イケてねー派論議
「シカマル。イケてねー派とは、何だ?」
「…………………は……?」
昼下がり。
シカマルの家にやって来ていたシノが、何の前触れもなく、そんな事を言い出した。
「なんだよ、いきなり」
陽当たりの良い窓辺で寝転がっていたシカマルは、体を起こすことなく頭を反らせて目をシノに向ける。
逆さまに映ったシノは、ベッドに腰掛けてサングラス越しの視線をシカマルへ落としていた。
「ここへ来る途中、ネジとナルトを見掛けて中忍試験の事を思い出したのだ。そしてお前の言葉を思い出した。
………あの時は結局、ちゃんとした説明を返されなかった」
「説明っつったって……」
「あの時お前は俺の問いに、『なんかキャーキャー言われてもうイケてる派っぽいじゃん』
と返してきたが、イケてねー派を知らない俺にイケてる派っぽいじゃんと言われてもわからない」
「…………………」
シノから発せられる違和感だらけの言葉の数々に、シカマルは複雑な表情を顔に貼り付かせる。
自分の言葉遣いをシノがすると、こんなにも怖ろしいものになるとは、考えてもみなかった。
新鮮とかそんな悠長なことを言えるレベルではない。
しかし本人は至極真面目な様子でひたと視線を落としてくる。
とにかくこの話題を一刻も早く終わらせねばと、シカマルは決意した。
「………それはな、アレだ。つまり、注目を浴びるのがイケてる派で、相手にされないのがイケてねー派ってことだ」
我ながら、上手く簡潔に説明出来たと思う。
これなら一発で理解するだろう。
思った通り、シノは「成る程」と呟き納得したように頷いた。
よし、これで平穏が戻るとシカマルが思った矢先、再びシノが「~派」を口にする。
「では、お前はイケてる派になったのか?」
「…………………」
ああ、もういいや。メンドクセー。と、シカマルは早々に決意を手放した。
「なんで?」
諦めた、しかし普段のやる気の無い口調とあまり変わらない調子で問い返す。
「ナルトがネジに勝ったのを見て、お前は『あいつだけはオレと同じイケてねー派だと思ってたのに』と言っていた。
と言うことは即ち、その時点でお前はイケてねー派に分類されていたことになる。しかし現在、中忍になったのはお前だけだ。
つまりお前は注目される存在になったわけで、それはイケてる派になったということだろう」
見事に証明してみせるシノに、シカマルが思ったのは、メンドクセェの一言に尽きる。
「ああ、まあ。そう思うんなら、そうなんじゃね?」
「…………………そうか…」
テキトウに応えた言葉に返ってきた「そうか」が、まだ何か含んでいるようで、シカマルは眉間に皺を刻んだ。
「………まだ何かあんのかよ」
訊くのも面倒だが、知らないままというのも気になって面倒だとシカマルが問えば、
シノは唇に手を当てて少し考え込む仕草をしてから、徐に呟いた。
「………………そうであれば、少し、困る」
「困る…って、何が?」
シノの言いたいことが全くわからず、シカマルは眉間の皺を深くする。
その鋭い視線の先で逆さまになったシノは、まだ考える仕草をしたままだ。
ついでに、シノの眉間にも皺が寄っている。
「………イケてる派ということは、例えばサスケのように人気があるということだろう?」
「まぁ…そうとも言えるか…?」
「なら、困る」
「何で」
「なぜなら、ライバルが増え、取られる心配が増すからだ」
「……」
暫く頭を回転させて漸く。
漸く、シカマルはシノの言わんとする事を理解した。
理解はしたが、信じられない。
信じられないが、間違いない。
「訂正!」
シカマルはがばっと起き上がりながら言っていた。
「訂正だ。やっぱ俺、イケてねー派だから!」
「だが…」
「いいか。俺は一目置かれる存在になっただけで、注目されてるわけじゃねえ。だからイケてねー派なの!」
一応筋は通っているもののどこか強引なシカマルの主張に、シノが訝しげな表情を浮かべる。
しかしそんなことはお構いなしにシカマルはシノに歩み寄り両肩を掴んで顔を突き合わせ、有無を言わさない気迫で言った。
「つーわけで。シノ。お前もイケてねー派に居ろ」
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あとがき
以上。シカシノ原点「イケてねー派」についての議論の模様をお送りしました。
シカマルの言葉遣いでしゃべるシノは、棒読みになってそうで面白い。が、怖い。
まあ、キバやチョウジ(ナルトは論外)の言葉遣いも違和感だっぷりですが。
そしてとうとう「イケてねー派」論議に決着が!
キャーキャー言われるイケてる派では心配なので、2人ともイケてねー派派閥です!
個人的には2人ともイケてる派ですが。
やはり目立たずこっそりといてほしいので(特にシノ)。
これでお互い邪魔されることなくイチャラブできます(笑)
(07/6/18)