いちにのさん
「おめでとう!」
朝日が昇ってまだ間もない。こんな朝早く誰かと思いながらシノが出迎えると、案の定キバだった。
他にこんな常識外れの友はいない。
そして、寒い中走ってきたのだろう、白い息を吐きながらキバは爽やかな笑顔で開口一番に言った。
「朝のあいさつは『おはよう』だろう。なぜ、『おめでとう』なんだ」
シノが普段通りの口調で問うと、キバははぁ?と呆れ顔をした。
「ばーか。今日はお前の誕生日だろうが」
「…………………誕生日?」
すっかり忘れ去っていたらしいシノの様子に、再びキバは呆れた。
「自分の誕生日くらい覚えとけよ」
「お前とヒナタのは覚えてる」
少し眉を寄せてシノは言った。そんな仕草は常だが、今回のはどう見てもふて腐れた態度。
誕生日を祝いに来たのに逆に不機嫌にさせてしまっては元も子もない、とキバは慌てて話題を変えた。
「と、とにかく誕生日おめでとう。で? なんか欲しいもんとかあるか?」
キバの問いに、シノはそのままの態度でしばらく沈黙する。
まだ機嫌が直らないかとキバは思ったが、実は既に思考は切り替わっていたようで、徐に口を開いた。
「…………………せめて太陽があと15度動くまでの睡眠」
「…………………」
シノの言葉を理解するのにしばし。そしてその要求を理解するのにしばし。
つまり、シノは寝たい。で、そのためにキバができることは……。
「俺に帰れってか!!」
てめぇ!せっかくわざわざ来てやったのに!とキバは激昂した。
「冗談だ」
そんなキバに、シノはさらりと言う。しかしそれは、益々怒らせただけだ。
「冗談で済むかっ!! てめぇのは本気かわかんねーから質悪ぃんだよっ!!!」
「俺は、お前が今ここに居るだけで満足だ」
キバの怒鳴りとシノの本音が見事に重なる。
キバは、シノが言った台詞を聞き取ることができなかったが、何か、嬉しいことを言われた気がした。
ピタッと動きを止め、まじまじとシノを見る。
「………今、なんつった?」
期待に胸が膨らむ。確かに、何か嬉しいことを言った。間違いなく。
だがしかし、シノは高い襟の下で少し口元をほころばせて、悪戯心を起こしていた。
「二度は言わん」
が、その答え。
キバは一瞬ぽかんとしたが、すぐにはっとする。
「―――っ巫山戯んな!!!」
大きな怒声が、朝の清々しい空気を震わせ、森中に響き渡った。
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誕生日…祝ってるか微妙ですが(汗)
とにかく、おめでとう!
(07/1/23)