平和な日


「平和だな」
春と冬の間を行ったり来たりする時期。
白い雲がぽかぽか浮かぶ真っ青な空に、アスマはぽつりと呟いた。
「俺は足が痺れてきました。そろそろ頭をどかしてくれませんか」
のんびりした空間に容赦なく水を差すのは、油女シノ。
しかし、言われたからといって素直に動くアスマでもない。
シノの願いをきれいさっぱり受け流して、アスマは再び「平和だ」と繰り返した。
アスマが縁側に腰を下ろしたシノの膝を勝手に枕代わりにして寝そべったのは半時程前。
突然の行動に微かに眉を動かしたが、シノは黙ったままアスマの枕となった。
そして冒頭の一言があるまでお互い一言もしゃべらず、アスマは空を眺め、シノは書物に目を落としていた。
「平和では…ないでしょう。いろいろ、不穏な噂も耳にしますし。この前も3名殉職した。
いくら『のどか』でも、『平和』ではない。そもそも、平和になったら忍はお役御免になってしまう」
「お前…夢ねぇなあ………」
書面に目を向けたまま淡々と言うシノに、アスマは呆れた口調と表情で返した。
「ま、確かにそうだけどな…」
ちょっと頭の位置をずらし、それでもまだ起き上がらずに、アスマは再び空を見る。
「でも、今日ぐらい『平和』ってことにしとけ」
「今日ぐらい…?」
訝しげなシノの視線に、目線だけ向けて合わせる。
「今日は、三代目火影の誕生日だったからな」
「…………」
「何よりの、プレゼントだろ」
シノが書物を閉じた。
ぱたん、という音。
そして小さな空気の動きに、アスマの髪がほんの少し揺れる。

「平和……ですね」
「ああ。平和だ」
そう言って、再び黙って、二人はいつになく穏やかな空を見上げた。





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あとがき
誕生日企画第二弾。
シノとはほぼ無関係だった三代目火影様の誕生日です。
なんの関係も無い人と無理繰りくっつけるのが好きなので…。
三代目は、里の平和を誰よりも願ってやまなかった方だと思います。
なので、平和はなによりの贈り物。
ちなみに、二人のいる縁側は奈良家の縁側だったりします(笑)












(07/2/8)