雨宿り


「なあ、シノ。お前、好きな奴いる?」

唐突に、シカマルが言った。
シノは、いきなり何だと眉を寄せ、隣に突っ立ってぼけっと空を見上げているシカマルを見た。
二人はたまたま街で出会い、通り雨に遭って、屋根の下で雨宿りをしていた。
詳しく語れば、雨の気配に気付いた蟲たちの助言に従い屋根の下で突っ立ってぼけっと空を見上げていたシノをシカマルが見つけ、
雨が降ると聞いたので一緒に突っ立ったわけだ。
その屋根は焼き団子と草餅が美味いと評判の店のものだが、今日はシャッターが下ろされ、定休日の張り紙がしてある。
ザーザーとより強まる雨足に、人の気配もしなくなった。
「いない………考えたこともない」
シカマルの問いに訝しみながらも、シノはきちんと答えた。
「そっか…」
そう言って口を噤んだシカマルに、お前はどうなんだと、珍しく好奇心を起こしてシノは口を開きかけた。
が、先に雨雲を見つめたままのシカマルが開いて言った。
「なら、俺と付きあわね?」
一瞬、シノは何を言われたのかわからなかった。
雨の音のせいで聞き違えたかとも思ったが、しかしそれは間違いなくはっきりと聞こえていた。
話の流れからして、恋人として付き合う方だと理解するのが普通だが、それは…ないだろう。
そう思って、「どこにだ」と返そうと口を開きかけた時、またしてもシカマルに先を越された。
「どこに…なんつーボケは無しだからな」
「…………」
見事に台詞を先読みされて、シノは黙った。別に、ボケるつもりは無かったのだが…。
困惑するシノに、空から視線を移して、シカマルは今度は真正面からはっきりと言った。
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「…………」
シノは、表情こそ変えないが、頭の中は混乱していた。
これは…どうしたら、いいのだろう?シカマルとは、それ程話したこともなかったはずだが。
そもそも、男から告白されるというのはどうなのだろう。キバに言ったら笑われるか?
それともからかわれるか?どんな反応が返されることなんだ?驚くことは間違いなさそうだが…。
「シノ」
呼ばれて、思考の淵から意識を戻すと、すでに雨は止んでいた。
「そんなに困んなよ」
シカマルが、ポケットに手を突っ込んで、少々不安そうにシノを見て言う。
「もう少し、仲良くしようってぐらいでいいんだ」
仲良く……。
その言葉に、好きと言われるより恥ずかしくなって、シノは高い襟に更に顔を隠した。
「わ…わかった……」
それだけ言うと、シカマルも照れ隠しにシノから顔を背け、空を見上げた。
雨が通りすぎた後には、爽やかな風がふき、すがすがしほど晴れた空が広がっていた。





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あとがき
シカシノ初書きものです。
シカマルはけっこう恥ずかしがらずにズバッと言うような気がします。
そしてシノの判断基準はキバのような気がします。