※分かる人にはわかる、分からない人には分からない下ネタ(?)有り。奈良ヨシノさん誕生日、シカシノ午後の続きです。
用意周到、抜かりは無し
シカマルは夏を目前に、もしくは片足を突っ込んでいるような晴れ渡った空を見上げて、深々と溜め息を吐いた。
「さすがに、花は贈れねぇよな。あの親父に」
というか贈りたくない、と心中で呟いて、結局適当に見繕った酒の摘みの入った袋をガサリと揺らす。
母の時と同じようにシノに相談しようと思ったが生憎と任務で居らず、
仕方ないので一応念のためといのに誕生花を尋ねてみたところ、ササユリだと教えられたのはつい先刻。
他にも色々あるそうだが、忘れてしまった。
とにかく、それはパスと即座に応えたのは賢明な判断だったということだけは、自信を持って言える。
酒の摘みに落ち着けたのは、まあ無難だろう。
洒落たものを編み出す頭でもなければ、当の本人が好き好む質でもないのだから、無駄に悩むのは面倒臭さの極みだ。
テキトウが一番。
それでもやはり改まって誕生日の祝いの品を贈るというのは気恥ずかしくて、溜め息が漏れる。
そういつも居るわけではないが、今日は父親の仕事はなく、家でくつろいでいるはずだ。
人手不足な昨今、火影がわざわざ誕生日に合わせて休暇を与えたとは考え難いので、たまたま偶然だろう。
それが幸か不幸か知らないが。
家に帰って、さっさと渡して、おめでとうを言って。
速くこの妙な緊張感を捨て去りたいと思いながら、シカマルは重い足取りで自宅へと向かった。
家に辿り着き玄関を開けると、何やら良い匂いが漂ってきた。
考えるまでもなく、母が父に御馳走を作っているのだ。
御馳走と言っても和食好きな家族なので豪華なものではないだろうが、いつもより品数は断然多いはずだ。
母は、張り切るとやり過ぎる傾向があるため、こういう祝い事の時には作り過ぎて秋道家や山中家にお裾分けに行くのが通例となっている。
夕刻には使いに出されるな…と思い至り、シカマルは「メンドクセェなぁ」と口の中で小さく呟きながら玄関の戸を後ろ手に閉めた。
「ただいま」というおざなりな声に「おかえり」と遠く台所から返る母の声を聞き、
とっととプレゼントを差し出してしまおうと、シカクが居るであろう和室へ向かう。
シカクは陽当たりも良く風通しも良い畳の部屋で寝転がるのが好きである。
自分も好きで、昔は並んで寝転がっていたことを思い出し、親子なんだよなぁ、と不意に痛感してしまった。
別に軽蔑するでも嫌いでもないし、似ていても気にはならないのだが、
何かに付け自分をからかってくる習性と常識外れな言動には些か辟易する。
母を悪く言うつもりはないが、女の趣味も理解し難い。
強い女は美しいって、なんだそれ。
「シノは強ぇけど、女じゃねーしな…」
シノを思い浮かべてみるも、やはりよくわからない。
美しいと形容できなくもないが、それと強さが関係あるとは思えない。
強い女で思い当たるのは綱手様といのと、砂のテマリで、確かに皆不細工ではないが、シカマルにしてみれば怖いという感想が先に立つ。
貧弱なのもそれはそれで面倒そうだが、強い女もやはり面倒だ。
唯一。たまに優しいのが良いというのは、何となくわからないでもない…かもしれない。
普段、強さも誇示しないが優しさも顕著に現さないシノがたまに微笑むのは、ドキリとするものだ。
そんなこんな考えながら部屋の前までやって来て、シカマルは漸く中から人の声がするのに気が付いた。
シカクの声だが、独り言ではない。
だが、だたの話し声でもない。
シカマルは思わず、今更だが気配を殺して襖に耳をあてた。
「―――――っ、もう少し、下だ」
「………ここ、ですか?」
シカマルは、我が耳を疑った。
しかし確かにシノの声だ。
たが、シノは3日前に任務で里を出たはず。
帰っていたのか。
「ああ、そこそこ。……あぁ~、気持ち良い……」
呆然としていた頭に、シカクの気持ち良さ気な声が入ってきてはっとする。
ドキドキと訳もなく鼓動が速まり、ごくりと喉を鳴らした。
そんなシカマルに聞かれているとも知らないシノの声が続く。
「……………硬い、ですね…」
「ん~? 溜まってるからなぁ。……それににしても、上手いな、お前」
「…………どうも…」
一体何だ、この会話。
ドクドクドクドクと脈打つ音が耳に木霊する。
何だと思いながらも、ある場面が頭に想像されて、でもそんなことは有り得ないと拒絶し、でももしかして……。
と巡り巡る想像と拒絶に、嫌な汗が背筋を伝った。
「シノ。今度はもうちっと上に移動して……」
パアァンッ!
シカクの台詞に、シカマルは無意識の内に襖を開け放っていた。
目の前に現れた光景に、目を瞠る。
「よぉ、シカマル」
「おかえり」
「……………」
俯せに伏せ、服をたくし上げて背を露わにしたシカクが顔だけ横に向けて。
そのシカクの背に跨ったシノもまたシカマルを振り返って、驚いた風もなく言う。
そんな二人に、シカマルは暫し絶句した。
有り得ない構図もさることながら、想像と真逆な位置関係に安堵と疑問が押し寄せる。
「……………なに、してんだ……」
「……腰を揉んでいる」
「………コシ………?」
「マッサージだマッサージ」
あっけらかんとしたシノとシカクが、呆気に取られるシカマルに言う。
「なんで……」
「誕生日だからだ」
簡潔なシノの答え。
それでも信じられない様なシカマルに、シカクが付け足す。
「いつもお前がメンドクセーって、揉んでくれねぇから頼んだんだよ」
「かなり凝っていた。シカマル。たまには孝行するべきだ」
うんうんと、シノの言葉に頷くシカク。
それで漸く、シカマルは事態を把握し、瞠っていた目を細めてシカクに非難の目を向けた。
「………………つーか、いつまでそうしてんだよ…!」
ぶすっと顔を顰めてズカズカと部屋に上がり込み、シカクの背に跨ったままのシノの腕を掴んで引っ張り上げる。
そして次にシカクの顔を見下ろしてから、手にぶら下げていたビニール袋をその顔目掛けて無造作に放った。
「っ痛ぇ!」
袋の中のイワシ蒲焼きの缶詰か、もしくは二日酔い醒まし用のドリンク剤の瓶が当たったのか。
ゴツという鈍い音と共にシカクが呻く。
「タンジョウビ、オメデトウ」
シカマルはありったけの念を込めて祝辞を述べ、踵を返すとぐいとシノを引っ張って部屋から出て行った。
パンッ!と勢い良く閉められた反動で反対の襖が惜しくも開いてしまったが、律儀に閉められたのはシノの仕業か。
残されたシカクは、硬い何かがぶつかったところを押さえながらむくりと起き上がり、息子たちが去っていった襖の方を見て、やれやれと息を吐く。
「我が息子ながら、からかい甲斐のある奴だ…」
シカマルの気配を察しタイミングを見計らって実行したからかいは見事に成功した。
シノもシカマルが帰ってきたことに気付いていたはずだが、シカクの企てに乗ったのは態とか、はたまた天然か。
どちらか知らないが、どちらにしてもシカマルの苦労は変わらないなと苦笑を浮かべる。
そんな可哀い息子からの誕生日プレゼントであろうコンビニの袋の中をがさりと覗き、その中身にしみじみと呟いた。
「母ちゃん、ビール一本おまけしてくれっかなぁ」
何やら不機嫌らしく、大股で歩くシカマルに強く腕を引かれながらシノは眉を顰めた。
「何を怒っている」
問えば、不機嫌な顔を向けられ、益々眉間に皺を寄せる。
「怒るに決まってんだろーが」
「何に」
シカマルは足を止め、シノに正面を向ける。
「……お前、任務は」
「終わった。それを報告しに来たのだ。終了次第報告しろと要求したのはお前だろう」
「………で。何で親父の腰揉むことになるんだよ」
「誕生日だと聞いたので、何かできることはと尋ねたら頼まれた」
一間置いてから、そう言えばと僅かに眉間の皺を解いてシノが付け足す。
「お前の母上の時は、家族内の祝事に水を差すかと思い何もしなかったので父上だけにするのは些か躊躇いがあったが、
この前、暇ならとまた書庫の巻物を見せてもらったのでその礼という意味もあった」
「…………いつだよ、それ」
「一週間程前だ」
「……………」
今度は何やら脱力したようにシノの両肩に手を乗せ、項垂れるシカマル。
「シカマル…?」
「…………シノ…頼むからそーゆーの、ほいほい受けないでくれ」
力無く、だが切実に訴えかけるシカマルに、シノは再び眉を寄せた。
「……何故…?」
心底不思議そうなシノの声に、シカマルは溜め息を漏らす。
「…………俺の、寿命のために」
「なあ、母ちゃん」
妻の顔色を窺うようにしてシカクが台所の中を覗き込むと、ヨシノは何という風に振り返った。
「これ、シカマルにもらったんだけど」
「何…? お摘み……?」
あの子も渋い選択するわねぇ、と覗き見た感想を漏らしながら袋を受け取り、シカクが言うまでもなく夕飯後のために専用の棚に置く。
「………それで…」
「はいはい。一本だけだからね」
夫の考えなど全てお見通し。と、シカクが言う前に一本だけおまけを許可するヨシノ。
敵わないなと苦笑を浮かべて、シカクは徐に台所へと足を踏み入れた。
「ところで、まだ、言ってもらってねーんだけど…?」
「な~に?」
少々ばつが悪そうに、しかし何か重大なことでも求めるようなシカクに、ヨシノは首を傾げて見せた。
「だから……よぉ」
「冗談よ、冗談」
厳つい顔に似合わない、子犬のような哀願にヨシノはくすくすと笑いを零し、承知しているシカクの求める言葉を優しい微笑みと共に贈る。
「誕生日、おめでとう」
「おう」
シカクが満足そうな笑みを浮かべた丁度その時、チンッ、と電子レンジが解凍終了の合図を鳴らした。
寿命やら、意味の分からないシカマルの言葉に疑問符を浮かべていたシノだったが、
ふと別のことを思い出して、何の脈絡もなく項垂れるシカマルに問いかけた。
「ところで、その時見せてもらった巻物だが」
シノが話題を変えてきたので何だと顔を上げたシカマルに、シノが首を傾げて言う。
「父上はいいと言っていたが、どうも奈良家の秘伝書らしかった。あれは、俺が見ても良かったのだろうか…?」
書庫には、薬や鹿に関する書物とは別の保管方法で、確かに秘伝書も管理されている。
一族の者にしかそのお披露目は許されないはずだが…。
何考えてんだ…と思った瞬間。
シカマルは閃いた。
まさか、とは思ったが、親父ならやりかねない。
「……………ちゃくちゃくと準備始めてるんじゃねーだろうな、あのオヤジ…」
ぼそりと呟かれた言葉はシノの耳に届かず、「ん?」と聞き返したシノに、シカマルは曖昧に笑って見せた。
「あ…ああ。大丈夫。全然、問題ねーよ」
お前が家族になったらな…。
と、シカマルは心の中で密かに付け足した。
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あとがき
シカクさん、誕生日おめでとうございます!!
用意周到、抜かりは無し…というわけで。
シカマル以上の策士は、常日頃から息子をからかうために策を弄しております。
それに加えて、シノの嫁入り準備をちゃくちゃくと進めてたり…(笑)
2手先3手先どころか、将来のことまでちゃっかり読んでます。
シノに父上と言わせているのも、きっと彼の仕業。
でも、ヨシノさんには敵わないんだなぁ。
ラブラブな二人に乾杯!
シカマルはどっちに転んでも苦労性。
カンクロウと(彼も苦労性に違いない)、気が合うかも知れませんね。
下ネタについては…。
分かる人も分からない人も、スルーして頂ければ有り難いです。
(07/7/15)