時間の壁
約束の場所に行く前に、毎日毎日足を運ぶ石碑の前。
カカシは今日も、その場に立ち尽くす。
大き過ぎる後悔と、止め処ない自身への呵責に、一人の少年の顔が浮かぶ。
当時は気に留めた事など無かったが。
ふいに思い出した、今日というこの日。
うちはオビトの、誕生日。
「いない人間に言うのも変だけど…」
誕生日、おめでとう
それはまるで魔法の呪文。
浮かんでいた少年の顔がより鮮明に、生き生きと甦る。
そして、想いの中の少年は笑って言うのだ。
サンキュー、カカシ
屈託のない、温かな笑顔で。
想いは、時も場所も関係ない。
大き過ぎる後悔と呵責を背負って想い続けよう。
そうして、想いの中で生きて見ていてくれ。
この左目で、見続けるから。
これからの行く末を。
木ノ葉の未来を。
ずっと。
ずっと
~その2時間後~
想いは、時も場所も関係ないというけれど。
それでもやはり、時は越えることのできない壁だ。
「シ~ノっ!」
いくら牽制しても懲りずに抱き付いてくるこの人は、遅刻の常習犯だとナルト達がぼやいていた。
それも10分や30分ではなく、大抵が数時間。
………本当に、2時間遅れて来た。
なぜ、そんなに遅刻するのか。
俺は理由を知らない。
けれど、どこにいるかは知っている。
英雄達の、墓の前。
あまりに遅いので蟲に探させた。
そこに出掛けて見た姿は…表情は…途方もない悲しみと、寂しさと、後悔を映していた。
俺の知らない、過去を見つめた、畑カカシ。
だから、気付かれない内に退散した。
「………」
いつもなら躊躇なく出てくる文句の言葉も、出てこない。
珍しく抵抗のない俺に、カカシが不思議そうに覗き込んでくる。
「どうしたの? 元気ないね……」
屈託のない温かな、それでも場数を踏んできたことがわかる大人の顔。
額あてに隠された、いわく付きの血系限界。
余裕綽々な態度はあまり好かない。それは何かを隠しているように思えるから。
知りたい。けれど、問うたりはしない。過去に土足で踏み入る様なマネはしない。
俺には、できない。
けれど……。
上から覗き込んでくる、不思議そうな心配そうな男の顔に、手を伸ばす。
俺の知らない、見えない心の傷や穴が、少しでも癒せるなら。
あなたを、慰められるなら。何でもしよう。
「!」
マスク越しのキス。
驚いて目を見開く。
その反応に、たまにはやり返してやるのもいいな、と思った。
思わず、口元が綻ぶ。
「シノ…?」
突然のことに、カカシが狼狽える。
「遅れてきた罰です」
想いは、時を越えることはできない。
しかし、これからの時をつくっていける。
その中で、少しでも時間の壁の向こう側を明るくできたなら。
俺は、それだけでいい。
それだけで
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あとがき
オビトの誕生日企画です。
連続して今は亡き方のなのでちょっとしんみりしてしまいますが、お許しを。
オビトとシノはこれまた無関係ですが、シノ受けサイトなのでシノは欠かせない!
というわけ(?)でカカシノです。今回はシノが積極的ですね。
ちなみに、実は管理人はオビトくんについてよく知りません。
カカシ先生の過去の話はぱらぱらっと読んだだけなので、自信がない……。
おかしなところがあっても、気のせいにしてください。お願いします。
(07/2/10)