銀のピアスと秋の夜長


秋の夜長にはまだ少し早い時期だが、それでもまだ薄暗く辛うじて夜を保っている。
濃紺にミルクを混ぜたような色合いの空を窓の外に仰いでから、シノは隣で熟睡する情人に再び視線を移した。
任務でかなり疲労していたのだろう。
結局睡魔に勝てず、早々に眠りに就いてしまった。
逆にすっかり眠気が冷めてしまったシノは、この長くなりかけた夜の時間を潰すために、眠るシカマルを観察し続けている。
そう頻繁に変化するわけではないが、不思議と何時間見ていても飽きない。
無防備な寝顔はとても可愛くて、眠りが深いのをいいことにほっぺを撫でたりつついたり、髪を指に絡めたりして遊んだりもしていた。
たまに無意識に反応するが、起きる事はなく、当にやりたい放題である。
こういうのを据え膳というのだろうかと、シカマルを弄りながら思った。
少し違う気もするが、まあいいかと気楽に考えよう。
再びたゆたう黒髪を梳いて、女のような髪だな、とシノは幾度繰り返したか知れない感想を抱く。
手入れは怠っているようだが、それでも艶やかで、触り心地がとても良い。
風呂上がりであったためか、今は薄れてしまったが良い匂いもした。
鼻先を押し当てれば、まだ微かに残る香が鼻腔を漂う。
そしてその黒い髪の先には、自分がプレゼントした銀のピアスが目に入る。
それを見る度心の奥底が満たされる気がして、得も言われぬその感覚に堪えきれず身をきゅうと縮めた。
最初、シカマルが銀のピアスに付け替えた時に感じたものと同じ感覚。
これが何なのかわからないが、恐らく、悪い感じでない。
似通った感覚を挙げれば、弱い部分に触れられた時の感覚に近いからだ。
思わず身が竦むが、嫌ではない感じ。
だが、似てはいるが、矢張り何か違う。
快楽ではなく嬉しいというような、満足感。
シカマルが、自分のモノになったような……。
そこまで考えて、たった一対のピアスで、そんなはずはないと小さく首を振った。
体を重ねたって、そんな満足感は滅多に得られないのに。
極希に感じても、ただの勘違いの思い込みだ。
誰かを自分の物だなどと考えるのは、おこがましい事。
束縛は、自分のためにも相手のためにも良くない事だ。

――――――だがもし、そう思っているのだとしたら…?

ただのピアスで、シカマルを自分の物にしたような気になっているとしたら。
シノは、シカマルの耳朶を陣取った銀のピアスをじっと見つめて、そっと手を伸ばした。
小さな小さなそれが、大きな枷に思えて、眉を寄せる。
きっと今なら、はずしても起きないだろう。
自分でも判じ難いが、束縛したいという思いが無いと言いきれないのならば、はずすべきだ。
そう、思うのだが……。
伸ばした手を、ぎゅっと握り締める。
そして枕に顔を埋めた。

今、この一時だけでも―――――。

心の奥底で、何かが願う。
夜が明けるまで、まだあと、少し…。










sibari


  『束縛』

影による束縛
蟲による束縛