シロアリ、ゴキブリ等の害虫でお困りの方は、油女一族までご連絡下さい
「ラッアメン、ラッアメン♪ 久しぶりの一楽のラーメンだってばよ~vvv」
任務を終え里に帰ってきたナルトは、真っ先に一楽へと向かっていた。
久々の愛麺に鼻歌交じりで足取りも軽い。
しかしその一楽に到着したナルトは、少し離れた場所で「ん?」と足を止めた。
一楽の店主テウチと、その娘アヤメが店の外で顔を曇らせ立っていたのだ。
「どうしたんだってばよ」
「おぅ、ナルト」
「それが…」
ナルトが駆け寄って尋ねれば、テウチとアヤメが振り返る。
とその時、ふと一楽の暖簾が上がり、中から現れたのは……。
「シノ…!」
高い襟で口元まで覆い、鈍く光る黒眼鏡で目を隠した、怪しさ満点の油女シノだった。
「お前、何やってんだってばよ」
ナルトが目を丸くして問う。
だがシノはそんなナルトに、多分、一瞥をくれただけですぐにテウチに向かい、ナルトを無視する形で淡々と告げた。
「除去は済んだ。取り敢えず消毒も済ませたので営業に問題は無いでしょう」
「そうか…! そいつぁ良かった」
「しかし万が一のため、これを置いていく。一般的に害虫と呼ばれる虫をある程度排除することの出来る防虫剤だ。
無味無臭。衛生的な安全は油女一族が保証する」
「ああ、有り難い。助かるよ」
「礼には及ばない……仕事だ」
「・・・・」
テウチとシノのそんな遣り取りを、ナルトはポカンとして眺めていた。
そして一体何なんだとアヤメに聞けば、アヤメは事の次第を説明してくれた。
なんでも開店準備をしていた時、黒光りする憎いアイツ――害悪の代表とも言える、その名も『ゴキブリ』――を店の中で見つけてしまったらしい。
発見したヤツはテウチが仕留めたのだが、ヤツは一匹いたらその数倍は居る可能性があり、
それは飲食店としては非常に困る……というわけで、害虫駆除の任務を、油女一族に依頼したのだそうだ。
もちろん、ランクはDランクの任務。よって、下忍のシノが派遣されてきたというわけである。
「はぁ~……そんな任務もあんのか」
「あら、知らないの?」
ナルトが気の抜けたような、間抜けな反応を示すと、アヤメはちょっと驚いたように言った。
「虫の事で困ったら、油女さんに頼むのは常識よ?」
「あ…あぶらめサン………」
ナルトが苦手なシノの一族は、しかし存外、里の人から親しまれていたらしい。
まあ確かに、虫に関しては油女一族以上に信頼できるものも無いと、ナルトも思うが。
では…とテウチとアヤメに一礼して去っていくシノの背を見つめながら、ナルトはふ~ん、と鼻を鳴らした。
そして。
「シノシノ…!」
一楽の営業が今日は昼過ぎからだと聞いたナルトは、シノの後を追い掛けていた。
「何だ」
ピタと立ち止まり振り返るシノ。
ナルトも足を止めてシノの前に立つと、意気揚々として言った。
「オレんチにいるのも、退治してくれよ!」
「お前の……? そう言えば、出たと言っていたな…」
以前、尾行虫という虫を探しに行った際、ナルトはその写真を見るなりコイツなら家に居たと言い出し、
それが実はゴキブリだった…という勘違いも甚だしい事があったのだ。
「また出たのか」
「否…最近は見てねぇけど。でもたぶん、居るってばよ。一匹いたら数倍居んだろ?」
「………だが、俺は任務でやっている」
「そんなこと言うなって。友だちだろ~?」
渋い顔をしたシノに、ナルトが猫撫で声を出す。なあなあと、友情という切り札を使って強請れば、シノは小さな溜め息を吐いた。
「………分かった」
「ヤッタ!」
「ただし、俺はまだ仕事が残っている。お前の家は一番最後。それらが終わってからだ」
「それら…って、何個もあんのか?」
「数件ある。それから…」
きょとんとしたナルトに、シノは眉を潜めた顔を寄せて言った。
「……俺がするのは退治ではなく、駆除だ」
そうしてシノにゴキブリ退治の約束を取り付けたナルトは、しかしどうせ暇だからと、その後もシノにくっついて行った。
シノが行った先は、多くの忍が居住している集合住宅と、アカデミー、そして無農薬で野菜を育てている農家だった。
「…………」
そしてその農家に辿り着いた時、シノの機嫌は最大級に悪くなっていた。
「なあ……なあって、シノ…」
ひょこひょこと付いてきたナルトは呼び掛けたものの、不機嫌オーラを漲らせて振り向いたシノに、ビクリとして身を縮める。
しかしまあ、シノが怒るのも無理は無い。
シノにくっついて行ったナルトは、任務の邪魔はするなと厳しく注意され釘を刺されたにも関わらず、行く先々で大いに邪魔をしてしまったのだ。
集合住宅のシロアリ駆除では、被害も無く、脆(もろ)くもなっていなかった壁まで見事にぶち破り、
アカデミーの足長バチ駆除では、生徒達を近付かせないようシノがイルカに忠告している傍から不用意に巣に近付き、
追い掛けられた挙げ句刺されてしまった。
しかもその刺された部位というのが、なんと尻。
蜂に刺された場合の応急処置は、まず蜂や蜂の巣から離れ、そして刺された箇所から毒を吸い出すことである。
もちろんシノは、きちんと対処した。
しかもその上、流水で洗い冷やしたナルトの患部に持参していた油女一族秘伝の虫刺され用の薬を塗り、
更には、ナルトを暫しイルカに任せると足長バチの巣の撤去もしっかり終わらせて来たのである。
さすがシノ、まさに忍の鑑(かがみ)…と、ナルトはおだてたが効果は無く。
シノは文句こそ言わなかったが、機嫌の悪さはビシビシと伝わってきた。
「はぁ~」とナルトが溜め息を吐く。
薬を塗ってもらったナルトの尻は、それでも痛みと腫れが残っている。
シノ曰く一週間もしない内に消えるそうだが、今のナルトには何より歩きにくいのが難点だ。
けれど、ナルトはめげずにひょこひょことシノに付いてきた。
ゴキブリ退治をさせるためとは言え友情を振りかざしておいて、このままというわけにはいかないだろう――と思ったからだ。
そんなわけでナルトが暫し遅れて追い付くと、シノは農家の人と何やら遣り取りをしていたが、
何をしているのかとナルトが覗き込もうとした途端、「もう終わった」と入れ違うように踵を返した。
「え…もう?!」
「任務は慎重且つ迅速にこなす…それが鉄則だ」
「でも、じゃあ、今回は退治しねーのか?」
ナルトが慌ててシノを追い掛け尋ねれば、シノはピタと足を止めて振り向き、ズイとナルトに顔を突き合わせる。
ナルトはその気迫に少々圧されたが、喉を鳴らしただけで後退りはしなかった。
「………同じことを二度言わせるな。俺がしているのは退治ではなく、駆除だ」
「…そ…それの、何が違うんだってばよ……」
気圧されながらもグググと粘り、ナルトも負けじと言い返す。
するとシノは暫く沈黙した末に、身を離し、少しだけ怒気を緩めて答えた。
「……駆除とは、追い払い取り除くことであり、退治とは基本的に、害悪を滅することだ」
「ほとんど同じじゃねーか」
「『ほとんど』だ。同義ではない…」
そう言ってシノがふと視線を逸らせたので、ナルトもそちらを向いて見る。
するとそこには、無農薬野菜の畑が広がっていた。
「………虫は、人の害と成り得るが、悪ではない」
「?」
ぼそりと呟かれたシノの言葉に、ナルトはシノの方へと目を移した。シノもまたナルトを見、そして続ける。
「虫は、住み良く繁殖に適した場所ならどこにでも湧く。だがそれは何も人を困らせようとしているわけではない。
ただ、そこで生きようとしているだけだ」
「………」
「しかし人と虫に限らず、異なるものが共存するためには互いの領分を守らなければならない。
それが侵されれば排除の対象となる。俺達が虫を害虫と呼び排除するように。また足長バチがお前を、排除しようとしたように」
「………」
「そしてそれは、当然のことだ」
「………」
「…だがなナルト。それに際し、わざわざ命を奪うことは無い。こちらのテリトリーから追い出せれば用は足りる。
こちらが少し注意をし気を付ければ、無益な殺生をすることなく共存できるのだ」
そう言うシノはとても真剣な表情をしていて、とても大事なことを言っているのだということはナルトも感じた。
が。
「………」
「………」
「……………え~っと…」
シノの話を聞き終えたナルトは、暫し放心したように呆けてから、徐に言った。
「…つまり~その~あれだ! え、と……なんだ…??」
そんなナルトの反応に、シノが珍しくあからさまな溜め息を吐く。
「もういい…」
「え…あ、いや」
「とにかく」
だが焦るナルトに、シノは改めて背筋を伸ばし向き合うと、いつもの調子で言い切った。
「ゴキブリを見つけても安易に殺すな。キバなどはすぐさま潰しにかかるが、それは好ましくない。…俺が言いたいのはそういう事だ」
分かったか、と言うシノに、
「わ…分かったってばよ!」
と、それなら分かると意気込んで返事をするナルト。
シノはそれに頷くと、踵を返して歩き出した。
「では、お前の家に行こう。侵害されたお前の領分を取り戻さなければならない」
「お……おうっ!」
なんだかんだで機嫌が若干直ったらしいシノの言葉に、ナルトがぱっと笑顔を浮かべる。
そして元気一杯にシノを追い掛けようとして――尻の痛みに転び悶えた。
その後、ナルトが家に着くなりシノに部屋の片付けを厳しく言い付けられたことは、余談ではあるが追記しておこう。
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あとがき
今回の題名、「シロアリ、ゴキブリ等の害虫でお困りの方は、油女一族までご連絡下さい」は、
ラジオCD『オー!NARUTOニッポン其の十三』、油女シノ役の川田紳司さんの回の冒頭で、
シノ…もとい川田さんが言っていたセリフです!
それを聞き、更にアニメで尾行虫の話を見てから案だけは浮かんでいたのですが、
ずっと怠けて(半分忘れて)書いてなかった
害虫駆除任務のシノ。
それが、2/4のアニナルおまけに触発されていてもたってもいられず、
このネタを書くなら今しかないっ!!
…と、書いてしまいました。。ほぼ四年越しのネタですねw
ナルシノなのは、CDでのお相手がナルト役の竹内順子さんだったからです。
それから、家にゴキブリ居たのがナルトだったから。
アニナルおまけへの賛美とはしゃぎ様は
こちらで見ることができますが、ここでも一声。
ゴキブリを守るシノ、最高―――っ!!!(笑)
虫や、異なるものとの共存は難しいです。もちろん人間同士でも。
互いの領分を守るのはやり方の一つと思いますが、もっと別の共存方法も有ると思います。
ゴキブリを生かしておくことが良いことなのか。叩き潰すのが悪いことなのか。
それは分かりませんが、取り敢えず私は殺せませんw
優しいからとかではなく、たんに怖いから。生きているゴッキーより、殺す方が怖いです。
また今回、ナルトがアシナガバチに刺されてしまいましたが、どうぞ蜂にはお気を付け下さい。
特にスズメバチには…! 命に関わりますので!
ミツバチやアシナガバチはスズメバチ程危険では無いようですが、刺されて重症の場合、じんましんや発熱、嘔吐などがあるそうです。
応急処置ができても、必ず病院に行って診てもらってくださいね。
え…? ナルトは行かなくて良かったのかって?
大丈夫! ナルトは専門家の油女さんに処置してもらいましたから!(笑)
奈良印の薬剤や、油女印の虫グッズとか、木ノ葉で売ってないかなぁwww
(10/2/6)