。
…………惜しい!
(08/1/23)