※カカシノ初。甘め。




親しくなりたくて、つい

「…………………返してください」
不覚としか言いようがなかった。
シノは、つい、春の陽気に眠気を誘われて、公園の木にもたれ掛かりうたた寝をしてしまった。
そして不覚にも、サングラスを奪われてしまったのだ。
キバならば、不機嫌な声を出せば大抵返すし、もしからかってきても沈黙すればいずれは飽きて返す。
しかし、この人は…………どうすればいいのだろう。
シノは、やっと焦点のあった視界に、思いも寄らぬ人物を捉えて途方に暮れていた。
自分のサングラスを奪った人物の名は、畑カカシ…第7班の担当上忍。
なぜこの人が、こんなところで、自分のサングラスを奪い、手で玩んでいるのか。シノは甚だ疑問で仕方がなかった。
取り敢えず、返してくれるよう、頼んでみたのだが……。
「ん~。もう少し」
そう言って、カカシはにこにこと笑いながら返す様子がない。
「何か、俺に用事ですか?」
シノはサングラスは一旦諦め、何故カカシがここにいるのか突き止めることにした。
「いやぁ?特に何も…。ただ、君があんまり気持ちよさそうに寝てたんで、悪戯したくなっちゃって」
カカシの答えに、シノは眉を寄せた。失礼かと思ったが、どうにも納得できないので、はっきりと聞いてみた。
「失礼ですが、俺はあなたに悪戯されるほど親しい間柄ではないと思うのですが……?」
「そうだね。言われてみれば確かに、初めて話したっけ。俺の名前は覚えてるよね? 畑カカシ。君は…油女シノ君だよね?」
「はぁ…まあ……」
カカシの少しズレた反応にシノは一瞬飲まれそうになったが、そこはなんとか気を取り戻し、より意図を明確にして聞き直した。
「あ…いえ、俺が聞きたいのは、カカシ先生が何故親しくもない俺のサングラスを奪うような悪戯をしたのかと言うことです」
するとカカシは少し考えるような仕草をしてから、やはり笑顔で答えた。
「う~ん…。君と親しくなりたくなったから……かな」
絶句した。
つまりこの人は、たまたまうたた寝をしている自分を見つけて、唐突に親しくなりたいと思い、サングラスを奪ったと言うのか……?
「何故…俺と親しくなる必要が……?」
つい、聞いてしまった。どうしてもカカシと自分がこのような状況にあることが納得いかなかったからだ。
しかし、カカシは不思議そうな顔をしてシノの顔を覗き込んだ。
「親しくなるのに、必要性なんていらないでショ。ただ、仲良くなりたかったから」
そう言ってから、カカシは「ああ、でも…」と思い出したように付け足した。
「ナルト達がね、君の素顔を見たことがないって言ってたから、見てみたいなぁと思ったのもあるね」
楽しげに語り、自分の顔を覗き込んでくるカカシに、シノはどうしていいかわからずほとほと困って、眉間の皺を増やした。
そんなシノを余所に、カカシはシノの顔を観察してしみじみと感想を洩らした。
「シノって、案外可愛い顔してるね。目もきれいな琥珀色で、色も白いし」
カカシの唐突な台詞に、シノは目を見開いてカカシを見やった。カカシはそんなシノの驚きの視線ににこりと微笑んで返す。
シノはビクリとして顔が赤くなった。
いつもサングラスで隠した瞳が露わにされて、その上まじまじと観察されて。
自分の隠してきた部分を見透かされたような気がして、急激に恥ずかしくなったのだ。
大慌てでシノは俯き、顔を隠した。
何年もリズムを崩さなかった心臓がバクバクと脈打ち、冷めていた体が頭からつま先まで熱くなる。涙まで出てきそうだ。
そんな変化を、今まで経験したことがあっただろうか。否、無い。無いと言い切れる。
「シノ? ほら、顔上げて」
カカシに言われ、流石に伏せたままでは埒があかないので、シノはおずおずと顔を上げた。すると、サングラスを掛けられた。
「…………ありがとう、ございます」
色鮮やかな見慣れぬ世界から一変。見慣れたモノトーンの世界に、シノは安堵し、心臓も熱も徐々に収まっていく。
が、次のカカシの台詞に、またしても顔が熱くなった。
「やっぱり可愛い」
「……………煩い」
上司であることも忘れ、シノはつい、真っ赤な顔でカカシを睨んでいた。





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あとがき
災難のはじまりはじまり(笑)












(07/1/26)