※キバ→シノ要素&雛祭りの要素有り。あとハナビの性格など完全に想像で書いています。




日向ハナビの日記

朝、目が覚めて、いつも通り布団をたたんで押し入れへ。
まだ少し寒い外の空気を吸い、深呼吸すると、残っていた眠気が吹き飛んだ。
洗面所へ行き顔を洗って歯を磨き、部屋へ戻る途中、父上と会った。
「おはようございます、父上」
「うむ、おはよう」
相変わらずの固い挨拶を交わす。
部屋へ戻ってから広間に行くと、母上が朝食の用意をしていた。
「おはようございます、母上」
「おはようございます、ハナビ」
母上はにこりと微笑んで、何か思い出した様に私を手招きした。
なんだろう、と思って近寄ると、着物の袖口から小さな箱を取り出してそっと私の手に乗せた。
「お父さんから、お誕生日の贈り物」
ひそひそ話のようにおかしそうにそう囁く。
自分で渡さないのはいつものこと。恥ずかしいからだと、私も姉上も知っている。
「私からは、後でね」
今ここにないから。と優しく微笑んで、母上は言った。
「ハナビ。お誕生日おめでとう」


父上との午前中の修行を終え、シャワーを浴びて牛乳を飲む。
「あ。ハナビ!」
自分の部屋で読書でもしようと思いながら廊下を歩いていると、任務帰りの姉上と会った。
姉上のチームメイト、キバさんとシノさんも一緒だ。
今日は朝早くからの任務で、今帰ってきたところらしい。泥だらけの服と顔。もっと綺麗にしたら、絶対美人なのに。
と思うけど、そういうのを気にしないところが姉上の良いところだと思うので言わない。
それにしても、姉上もキバさんも泥まみれなのに、なんでシノさんはあんまり汚れてないんだろう?
「あの、ハナビ。お誕生日、おめでとう…」
妹に対してそんなに緊張する必要ないのに。姉上は恥ずかしそうにそう言って、四角い箱を差し出した。
「ありがとう、姉上」
そう言って受け取ると、姉上はほっとしたような顔をした。
「わりーな、ハナビ。俺らついさっき知ったんで、何も用意してねーんだ」
姉上の後ろに控えていたキバさんが言う。その頭の上で、赤丸も鳴いた。
「代わりに、これから暇なら昼飯どうよ? 俺とシノで奢るからよ!」
「え…でも……」
「遠慮は無用だ。俺達が祝いたいのだから」
私が遠慮しようとすると、シノさんがすかさず言う。姉上も「二人の気持ちだから」と勧めてくれた。
折角誘ってくれているのだから、ここで遠慮は失礼だと思い、頷いた。
「では、支度をしてきます」
部屋に入って、まず、姉上からのプレゼントを開ける。
漆塗りで仕立てられた、上等でコンパクトな鏡だった。
それから母上からの誕生日プレゼントのうぐいす色のワンピースに着替え、七分丈の黒いズボンを履いて、
ポーチにはハンカチと父上と姉上からのプレゼントを詰めた。
支度を整えて部屋を出ると、姉上が早速真新しいワンピースに気付いてくれた。
「ハナビ、そのワンピース…」
姉上も着替えたらしく、もう泥だらけではなかった。キバさんも、顔を洗ったらしい。
「母上からのプレゼントです」
「そっか…。とってもよく似合ってるよ!」
答えると、姉上は自分のことの様に嬉しそうに笑った。
「父上からは、これをいただきました」
ポーチから箱を取り出し、開けた中身は柏で作られた上等なクシ。
それを見て、姉上はなぜかビックリした様にシノさんを振り仰いだ。
「クシにしなくて良かったな」
その一言で、なんとなく想像出来た。
多分、姉上は鏡にするかクシにするかで迷ったのだろう。そこで、シノさんが助言したんだ…。
「お前、知ってたのかよ!?」
「……まさか」
キバさんにそうは答えたけれど、私は知っていたのではと思った。
姉上は今度は私に視線を向け、私も姉上を見た。
多分。思い出したことは同じだ。
雛祭りの時、シノさんが父上に何か用事がある様子だった。きっと、それだ。
「いや、そっちじゃなくて! ハナビの誕生日って知ってたのか!? つーか、一緒に選んだのかよ!?」
一体いつ!?とキバさんの叫びが聞こえた。
「……そろそろ行こう。店が混み始める時間だ」
シノさんが、話を逸らした。


どこで食べようか、と食事処の集まる辺りを歩いていると、ラーメンの匂いが漂ってきた。言わずと知れた一楽の近くにやって来たのだ。
「あっ…!」
不意に隣で、姉上が声を上げた。
なんだろうとその視線を追うと、一楽の中の、嫌でも目を引くオレンジ色のジャージに行き当たった。成る程と思った。
「あそこにしましょう」
「えっ!?」
私が一楽を指差すと、姉上が素っ頓狂な声を上げた。
「久しぶりに、ラーメンが食べたいな」
仕方ないので、満面の笑みでそう告げた。こうすれば、姉上も引っ込めなくなる。
一楽ののれんを潜ると、ナルトさんの他にも見知った顔ぶれが揃っていて驚いた。
「なんだよ。10班もいたのか」
「もってなによ! 私達の方が、ナルトやサクラなんかより先に居たんだからね!」
「どーでもいじゃねーか。先でも後でも…」
「おじさん!チャーシュー大盛りおかわり!!」
キバさんの声に続いたのは、姉上の同期の、いのさん、シカマルさん、チョウジさん。
いのさんは、相変わらずうちはサスケだけは別格らしい。シカマルさんも相変わらずやる気なさそう。
チョウジさんも、空の器が既に3つ積んであるのに…。
「8班が一楽に来るなんて、珍しいわね」
サクラさんが言うと、キバさんがナルトさんの隣に座りながら答える。
「今日、ハナビの誕生日なんだよ。んで、俺とシノで奢ろうってな」
「一楽のラーメンは美味いけどよ~。奢りでラーメンってケチくせーってばよ」
「なんだと!? ハナビがここが良いっつーんだから、良いだろうが!!」
「そうなのか~? んなら、遠慮しないで一番高いの頼もうぜ!?」
「お前が決めんなっ!」
「き、キバくん…ナルトくん……!」
キバさんとナルトさんの怒鳴り合いが始まった。いつもながら、煩い。
姉上は、こんな喧しい奴のどこがいいんだろう?
そんなことを思いながら姉上を挟んでその様子を見ていたら、姉上が遠慮がちに止めに入った。
他の人は、呆れ顔だ。
姉上と反対の私の隣に座ったシノさんに至っては、完璧に無視していた。
キバさんがシノさんにアプローチしてるのは知っているけど、この様子じゃ望みは薄いな。
いがみ合いが続く中、唐突に場にそぐわない格好いい声が割って入った。
「おい、ドベ。その前に、言うことがあるだろうが」
うちはサスケだ。
その声に、ナルトさんが「ん?」と振り返る。
その向こうで、サクラさんがはっとしたようにひょいと顔を私に向けた。
「そうよ! お誕生日おめでとう。ハナビちゃん!」
「あああ!! そうだってばよ! おめでとっ!!」
サクラさんの言葉に、始めて気付いたらしくナルトさんも慌てて叫んだ。
「おめっとさん」
「おめでとう」
「おめでとー!」
その奥のシカマルさん、チョウジさん、いのさんからも次々と声が掛けられた。
一楽のおじさんやお姉さんにも。
ちょっと気恥ずかしくなった。

でも…。

ハナビは、筆を止めて頬杖をついた。
外はもう暗く、手元を照らすランプの光が日記帳をオレンジ色に染めている。
「私にも、いつかあんな仲間ができたらいいな…」
ハナビはふふ、と笑みを零し、再び筆を進め始めた。





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あとがき
ハナビ誕生日企画。微妙に雛祭りとつながってます。
ヒアシ様がシビさんに頼んだのは、ハナビの誕生日プレゼントだった訳ですね。
自分で買わず自分で渡さず…でもそれは、恥ずかしいだけなんです。
シノはきっと、後でシビさんに聞いたんだ。というより、シビさんが話したんだ。
ヒナタのプレゼントとかぶらないように。
なんて親切!
そんな親切のお陰もあって、ハナビも笑顔で誕生日を過ごせた模様です。
ハナビは原作でもアニメでもほとんど出てこないのでどんな性格かいまいちわからないのに、ハナビ語りで書いてしまいました。
そしたら、なんか辛口な子になってしまった…。
姉の同期に対する感想は、なかなか厳しいものに。
しかもサスケだけフルネーム。
まあとにかく。お誕生日おめでとう!ハナビ!



~お詫びと訂正~

はじめ、シノもハナビの誕生日をついさっき知ったことになっていて、ヒナタに助言したことと矛盾していたので、
キバに内緒でプレゼント選びに付き合っていたことにしました。
じゃあシノはなんでハナビにプレゼント買わなかったのかっていうと…すみません。推敲不足です。












(07/3/27)