ひとりより
よく晴れた、秋の日。キバはナルトとシカマルと一緒に新しくできた甘味処に来ていた。
「いいよなぁ。お前等の班は仲良くって…」
キバがぽつりと呟いた言葉に、少し驚いて顔を上げたナルトが反論した。
「仲良くなんかないってば! サスケの奴はすっげームカツクし! サクラちゃんはサスケのことばっかだし……」
「ウチも、連携はいいと思うけど。別に仲良くってわけじゃねーぞ? 特にイノとか。口わりーし。よく怒鳴るし」
シカマルも、気怠げに返した。
だが、キバはむうっと不満げな表情をして二人に聞く。
「でもよ、一緒に飯とか行ったりすんだろ?」
その問いに、ナルトもシカマルも「まあ…」と答えた。
「ウチはそれすらねえ。つーか、会話がねえ」
「そりゃ、ヒナタとシノ、だもんなぁ……」
「そうなんだよ。静かすぎんだよ、あいつら!ヒナタはな、まだ良い。あのおどおどしてはっきりしねーのは
たまに焦れってーけど、でもなんとかこっちに合わせようとしてるからな。問題はシノ!奴だ!!」
「我が道を行くタイプだもんなぁ……」
「とにかく何もしゃべらねえ! 必要最低限のことしか言わねえ! 偉そうに仲間だチームワークだ言う割に
一人で行動するしっ、あのグラサンと無表情でなに考えてんだか全くわかんねーし!!」
「俺も、シノは苦手だってばよ」
うんうん、とシカマルとナルトが共に相槌を打つ。
「今日だって、誘ったんだぞ!わざわざ俺が!それを『断る。用事がある』だぞ!!巫山戯んな!!」
「そりゃまた、端的にふられたな」
「変な言い方すんな! ふられたわけじゃねえ!!」
犬歯を覗かせ、シカマルに怒鳴ったキバは、腹立ち紛れに堅焼き団子を頬張った。
「でもよ、別に無理して仲良くしなくていいんじゃね? チームワークとかって言うんなら、奴だって協力的なんだろ。
任務に支障出ること絶対しなさそうだし。問題ないだろ」
「そういう問題じゃねえんだよ! ムカツクの! 休憩時間とか帰る時とか一人でいるの見ると、なんかこう……とにかくムカツクんだよ!!」
「そりゃ、あれだろ……」
キバが、ムキになって言うと、シカマルが茶を啜ってから言った。
「犬は、群れで生活するからはぐれ者を見つけると仲間に入れようとすんだろ?」
「ああ!だから、キバはシノを放っておけないのか!なるほどぉ…」
シカマルの発言に、納得と感心を織り交ぜてナルトが大袈裟に頷いて見せた。
「…………犬を馬鹿にするつもりはねーけど……」
そんな二人に、キバはどんどん怒りのボルテージを上げ、ついに爆発した。
「俺は、犬じゃ、ねえ!!!!」
帰り道。
結局、8班…というよりシノと仲良くなる方法は誰からも出ず、キバは深い溜め息をついた。
丁度川の橋にさしかかったところで、ふと土手を見やると、噂の人物がやはり一人で佇んでいた。虫を放ってる所を見ると、修行している様だ。
「あんにゃろ。俺の誘い断っといて修行かよ。だったら、そう言えっての……」
腹立たしさが再び込み上げてきて、キバは考えるより先にシノに突進していた。
「……キバ………?」
猛然と突っ込んでくるチームメイトの気配に気付いたシノは、振り返り、何事かと内心で少々驚きつつ身構えた。
避けることもできるが、川に突っ込まれて風邪でも引かれたら後々面倒だと判断した。
「ぅおりゃああああ!!!」
威勢の良い掛け声と共に、キバは勢いのままシノにタックルを仕掛けた。
シノは一度キバを受け止めたが、単純な力でキバに敵わないことは重々承知している。すぐに身を引き、キバの力を逆に利用して受け流す。
しかしそこはキバも、シノの戦い方を心得ている。受け流され、空に浮いた体をひねって着地し、シノに体勢を整える間を与えず飛び掛かった。
いつもなら蟲の出番だが、何故か今回は現れず、シノはあっけなくキバに組み伏せられた。
「………なんで蟲つかわねーんだよ」
「………そっちこそ、何の用だ」
土手の上で顔を突き合わせ、お互い疑問をぶつけあう。
しばらくそのままの体勢で沈黙したが、徐にシノが口を開いた。
「虫を使わなかったのは、必要がないからだ。今は、任務でも演習でも修行でもない」
「……一人で修行してたんじゃねーの?」
「そう思ったから突進してきたのか?」
シノの言葉に、キバは口を噤んだ。そう言う訳ではない。なぜかと聞かれると、自分でもなぜこんなことをしているのか、わからない。
だが、シノはそれを肯定と受け取ったのか、自分を押さえ付けているキバを押し返しながら静かに言った。
「修行に協力してくれようとしたことには、礼を言う。だが、それは勘違いだ」
力を抜いてシノに素直に押し返されたキバは、立ち上がって不思議そうに言った。
「じゃあ、何してたんだよ」
「探していた」
「……何をってのが抜けてるぞ」
自分の後に立ち上がったシノの台詞につっこみを入れる。本当に、言葉足らずな奴だ。
「………ナツシノギ」
「は…?」
「蝉だ」
「セミ…って、お前…もお、秋だぞ。熱でもあんのか」
虫使いが、虫の常識を忘れてしまったのかと心配になり、思わず額に手を当てる。その手を払うことなく平然と受け入れて、シノは言った。
「ナツシノギは、秋の中ごろまで木で過ごす。鳴かなくなるだけだ。寿命が来たら一斉に地に落ち、土の養分になる」
「へぇ~。で、そいつを何で探してるんだ?」
額から手を離したキバの問いに、シノはうむと頷いて河原の方に向かった。その後に続くと、虫籠が置いてある。中には、小柄なセミが一匹。
「こいつを、仲間の元へ帰してやろうと思ってな」
その答えに、キバは目を丸くする。
「何でだよ。だって、後は死ぬだけなんだろ。死んだらどっかに埋めてやるだけでいいじゃん」
「否。ナツシノギは、わざわざ一所の木々に集まって共に土に帰るものだ。観察のために幼虫の時から引き離してしまったからな」
最後は帰してやりたい、といつになく穏やかな声で語るシノを、キバは凝視した。
「お前って、わっかんねー。仲間意識強いクセに、なんでいつも一人なんだよ」
キバの言葉に、シノは籠の中の蝉からキバに視線を移す。
光の加減からか、いつも黒いグラスに隠された目が瞬きをしたのが見て取れた。
「一人でも、仲間だと思っている。一緒にいる必要はない」
「ん~?……それって、矛盾してねえ?じゃあなんで、今、其奴を帰そうとしてんだよ」
シノは、其奴、とキバの指した蝉に再び目を向ける。
そんな時、一匹の寄壊虫が知らせを持ってやって来た。ナツシノギの宿る木々を見つけたのだ。
シノは籠の蓋を開け、そっと蝉を籠から出した。初め、全く動かない蝉にキバは死んでいるのかと思ったが、
シノが小さく口を動かすと、言葉を理解したようにふるりと体を震わせ羽根を広げて飛び上がった。ふらふらと、
しかし一直線に川向こうの森へと向かって飛んでいく。その姿を、シノもキバも黙って見送った。
「…………やっぱ、仲間は一緒に居るもんだろ」
ぽつりと、キバが呟いた。
「………そう…だな…」
シノも、呟く。そして、ふいに川向こうを見ながら言った。
「これから、時間はあるか?」
「ん?ああ、あるけど…?」
キバはシノの方を見て答える。
「……散歩でも、どうだ。………一緒に」
慣れない様子で誘うシノに、キバは驚くと同時になぜか満足感を感じた。
「おう!いいぜ、一緒に!」
満足感に満面の笑みを浮かべ、正面を向いたまま佇むシノの肩に腕を回して強引に引き寄せる。
勢いが有りすぎたのか、シノは眉を寄せた。だが、それは見なかったことにして、キバは言った。
「一人より二人の方がぜってー楽しいからな!!」
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またしても秋の話ですみません。
そして赤丸がいないことは……気付かなかったことにしてください。
(07/1/26)