※微妙にパラレルです。




雨の天の川の上

琴の国ベガノ里、その王の子に織女という美しい人が居りました。
織女が紡ぐ織物はそれはそれは見事で、織女のことを民は織姫と呼んでおりました。
しかし、そんな織姫ですが、年頃なのに自身のことには酷く無頓着で、
自分の織った布を身に付けることもなければ化粧の一つもせず、恋愛にも興味を示しません。
織姫の将来を案じた王は、このままではいけないと国内のみならず各国に織姫の結婚相手を探しました。
そうして白羽の矢が立ったのは、天の川を挟んだ隣国、働き者だと評判の、鷲の国アルタイルに住む犬飼の一族彦星でした。
彼は血気盛んな若者で夏のようだと、皆から夏彦と呼ばれておりました。

織姫と夏彦は程なく婚姻を結び、慎ましくまた幸せに暮らし始めましたが、
織姫は機織りをやめることはなく、毎日天の川を渡って仕事へ向かいます。
家で織ればいいと言う夏彦にも、織物に適切な環境ではないと頑固に言い張ります。
それを見かねた夏彦は、織姫に国へ戻るよう言いました。
暇を見つけて帰ってくればいい。自分も、暇が合えば必ず行くからと約束しました。
そして、棚機の日には必ず逢おうと、誓いました。
それから二人はそれぞれの国で過ごし始めましたが、もともと働き者で忙しい二人は、
ついに暇を合わせることができずに逢うことができませんでした。
そうしてこの日、棚機の日を迎えたのです。

しかし、誓いの日は生憎の雨。
天の川の渡し守は、川を渡してくれません。
逢いたいと願う織姫、そして死んでも渡って行きそうな夏彦のために何とかしなければ、と、愛犬赤丸は渡し守シカマルに相談に行きました。
渡し守シカマルはめんどくさがりながらも、赤丸に上弦の月の月守ならば渡してくれるかも知れないと教えてくれました。
しかしそのためには、テストを受けなければならないと言います。
それは、純白の短冊に触れて、何色に変わるか試すもので、その色によって通れるか通れないかが決まるというものらしいのです。
赤丸は渡し守シカマルにお礼を述べて、月守の下へ向かいました。
その途中、織姫と親しいいのと、シカマルの親友チョウジに出会いました。
川向こうのベガノ里に住むいのは、琴の国の使者として鷲の国アルタイルにやってきていたのです。
事情を説明すると、願いが叶うようにと、笹の葉を赤丸の腕に巻いてくれました。
チョウジは、夏彦を月まで連れて行くと言ってくれました。
赤丸はいのにお礼を言い、チョウジに頼んで、再び歩き出しました。
赤丸が上弦の月にやってくると、まるで予期していたように、月守は「待っていました」と言い、そっと、純白の短冊を差し出します。
赤丸は片手を上げて、純白の短冊にそっと乗せました。
するとどうでしょう。
色が変わるどころか、純白の短冊は更に白く、眩しい程に輝きを増すではありませんか。
赤丸が見上げると、月守は白い瞳を細めて優しく優しく微笑みました。

こうして、夏彦は上弦の月を渡り、無事天の川を渡って、織姫に逢うことができたのでした。
織姫の表情はよくわかりませんでしたが、ありがとうと言って頭を撫でられたので、きっと嬉しかったのでしょう。赤丸も嬉しくなりました。
そして何より嬉しかったのは、夏彦に褒められたことです。
とてもとても嬉しそうな夏彦の顔に、赤丸はとてもとても嬉しくなりました。

めでたしめでたし。






「――――――――っ!??」
シカマルは勢いよく起き上がり、暫しの間絶句した。
はっとして周りを窺えば、いつの間にか暗くなってる。
バラバラと天井を叩く音で、雨が激しくなっていることがわかった。
「……夢…かよ………」
とてつもなく妙な夢だった。
キバが彦星で、シノが織姫で、ヒナタも、いのもチョウジも、自分まで登場したが、なぜか主役は赤丸ときた。
………わけわからん。
自分の頭の中で一体何が起こったのかと頭を抱えていると、不意に母の、「シカマルご飯よ~!」という、声が聞こえてきた。
廊下の明かりはとても現実味を帯びていて、なんで夢の中のキバにまで振り回されなきゃならないんだと、シカマルは頭を振る。
忘れよう。
それが一番面倒臭くない。
そう思い立ち、シカマルは立ち上がって明かりの方へと歩を進めた。
ただ一つ疑問で仕方がないのは、なぜ赤丸が出張ってきたのか。だ。
どうも腑に落ちず、思い立ったにも関わらず思わず首を捻る。
これは赤丸の誕生日を忘れるなと言う天からのお告げか。
キバはともかく、赤丸へのプレゼントはちゃんとしようと、心に決めたシカマルであった。





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あとがき
忘れちゃいけない赤丸誕! おめでとう!赤丸!!
きっとシカマルから素敵なプレゼントがありますよ!(笑)
実は、始めは七夕企画として書いていたパラレルだったのですが、
あれこれ書きたいものがまとめきれずに挫折しました…。
そして急遽書き直したSSで(すまん赤丸)、推考の跡がありません。
しかし。
天上界でも、赤丸はキバとシノを繋ぐ重要な役目を担っています。
なんて頼り甲斐のある弟だ!
結局は夢落ちですが、お許しを。
シカマルの夢なので、いのとチョウジは無理矢理ねじ込みました。
もしできたら、来年の七夕には本格的な七夕パラレルを……。
………できたらいいなぁ…。












(07/7/7)